79歳・田中泯、真剣佑共演ドラマで初体験 異例の演出家3人体制「僕は幸運でした」

『フクロウと呼ばれた男』で主演を務める田中泯【写真:ENCOUNT編集部】

ディズニープラスで配信中のドラマ『フクロウと呼ばれた男』で主演

俳優としても活躍するダンサーの田中泯(79)がディズニープラス「スター」のオリジナルドラマシリーズ『フクロウと呼ばれた男』(独占配信中、全10話)に主演している。国家の裏側・タブーに切り込んだ社会派政治ドラマで、フィクサー役を演じた。(取材・文=平辻哲也)

第96回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた『PERFECT DAYS』(公開中)ではホームレスを演じた田中が、新作ドラマで演じるのは国家を裏から動かすフィクサー・大神龍太郎だ。親交の深かった次期総理候補の息子がナゾの死を遂げたことから国家の裏側から政界に潜む巨悪の正体へと近づいていく……。

「撮影はこっちが先でした。フィクサーからホームレスになるんだから、俳優は面白い。『PERFECT DAYS』もとても面白い役でした。流ちょうに言葉をしゃべって、そこに整理がついている人間よりホームレスの方が人間としてよっぽど好きです」

世間からは「フクロウ」という名で恐れられ、スキャンダルやセンセーショナルな事件を、時にもみ消し、時に明るみにさらして解決してきた黒幕だが、「その気持ちは分からなくもなかった」と語る。

「自分は、子どもの頃から、大人が作っていく社会を観察する癖があった気がするんです。気がつくと、大人の近くに寄っていって、ジロジロ見ていた。その気分はいまだに変わらない。学校で教わることよりも、社会が見せてくれることを見るのが好きだった」

この大神龍太郎はどんな人間だと捉えたのか。

「世間からは悪のように言われるけど、金儲けで振り回されている大人の社会に不満を持っていて、それを正すために悪人を演じているんじゃないかな。若い頃はかなりズバズバと一刀両断してきたんだと思うんですね。中年からは策を弄するようにもなった。でも、今は自分が弱まっていることも自覚しているし、他の政治家たちはそろそろ交代させなければ、という思いもあるかもしれない」

アジア発のドラマとして大ヒットした『時をかける愛』で知られるエグゼクティブ・プロデューサー&脚本、デビッド・シン氏の下、演出を担当したのは、映画『宇宙兄弟』の森義隆氏、『舟を編む』『月』の石井裕也氏、『Winny』の新鋭・松本優作氏。演出家が3人いる現場は初めての体験だった。

「ドラマでの現場では、何人かが演出するみたいなことはありましたが、この手の大作では初めての経験でした。それぞれ面白い作品を作られている人ですが、しばしば全員でミーティングをやっていて、すり合わせて指示を出していくのは面白いなと思いました。3人ともこの3人に出会えて本当によかったと思える方々で僕は幸運でした。うん! と思える監督に会えるのは本当にうれしいことなのです」

龍太郎とは対極な生き方で「正義」を掲げる次男・龍役の新田真剣佑をはじめ、長男役の安藤政信、長女役の長谷川京子、次女役の中田青渚。ほかにも、萬田久子、大友康平、益岡徹、原田美枝子、中村雅俊らキャスティングは豪華だ。

79歳の現役ダンサー。普段は背筋がピンと伸びて、年齢を感じさせない高い身体能力を持つが、本作は少し違った演技を見せた。特に「しゃべりはうまくいったかもしれない」と手応えを感じている。

「フィクサー人生としては晩年なんですよ。それが体にもしゃべり方にも表れてきている。どこかで突っ張ってはいるけど、弱気が後ろから引っ張っていくような感じ。編集したやつを見せてもらってうれしかったのは、俳優さんとして見ると、下手なしゃべり方をしていること。間が空きすぎたり、句読点を無視した喋り方をしている。それを意識的にも、無意識でもやってみた。それが余計変な人に見えるんです。『早く言えよ』と言いたくなるぐらいに、落ち着き払ってやってたり、相手をじらすようにずらすようにやったりとかしている」

前半は事件とともに、社会的には恵まれているはずの家族の苦悩と秘密が語られる。

「みんなは真剣佑をダブらせて見て、龍太郎も彼に期待しているんだろうなと引っ張って見ていくんだと思うんですが、10話では大展開していくんですよ。それで、次のシーズンにガーンと行くんだろうなと思っていますね」と早くもシーズン2への意欲を匂わせた。

□田中泯(たなか・みん)1945年3月10日、東京都生まれ。66年クラシックバレエとアメリカンモダンダンスを10年間学び、74年より独自の舞踊活動を開始。78年にパリ秋季芸術祭「間―日本の時空間」展(ルーブル装飾美術館)で海外デビューを飾る。以降、独自の踊りのあり方「場踊り」を追求しながら、「カラダの可能性」「ダンスの可能性」にまつわるさまざまな企画を実施。ダンスのキャリアを重ねる一方で、57歳のころ、『たそがれ清兵衛』でスクリーンデビューし、以降映画への出演多数。

○作品情報
『フクロウと呼ばれた男』
■配信:ディズニープラス「スター」で独占配信中

■出演:田中泯 新田真剣佑
安藤政信 長谷川京子 中田青渚 / 萬田久子
二階堂智 ハイディ・バーガー 池田良 結城貴史 柳英里紗 あこ
大坊健太 尚玄 淵上泰史 忍成修吾 土屋キュウ 久藤今日子 浦浜アリサ 大西信満
野村祐人 片山萌美 川瀬陽太 吉澤健 / 中野英雄 / 木村多江 / 長塚京三
大友康平 益岡徹 / 原田美枝子 中村雅俊

■エグゼクティブ・プロデューサー&脚本:デビッド・シン

■演出:森義隆、石井裕也、松本優作

■コピーライト:(C) 2024 Disney

ヘアメイク:横山雷志郎(Yolken)
スタイリスト:九(Yolken)平辻哲也

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