B2プレーオフ アルティーリ千葉対ベルテックス静岡の見どころ――雌雄を決する「幻のGAME3」はあるか?

5月3日(金・祝)に開幕する日本生命 B2 PLAYOFFS 2023-24のクォーターファイナル、アルティーリ千葉対ベルテックス静岡の見どころをまとめる。両チームは2022年のB3における初顔合わせ以来因縁のあるチーム同士。B2の2023-24シーズンにおいては、圧倒的な強さを誇ったトップチーム(A千葉)とワイルドカード下位に「滑り込みセーフ」だったチーム(静岡)だが、そのドラマを紐解けば非常におもしろいマッチアップであることがわかる。

どちらも自分たちを信じられる理由がある56勝4敗、勝率.933というA千葉の2023-24シーズンの快進撃は、B1・B2を通じてこれまでのBリーグ歴代最高勝率を更新したというだけでも十分驚異的だった。しかし、後半戦においては故障者続出で10人に満たないメンバーで臨んだ試合が何度もあったなかでそれが達成されたことを思うと、「信じられない」という形容が妥当に聞こえる。主要スタッツ項目で軒並みリーグのトップレベルの実力を発揮し、それを60試合発揮し続けた。

昨年のプレーオフセミファイナルGAME3の第4Q、あと5分を残してリードしていたところから敗れ、B1昇格を逃した経験から、敗北の悔しさと残酷さをどのチームよりも知っているのがA千葉だ。その思いをすべて注ぎ込んだ結果が、今シーズンの歴史を塗り替える快進撃だった。「自分たちを信じることができるか」という問いは、今のA千葉には不要だろう。

彼らには、千葉ポートアリーナをブラックネイビーに染める、A-xx(A千葉のファンの愛称)の大歓声とクラップという非常に大きな強みもある。シーズン平均で5005人を集めた動員力はコミュニティーの愛情の深さ。自らがコート上に残してきた戦績も、ウブントゥ(Ubuntu: アフリカの哲学に由来し、『あなたがいるから私が成功できる』という意味合い)というコンセプトの下、地域と一体となって戦ってきた経過も信じるに値する。

一方の静岡は、だからと言ってまったく軽視できないチームだ。

レギュラーシーズン最後の11試合は8勝3敗、かつフィナーレの4連勝を含めアウェイで5勝1敗だった。その8勝にはプレーオフチーム(滋賀レイクスとライジングゼファー福岡から2勝ずつ、青森ワッツから1勝ずつ)、ワイルドカード争いの直接的当事者(神戸ストークスからの1勝)に対する6勝が含まれている。

昨年12月に2024-25シーズンのB1ライセンス不申請が明らかになり、もはやいくら勝ってもB1昇格がないことを踏まえた2023-24シーズン。しかしチームは長期ビジョンを信じて戦い抜き、最終節でプレーオフ進出を決めた。心理面の大波に揺られながら、みごとなラストスパートでワイルドカード下位の座を奪い取った事実が、自信につながらないはずがない。勝利を願うベルスター(静岡のファンクラブとその会員のニックネーム)の思いだけでなく、地元の子どもたちの未来の夢を背負ってぶつかってくるオレンジ軍団は、失うもののない非常に危険なチームだ。

ベルテックス静岡のバイスキャプテンを務める岡田雄三(写真=1月31日のアルティーリ千葉対ベルテックス静岡戦より/©B.LEAGUE)

2022年4月、B2昇格決定戦進出をかけた「館山決戦」この両チームのシーズン通算成績、直接対決成績を比べれば、有利なのがA千葉なのは明白だ。しかし静岡が先勝、あるいはGAME2でタイに持ち込んだら、誰もが異なる見方をするに違いない。これがないとは、誰にも言えない。

特にA千葉と静岡というマッチアップには、それがあり得そうな気配を感じさせる2年越しのサイドストーリーがある。

2022年4月23日と24日の週末、両チームはB3の2021-22レギュラーシーズンにおける最も重要な対決の一つを、館山運動公園体育館で戦った。A千葉はその時点でリーグ全体の2位。静岡は3位で、破竹の14連勝で猛追中という状況だった。結果は1勝1敗のスプリット。GAME1で静岡が連勝を15に伸ばす勝利を挙げたが、GAME2はA千葉がオーバータイムの末に取り返した。同時にA千葉は、この勝利をもってB3での2位以上を確定し、B2昇格決定戦進出を決めている。逆に静岡にとっては、結果的にはこの1敗がB2昇格を1年遅れさせる直接的な理由だった。

GAME2の前半を終えて、45-32でリードしていたのは静岡だった。しかしシューター岡田優介の渾身のパフォーマンスが、後半静岡の勢いを止めた。前半無得点だった岡田だが、第3Q以降7本の3Pショットを成功させるなど27得点を荒稼ぎして、勝利の立役者になったのである。

2022年4月24日の館山対決GAME2での岡田優介。会心のパフォーマンスでA千葉のB2昇格を力強く引き寄せた(写真/©月刊バスケットボール)

この館山決戦に、もしGAME3があったらどうなっていただろう。

今回のクォーターファイナルで、静岡は「幻のGAME3」を2年越しで実現する機会を得ているのかもしれない。それを幻でなくすために、まず1勝をつかむこと、そのためにまずは最初のクォーターを自分たちのペースで乗り切ることが、その先への道を切り開く。そのすべてを自分たちでコントロールできるものではないが、少なくとも振り出しに戻った状態でベストをぶつけることができる。それは静岡がレギュラーシーズンのラストスパートで勝ち取った機会だ。

前述のとおり、両チームの対決を展望するにあたってスタッツ比較が意味を成すとは思えない。直接対決でも4勝負けなしのA千葉の優位が簡単に揺るぐものだと誰が思うだろうか。

しかしそれでも、やってみなければわからないのが勝負というものだ。

A千葉はこれまでのアプローチで臨み、同じように40分間やり通すこと、それを2試合繰り返すことに尽きる。ただしアンドレ・レマニスHCは、戦術的な引き出しの奥から、レギュラーシーズン中に試さなかったトリックを持ち出すかもしれない。予兆の一つはリュウ チュアンシンの成長とその起用法だ。身長226cmのリュウだが、シーズン後半戦ではハーフコート全面を駆けずり回って相手のピック&ロールにハードショウのトラップを仕掛けていくデイフェンスが頻繁にみられるようになっていた。加入直後はほぼサギング(ゴール近くに下がって構えるディフェンス)だったのだ。オフェンスでのピックのかけ方や役割も、直接的にボールを持って得点に絡むだけではなく、ピック&ロールのローラーとしての動き方にも変化があったような印象だ。リュウが動けばほかのプレーヤーにとってペイントエリアにゴールへの花道が開けていくのだ。

レマニスHCの戦術的引き出しは、明らかにこの部分以外にもまだまだ出し切られていないものを持っている。これまでどおりのアプローチと深みを加えた戦術。ロスターも万全に近い状態で、決意も新たに指揮官のゲームプランを2試合遂行する。レギュラーシーズンでの威力を数段上回るチームが、クォーターファイナルでベールを脱ぐのかもしれない。

ただし、静岡にも同じだけの準備期間が与えられている。アルゼンチンからやってきた底知れぬアイディアの泉のようなファクンド・ミュラーHCにも、スカウティングの時間が十分に与えられた。もちろん選手たちにもコンディションを整える機会が提供されている。

そして気づけば、勝負は振り出し。ここからもう一度、「よーい、ドン!」だ。

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