レコード会社やマネジメント事務所に所属していない(インディペンデントな)音楽アーティストを支援する一般社団法人B-Side Incubatorが、5月1日に設立された。
同団体には「インキュベーション」「スクール」「シンクタンク」の3つの機能が存在。
それらを通じ、インディペンデントに活動するためのスキルやノウハウを提供したり、アーティストを支えるための新たな資金の流れをつくったりと、新しいエコシステムの構築を目指すとしている。
音楽が無料で聴けて当たり前になりつつある現代
YouTubeやSpotify、Apple Music、LINE MUSICなどの音楽ストリーミングサービスが普及しつつある現代。
音楽ディストリビューションサービスにより、レコード会社やマネジメント事務所を介さずとも音楽作品を各プラットフォームに配信できるようになり、テレビ・ラジオなどのマスメディアに頼らない、SNSでの広報活動も当たり前になった。
2010年代以降、インディペンデント・アーティストが活躍できる土壌は整いつつある。
しかしその一方、シンガーソングライター/音楽プロデューサーのジェイムス・ブレイク(James Blake)が3月に自身のXで提言(外部リンク)したように、音楽は無料で聴けて当たり前のものになりつつある。
プラットフォームやレーベルは、アーティストに十分な対価を支払えてないと指摘する声も上がっている。
また、インディペンデント・アーティストの場合、その上で楽曲制作からプロモーション、資金調達、ファンとのコミュニケーションまで、すべて自身で担わなくてはならない
そういった背景の上で、インディペンデントに活動する音楽アーティストを支えるコミュニティとして今回一般社団法人B-Side Incubatorが立ち上げられた。
音楽ライターつやちゃんが理事 B-Side Incubatorの3つの機能
B-Side Incubatorは代表理事に『WIRED』日本版エディターの岡田弘太郎さんが就任。
理事は、音楽プロデューサーのstarRoさん、シンガーソングライター/音楽プロデューサー/DJのマイカ・ルブテさん、Vegas PR Group代表/ZAIKO共同創業者のローレン・ローズ・コーカーさん、音楽ライターのつやちゃんがつとめる。
B-Side Incubatorが提供するのは以下の3つの機能だ。
各アーティストが理想とする活動スタイルの実現に向けて、法律・契約や音楽プロモーション、コンセプトメイキングなどの多分野の専門家によるメンタリングや、審査員による審査の上で1組あたり最大100万円の活動資金を提供(初回は最大3組を予定)。
そのほか審査員の音楽プロデューサーやトラックメイカーとの楽曲制作の機会や、ショーケースライブへの出演機会を提供する。
※プログラムの公募開始は、2024年末ごろを予定。
インディペンデント・アーティストが持続的に活動するために求められるスキルやマインドセットをともに考える講座。
「持続的な音楽活動のためのチームをどのようにつくるのか?」や「普段の制作活動とクライアントワークのバランスをどう取るのか?」など、音楽活動をする上で直面する課題に、各分野の専門家による講義やワークショップを通じて向き合っていく。
※2024年5月にプログラムの詳細を発表し、7月の開講を予定。
音楽クリエイターエコノミーの分野の多様なステークホルダーと連携しながら、先端テクノロジーや国内外の業界動向に関する調査報告を実施する。
設立記念にトークセッション実施
一般社団法人B-Side Incubatorの立ち上げを記念し、5月16日(木)19時30分より東京・MIDORI.so SHIBUYAで、イベント「B-Side Incubator Launch Party」が開催。
プロジェクトの紹介や、理事メンバーによるトークセッション、ミートアップが行われる。参加費は無料。
B-Side Incubatorの運営メンバー
岡田弘太郎(Kotaro Okada)
一般社団法人B-Side incubator代表理事。一般社団法人デサイロ代表理事。『WIRED』日本版エディター。クリエイティブ集団「PARTY」パートナー。そのほか、アーティスト・マネジメントやスタートアップの編集パートナーなどを経験。アーティストや研究者、クリエイター、起業家などの新しい価値をつくる人々と社会をつなげるための発信支援や、資金調達のモデル構築に取り組む。『WIRED』日本版のカンファレンスやデサイロ主催の「DE-SILO EXPERIMENT 2024」では、本団体に理事として参画しているstarRo、マイカ・ルブテを筆頭に多分野のインディペンデント・アーティストとプロジェクトを展開。WIRED.jpでは、クリエイターやアーティストが持続的かつ自律的に活動するための新しい経済圏の構築を考える連載「For Creators」を担当。1994年東京生まれ。慶應義塾大学にてサービスデザインを専攻。「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023」選出。
starRo
横浜市出身、秋田県仙北市を拠点に活動する音楽プロデューサー。 2013年、ビートシーンを代表するレーベル「Soulection」に所属し、オリジナル楽曲から、フランク・オーシャンやリアーナなどのリミックスワーク、アーティストへの楽曲提供なども行なう。16年に1stフルアルバム『Monday』をリリースし、The Silver Lake Chorus「Heavy Star Movin’」のリミックスがグラミー賞のベスト・リミックス・レコーディング部門にノミネートされるなど、オルタナティブR&B、フューチャーソウルなどのシーンを中心に注目を集める。音楽活動の傍ら、自身の活動経験、海外経験を活かし、インディーズ支援団体「SustAim」を立ち上げ、執筆やワークショップを通して日本のインディペンデント・アーティストの活性化のための活動にも従事。23年には、秋田県仙北市の地域おこし協力隊に任命される。リトリートや音楽を軸に仙北市の魅力を伝え、同時に仙北市に住む人びとと深く関わるようなプロジェクトを展開。そうした一連の活動を通じて、社会におけるアーティストの役割や持続的な活動スタイルを探求する。
マイカ・ルブテ(Maika Loubté)
東京在住のSSW/音楽プロデューサー/DJ。幼少期から十代を日本パリ香港で過ごす。先進的なエレクトロニックミュージックを基軸としながら、テクスチャーをはぎ取ったオーセンティックな「歌」そのものを重要視している。少人数のマネジメントチームとともにインディペンデントに活動しながらも、国内外のアーティストとのコラボレーションやサウンドプロデュース、リミックスなど多岐にわたり活躍する。20年10月リリースのシングル「Show Me How」はマツダ「MAZDA MX-30」のCMソングに起用された他、agnes b.・SHISEIDO・GAPなどのブランドとのコラボレーションも果たす。20年には「MUTEK.JP 2020」にてパフォーマンスを披露、24年には「DE-SILO EXPERIMENT 2024」にて研究者とのコラボレーションにより制作した楽曲「心象volcano」を発表するなど、実験的な表現活動を続けている。2023年、最新アルバム「mani mani」リリース。
ローレン・ローズ・コーカー
Vegas PR Group代表、ZAIKO共同創業者。米国・シカゴ出身。2008年にシカゴ大学を卒業後、同年に来日。翌年にはコンサートプロモーターの株式会社キョードー東京入社。2013年より株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントにて新規事業や渉外を担当。19年1月、電子チケットを通じてアーティストとファンが直接つながることができる「Direct to Fan=D2F」モデルを実装したプラットフォームであり、音楽クリエイターエコノミーの活性化を目指したZAIKOを共同設立し、同年から内閣府知的財産戦略本部の構想委員会委員を務める。23年に海外向けに日本のコンテンツプロモーションを行うPRマーケティング事業、Vegas PR Groupを設立。現在、アーティストやそのコミュニティがグローバルシーンにて活躍するためのサポートを行う。
つやちゃん
文筆家。音楽誌や文芸誌、ファッション誌などに寄稿。メディアでの企画プロデュースやアーティストのコンセプトメイキングなども多数。活動初期のアーティストの発掘や育成をコンセプトとするオーディションやアワードに審査委員として参画。著書に『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)など。2024年には、国内外のミュージックシーンを席巻する新潮流「オルタナティヴR&B」について紹介した書籍『オルタナティヴR&Bディスクガイド』(DU BOOKS)を刊行。
古島海 (Kai Kojima)
1998年神奈川・横浜生まれ。編集者、サービスデザイナー。スタートアップ(非営利を含む)を中心に運営や発信をサポート。学生時代には大手音楽プロダクションに所属しつつ、ライブハウスを中心したインディペンデントシーンにて、バンド活動。21年より、「誰もが楽しめる夜をつくる」をミッションに掲げる合同会社NEWKSOOLにてナイトデザイン事業に携わる。夜間遊休施設を活用したライブイベントの開催や、COVID-19からナイトタイムが復興するための施策をまとめたレポートの制作などに取り組む。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科にて「閑のある生活」を提供できる都市のデザイン。サービスデザインを先行しつつ、サウンドスケープをテーマとした産学連携プロジェクトで活動。その後、23年より現職。