UFC月間レポート:2024年4月

UFC 300:ジャン・ウェイリー vs. ヤン・シャオナン【アメリカ・ネバダ州ラスベガス、 2024年4月14日(Photo by Carmen Mandato/Getty Images)】

3回しかイベントがなかった月については、たいていは月間賞を選ぶのが困難になるものだ。それはスリリングな試合や巧みなサブミッション、目もくらむようなノックアウトのサンプル数が少ないことに起因する。しかし、この4月については、そういった難しさを抱えることはなかった。UFC 300のおかげだ。

月の半ばに行われた記念的なUFC 300は、高い期待をさらに上回り、今月のレポートで取り上げられるべき明確な候補を輩出している。

ラスベガスで開催されたランドマーク的なイベントの前後で戦ったすべてのアスリートに敬意を示しつつも、あのイベントが今月の傑出したパフォーマンスを選ぶ上で与えたマグニチュードは大きかった。下記で紹介する勝者のそれぞれが、今年の後半戦に向けて自分の属する階級に大きな影響を与えるような、重要な白星を挙げている。

2024年4月に“ベスト・オブ・マンス”に輝いたのは下記の面々だ。

ブレイクアウト・パフォーマンス:ケイラ・ハリソン

UFC 300に向けて話題の中心となっていたのは、ハリソンのオクタゴンデビューだった。とりわけ、無事に計量をパスできるかに注目が集まっていたが、ハリソンがファイトウィークに絞られた体で姿を現すと、その懸念は払拭された。

ハリソンが現地12日(金)の朝に計量をクリアしたことで、元チャンピオンのホリー・ホルムを相手にどれほど戦えるかという疑問だけが残った。オリンピックに2度出場しているハリソンは、その疑問にも鮮やかに答えている。

試合序盤にホルムはハリソンの最初のヒップトスを巧みにかわしたものの、柔道仕込みのハリソンは試合をグラウンド戦に持ち込み、トップポジションを獲得。そこからハリソンはUFCでの初戦で、これまで女子バンタム級にはいないタイプの強敵であることを見せつけた。

隙あらばアームバーを狙うロンダ・ラウジーとは違い、ハリソンは容赦なく強烈なエルボーを浴びせることでホルムを追い込んだ。第1ラウンドと同じく第2ラウンドでもハリソンはホルムに対して、このままの体勢で打撃を受け続けるか、それとも背を見せて絞め技をかけられる危険を冒すか自分で選べ、と言わんばかりのジレンマを突きつけた。

ホルムは後者を選び、それに応えたハリソンはオクタゴンデビュー戦で第2ラウンドフィニッシュ勝ちという圧倒的な勝利を収めチャンピオンを狙える選手であることを早くも示している。

ハリソンは年内にUFC女子バンタム級の王者になると発言している。名高いオクタゴンでの初挑戦で、ほぼ完璧なパフォーマンスを見せたハリソンは、その夢を実現する機会を早い段階で手にするはずだ。

特別賞:ジェアン・マツモト、セザル・アウメイダ、ノーラ・コノール、ウロシュ・メディチ、ボグダン・グスコフ

サブミッション・オブ・ザ・マンス:コーディ・ガーブラントに1本勝ちしたデイブソン・フィゲイレード(UFC 300)

4月に行われたペイパービューの最初の試合で、元フライ級チャンピオンのフィゲイレードが見せたフィニッシュは、ネット上を騒がせるようなものではなかった。とはいえ、それはフィゲイレードがバンタム級のデビュー戦で見せたスタイルがまぐれではなかったことを示し、この才能あるブラジル出身の選手が新たなアプローチを取り入れようとしていることを示唆している。

多くのファンは、フィゲイレードが元チャンピオンのガーブラントの顎の強度を試すかのように激しい打ち合いになることを予想していた。ところが、昨年12月にバンタム級での初試合でロブ・フォントに勝利した時と同じように、レスリングの技を多用したフィゲイレードが一定の距離を保ちながら放った打撃はわずか15発。唯一試みたテイクダウンは切られている。しかし、フィゲイレードは諦めず、第2ラウンドにガーブラントをキャンバスに沈めると、それ以降はスタンドでの攻防を許さなかった。最終的には背後に回り込んで試合終了のリアネイキッドチョークを決めている。

フィゲイレードはフライ級時代に破壊力のある打撃を連発するパワーファイターとして君臨していたため、階級を上げてからも同様のスタイルを貫くものと思われた。これまでのところその様子はなく、逆に他にも武器を備えていることを披露し、新しい階級でより危険な存在になったことは間違いない。

ブラジル出身のフィゲイレードはフライ級で相手を圧倒し、一発の強烈な打撃で勢いを有利に、あるいはフィニッシュにつなげられると確信していた。バンタム級の対戦相手はより体格も良く、パワーもあることを理解した上で、フィゲイレードはアプローチをミックスすることを選び、これまでのところ功を奏していると言っていいだろう。

フィゲイレードは現在バンタム級で2勝0敗、ランキングで6位につけている。次戦はピョートル・ヤンあたりのトップ5に入る選手との対戦が予想され、もしここでも勝利を収めれば、“デウス・ダ・ゲーラ”の異名を持つフィゲイレードには、階級を転向した初年度にバンタム級王座を狙える道も開けてくるだろう。

特別賞:ジェアン・マツモト vs. ダン・アルグエタ、ハリソン vs. ホルム、クリス・パディーヤ vs. ハメス・ヨントップ

ノックアウト・オブ・ザ・マンス:ジャスティン・ゲイジーをノックアウトしたマックス・ホロウェイ(UFC 300)

今月に行われた他のすべての試合がノックアウトに終わったとして、それでもこの賞に選ばれるのはこの試合だっただろう。UFC 300でマックス・ホロウェイが最後の瞬間にジャスティン・ゲイジーに決めたのは、きわめて圧倒的で、まるで映画のようで、腹に響くノックアウトだった。

この試合では、もとよりハワイのスーパースターが存在感を発揮していた。大部分にわたってホロウェイがコントロールを握り、フェザー級のトップに上りつめ、BMFタイトルを争う位置に至るまでの過程で武器にしてきた長いレンジを活かす一方、第1ラウンドの終わりにスピニングバックキックでゲイジーの鼻を打ち砕いている。

ホロウェイは決してリードにあぐらをかくファイターではなく、擦り切れるまで戦うことを避けようとする選手でもない。攻撃を繰り出し続けたホロウェイは、試合が残り10秒になったことを知らせる音が鳴ったとき、数年前にUFC 199でリカルド・ラマスに向かってそうしたように、オクタゴンの中央で打ち合うようゲイジーにサインを送る。ヘビーなパンチを振るう両者に、T-Mobileアリーナの観衆と世界中のファンが狂喜した。

残り数秒で、ホロウェイの右腕がゲイジーの顎を捉える。顎を横殴りにしたその一撃によって、ライト級の傑出したアスリートであるゲイジーが顔からカンバスに倒れ伏した。その打撃はあまりにも予想外で決定的であり、ベテランレフェリーのマーク・ゴダード――素晴らしい水準の審判で知られる――が、ホロウェイの一撃でゲイジーがマットに崩れた際に、思わず声を出してしまったほどだった。

彼の名誉のために言っておけば、世界のほとんどの人々が、ゴダードよりはるかに冷静さを失っていたのは間違いない。

同世代の優れたファイターの中でもトップに位置する1人というホロウェイの評価は、フェザー級で収めてきた多くの成功によってすでに確固たるものになっていた。しかし、今回のパフォーマンスとフィニッシュは、それをさらに疑問の余地のないものとしており、“ブレスト”ことホロウェイには後半戦に向けて多くの選択肢が存在している。

この競技において、選択肢があるということは、常に素晴らしいことだ。

特別賞:イグナシオ・バハモンデス vs. クリストス・ジアゴス、セザル・アウメイダ vs. ディラン・ブドゥカ、ノーラ・コノール vs. メリッサ・マリンズ、アレックス・ペレイラ vs. ジャマール・ヒル、イリー・プロハースカ vs. アレクサンダル・ラキッチ、ディエゴ・ロペス vs. ソディック・ユサフ、ヘナート・モイカノ vs. ジェイリン・ターナー、ウロシュ・メディチ vs. ティム・ミーンズ、ジョナタ・ディニス vs. オーステン・レーン、ボグダン・グスコフ vs. ライアン・スパン、アレックス・ペレス vs. マテウス・ニコラウ

ファイト・オブ・ザ・マンス:ジャン・ウェイリー vs. ヤン・シャオナン(UFC 300)

記録上では、この試合は明確なユナニマス判定によるジャンの勝利に終わり、彼女はヤンとの歴史的なバトルを制して女子ストロー級タイトルを保持している。しかし、この試合を目にした誰もが、それが決して明快でも、平凡でもなかったことを決して忘れないだろう。

コラム“Bigger Picture(ビガー・ピクチャー)”では、この試合は「4部構成のファイト」と呼ばれている。なぜなら、実際に試合がそう進んだからだ。

ヤンの出だしは良かったが、第1ラウンドの終わりにはチョークで意識を手放す寸前まで来ていた。ジャンは第2ラウンドを通して優勢を保ち、このラウンドについては3名のジャッジ全員が10対8でジャンとしている。しかし、疲労が影響し、ヤンが第3ラウンドで巻き返す。すべての勢いを取り戻した様子のヤンが、チャンピオンシップラウンドの行方を分からないものにした。

第4ラウンドと第5ラウンドでは、ジャンがチャンピオンの気迫を見せる。ジャンは同胞でもある挑戦者をカンバスに押しとどめておくために必要なテイクダウンを決め、相手を逃すことなく打撃を入れ、サブミッションを狙い、勝利をつかむためのすべてをコントロールしていた。

スコアカードが示すよりはるかにコンペティティブで、果敢なバトルだった。この試合は2度の、そして現ディフェンディングチャンピオンをどう攻略するかを発見したと考えている女子ストロー級タイトル挑戦候補者たちの自信も、確実に高めたはずだ。

特別賞:チェペ・マリスカル vs. モルガン・シャリエール、ホロウェイ vs. ゲイジー、ボビー・グリーン vs. ジム・ミラー

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