夫の不倫を許さない“サレ妻”の執念「浮気相手の車にGPSつけた」 勝手に位置情報を収集…それって違法じゃない?

画像はイメージです(Taka / PIXTA)

妻が自分の不倫相手の自動車にGPSをつけたが違法ではないのか──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

相談者は自分の不倫をとがめるためにここまでするのかと驚いたといいます。妻に問いただしたところ、「あなたが仕事の出張と偽って不倫相手と旅行した時に、行き先を知るために付けた」との返事が。妻は探偵も雇っていたといい、「不倫の証拠集め」に熱心だったようです。

「夫の不倫相手とはいえ、他人の車にGPSをつけるのはマズいのでは」と相談者は考えているようです。浮気調査で特定の相手にGPSをつけることは違法なのでしょうか。またGPSで得た位置情報などは浮気の証拠になるのでしょうか。瀧井喜博弁護士に聞きました。

●GPSで得た証拠「ただちに使用不可というわけではないが…」

──浮気調査でGPSを使うのは問題ないのでしょうか。

まず、民事上の問題として、プライバシー権侵害を理由に損害賠償請求を受ける可能性があります。

探偵業者が配偶者の自動車にGPSを設置した事案ではありますが、近年の訴訟で、妻の依頼により不倫の証拠をつかむため、調査目的は正当であるが、やり方が相当性を欠いており違法だとして、探偵業者に対し、44万円の賠償が命じられるケースがありました。

この訴訟では、車がなければ移動困難な地域といった特殊性も考慮されており、一概にGPS設置が違法とまではいえませんが、自動車にGPSを設置する行為はプライバシー権を侵害する可能性もあるので注意が必要です。

──プライバシー権を侵害するような方法で集めた証拠を使うのは問題ないのでしょうか。

民事訴訟法では、証拠の選択および証拠の証明力の評価に関して、裁判官の自由な判断に委ねるという考え方が採用されています(自由心証主義)。そのため、違法な方法で集められたからといって、ただちに証拠能力(証拠として使用できる資格)が否定されることはありません。

しかし、その一方で、著しく反社会的な手段を用いて人の精神的、肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって収集された場合には、証拠能力が否定され、証拠として使用できないとされています。

たとえば、車に取り付けたGPSで取得した情報につき証拠として用いることができるか争われた民事裁判で、「(相手方の)精神的、肉体的自由を拘束するものではなく、その方法が著しく反社会的であるとまではいうことが困難」として、証拠能力が肯定された事案があります(東京地裁平成25年10月9日判決)。一方、刑事事件ではありますが、GPS捜査によって得られた証拠が排除されたケースも出てきています(最高裁平成29年3月15日判決)。

●刑法犯や条例違反に問われる可能性も

──刑事責任が問われることはあるのでしょうか。

特定の人の行動や居場所を把握するため、承諾なしに不倫相手の自動車にGPSを取り付ける行為は、各都道府県の迷惑防止条例に違反し、罰せられる可能性があります。

たとえば、大阪府の迷惑防止条例(大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)では、正当な理由なしに他人の所持する物にGPSをつける行為およびGPSで行動監視する行為(位置情報無承諾取得等)を禁止しています(10条1項2号)。そのため、不倫相手の承諾がなければ、GPSをつける行為のほか、GPSで行動監視する行為いずれも同条例に違反する可能性があります。

また、配偶者の自動車にGPSをつけ繰り返し行動監視した場合は、ストーカー規制法に違反する場合があります。同法に違反した場合、警察から警告を受けたり、被害者が法的措置を望んだ場合には公安委員会から禁止命令が発出されたりします。

GPSをつけること以外にも刑事責任を問われる可能性もあります。

GPSを設置するため不倫相手の自動車が停まっている駐車場等に無断で立ち入ると、駐車場等の構造や家との位置関係によっては、住居侵入罪または建造物侵入罪に当たり得ます(刑法130条)。立入禁止の場所への無断立入りとして、軽犯罪法(1条32号)に違反する場合もあります。 GPSを取り付ける際に故意に自動車の一部を破損させた場合には、器物損壊罪が成立する可能性もあります。

──GPSをつけることには一定のリスクがありそうですね。

GPSの取り付け、行動監視につき精神的、肉体的自由を拘束するものではなく、著しく反社会的とまでいえない場合は、民事訴訟において証拠として使用することは可能と考えます。一方で、具体的にどのような場合に証拠として使えなくなるかの正確な判断には、今後の裁判例の蓄積を待つしかないと言えそうです。

不倫を理由として離婚協議を行ったり、不倫相手に慰謝料請求したりする場合、不倫を示す客観的証拠を準備しておくことは重要です。

しかし、GPSによる行動監視が違法とされるケースも見受けられることから、今後プライバシー権がより重視されていく流れなのかもしれません。GPS設置による行動監視の適否と併せて、改めてプライバシー権とは何かを再考する時期に来ているとも言えそうです。

【取材協力弁護士】
瀧井 喜博(たきい・よしひろ)弁護士
「あなたの『困った』を『よかった』へ」がモットー。あらゆる「困った」の相談窓口を目指す、主に大阪で活動する人情派弁護士。自由と自律性を押し出す新しい働き方、楽しく成長し続けることができる職場環境として、「ブラック」でも「ホワイト」でもない「カラフル」な職場の構築、拡大を目指して、日夜奮闘中。
事務所名:弁護士法人A&P 瀧井総合法律事務所
事務所URL:http://takiilaw.com/

© 弁護士ドットコム株式会社