優等生が一転、20年超のひきこもりに…「子ども」の視点【「不登校」「ひきこもり」を考える #4】

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【「不登校」「ひきこもり」を考える】#4

前回、不登校やひきこもり、ひいては精神疾患の原因には「感情不全」が潜在し、それが生じる背景には親子間のボタンの掛け違いの影響が極めて大きいというお話をさせていただきました。

ここで具体例をひとつ挙げてみましょう。

20年以上ひきこもりの生活が続き40歳を過ぎたばかりの男性Aさんは、お父さまが医師で、親からは跡を継いでほしいと言われ、親族などにも将来が楽しみと期待をかけられていました。子どもの頃から医学部に行く、親の期待に応えたい、医師となって周囲を見返してやりたいといった気持ちが強く、中学までは手のかからない優等生として過ごしてきました。

高校も名門の進学校に合格はしたものの、同級生も優秀な子たちが集まるその中で、成績は伸び悩み、とてもその期待には応えられないと苦しみ続け、心が折れてしまい、不登校が始まったのでした。

ある日、どこか体調が悪いのではないかと母親に付き添われ、最初は総合病院の内科を受診したものの、担当医からはどこも体は悪くないと説明された後、「いるんだよねー、体はどこも悪くないし頭もいいのに、君みたいな“もったいない”子が」とあきれ顔で言われたのだそうです。その言葉にAさんは非常に傷つき、診察室を出た後、病院の廊下の椅子に思わずしゃがみ込み、まさに泣き出そうとしたその瞬間、お母さまからは「男のくせに何を泣いているのよ、みっともない!しゃきっとしなさい」と強い口調で叱られたのでした。

結局、その後、不登校と保健室登校を繰り返しながら、なんとか高校は卒業し、本人にとっては本意ではない大学に合格はしたものの、その大学に通う気にはどうしてもなれず、中退したままひきこもりの生活が始まったのでした。

その間、親に一度、メンタルクリニックに連れていかれたものの、そこでも「精神疾患ではないから」と担当医に言われて一回きりで終わり、何もしてくれなかったのだそうです。お父さまは「子育ては母親の仕事」という古い価値観のタイプで、たまに話しをしてもすぐに「お父さんの時代は……」「お父さんはこうして乗り越えた……」というご自身の体験談を語られる一方で、「もっと前向きにがんばれ」「気持ちを強く持ちなさい」といった激励が中心で、弱音を吐くような話には付き合う気すらないという態度だったそうです。

Aさんは、実は本当は医師になりたいなんて自分自身で本心から思ったことは一度もなく、「自分の気持ちを親がわかってくれないのはつらいけれど、親のことは大好きだし、期待に応えられなくて申し訳なかった」と、今でも言うのです。(つづく)

▽最上悠(もがみ・ゆう)精神科医、医学博士。うつ、不安、依存症などに多くの臨床経験を持つ。英国NHS家族療法の日本初の公認指導者資格取得者で、PTSDから高血圧にまで実証される「感情日記」提唱者として知られる。著書に「8050親の『傾聴』が子供を救う」(マキノ出版)「日記を書くと血圧が下がる 体と心が健康になる『感情日記』のつけ方」(CCCメディアハウス)などがある。

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