松本人志裁判に新展開 渡邊センスの提訴は“援軍”となるのか…「馬乗り写真」の謎が持つ意味とは

西脇亨輔弁護士【写真:本人提供】

元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が解説

お笑いコンビ・クロスバー直撃の渡邊センスが1日、写真週刊誌フライデーに名誉を毀損されたとして、発行元の講談社などに損害賠償や訂正記事を求めて提訴した。問題となったのは2月1日発売の同誌が「ダウンタウン 松本人志は『裸の王様』だった 破廉恥すぎる『馬乗り写真』」と報じた記事などで、渡邊側は女性を選別して松本との酒席に参加させたなどとする記事内容を否定している。だが、その主張が認められるには、ハードルがあるという。元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士が解説した。

その第一報を受けて、松本人志氏も動いた。提訴を発表した渡邊センス氏の投稿をリポストしたのだ。それは週刊文春側との裁判で第1回口頭弁論が開かれた3月28日以来、初めての松本氏による公の発信だった。

渡邊氏の投稿にはこう書かれている。

「FRIDAYさん。僕はもう動かないと思ってましたか? 許す訳ないじゃないですか。ずっと準備してましたよ。装填完了。センス 訴えます」

渡邊氏の弁護士は松本氏の対文春裁判と同じなので、松本氏側と連絡を取り合って提訴となった可能性もある。松本氏にとって渡邊氏は、文春報道に異を唱えたセクシー女優・霜月るな氏に続く援軍となるのか。

だが、私は渡邊氏の主張を見て、一抹の不安が湧いた。「もしかすると、渡邊氏の主張は空振りに終わるかもしれない」と。

問題となっているフライデーの記事は 2018年10月中旬に大阪のホテルで開かれた松本氏参加の飲み会について、女性A子の証言を基に次のように報じたものだ。

(1)飲み会の前に渡邊氏がA子さんに「連れてくる子の写真を送ってほしい」と頼み、送られてきたB子さんの写真を見て「可愛いし、この子で大丈夫」と答えた。
(2)飲み会当日、渡邊氏がB子さんに『(VIPと)そういうことはデキるんやんな?』と確認した。
(3)飲み会の後、松本氏とB子さんだけ部屋に残ったが、1時間半後、A子さんは松本氏に呼び出されてB子さんとともに部屋飲みした。この時A子さんは「B子さんが松本氏に馬乗りになった写真」を撮った。

この記事のどの部分を渡邊氏は「おかしい」と主張しているのか。私は渡邊氏側の弁護士事務所に電話して、訴状の内容を聞いてみた。提訴を発表する場合、自分の主張を世の中に知ってもらうため報道陣に訴状の中身を説明することが多い。しかし、渡邊氏側の弁護士事務所からは「訴状は公開しない」という返事だった。これは松本氏の文藝春秋社に対する裁判のときと同じ対応だ。

ただ、渡邊氏はこれまでに自身のYouTubeチャンネルで主張を明かしている。それによると、渡邊氏は事前にB子さんの写真を送ってもらったことも、「そういうことはデキるんやんな?」とたずねたこともないという。また、飲み会後にはA子さんは渡邊氏と一緒にいたので、A子さんが松本氏の部屋に戻って「馬乗り写真」を撮ったとは考えられないとしている。

さらに渡邊氏のもとにA子さんから電話があり、「フライデーの取材には応じていない」と言われたことも明かし、「フライデーさん、あなたたち誰とお話しをしたんですか」と問いかけていた。

しかしながら、渡邊氏が指摘するこうした謎の数々が今回の裁判で解き明かされるかというと、そうはならないかもしれない。それはこの裁判で問題となるのが「松本人志氏の名誉」ではなく「渡邊センス氏の名誉」だからだ。

名誉毀損の裁判では、最初に「記事が原告の名誉を傷つけているか」を審理する。この裁判の原告は渡邊氏。そのため、「記事が渡邊氏の名誉を傷つけている」と認定されて初めて、次のステップである「その記事は真実で、正当な報道か」の検討に移る。だが、フライデーの記事のテーマは「松本人志氏の言動」だ。このため、渡邊氏の名誉を傷つけているのかの判断は微妙となる可能性がある。

渡邊氏は女性を誘うくだりで登場するが、記事の中心ではない。渡邊氏が一番の謎と指摘している「松本氏に女性が馬乗りになった写真」についても、写真が偽造なら松本氏の名誉は傷つくが、渡邊氏の名誉とは関係ない。

さらにフライデーの記事は、女性は同意の上で参加して松本氏が「乱痴気騒ぎ」をしたと書いているだけで、「性加害」があったとは報じていない。記事の中の渡邊氏の言動も「性加害の一環」ではなく「飲み会の下準備」なので、「渡邊氏の名誉が傷ついたとまでは言えない」という判断もあり得る。

過去の裁判では、ある有名格闘家が根も葉もない「離婚危機」を報じられてスポーツ新聞社を訴えたが、「離婚が少なくない昨今では、離婚というだけで名誉が傷ついたとは認めがたい」と判断されたことがあった。果たして今回はどうなるのか。

「事前に女性の写真を送らせた」「『そういうことはデキるんやんな?』と女性に聞いた」という渡邊氏についての報道が、普通の読者から見てどの程度、名誉をおとしめる「悪い」ことに映るのか。裁判の最初の山場はこの議論になるだろう。その山場を越えたら、A子さんを巡る謎を解き明かす審理が始まる。

いずれにしても議論は多岐に渡り、長い裁判になると思う。松本氏自身の裁判から戦線は広がる一方だが、渡邊氏が「装填完了」した弾丸が全体の流れを変えることができるのか。この裁判の行方も見つめていきたい。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。今年4月末には、YouTube「西脇亨輔チャンネル」を開設した。ENCOUNT編集部

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