【被害総額120億円】隠し味はまさかの「醤油」。世界的権威もダマされた「偽造ワイン」の巧妙手口

(※写真はイメージです/PIXTA)

嗜好品としてだけではなく、投資対象としても人気を集めている「ワイン」。しかし、お金の集まるところには他人を騙して儲けようとする人が現れるものです。ワイン史でもさまざまな偽造事件が起こり、現在も多くの偽造ワインが市場に出回っていると考えられます。渡辺順子氏の監修書籍『サクッとわかる ビジネス教養 ワインの経済学』(新星出版社)より一部を抜粋し、見ていきましょう。

高級ワインの価格はどうやって決まる?

高額ワインやレアワインの取り引きは、専門のオークション会社を通して行われることがほとんどです。

オークションに出品されたワインは、スペシャリストが鑑定して予想価格、最低落札価格を決定し、事前に情報が公開されます。最近では、入札がオンライン上で行われることも増えています。

被害総額、なんと120億円!ルディの偽造ワイン事件

ワイン史に残るさまざまな偽造ワインの中でも、ルディのワインは有名です。

ルディは2000年代初めにニューヨークのワインオークションに現れ、自ら造った偽造ワインを出品していました。多くの人がだまされましたが、存在しないヴィンテージのワインを出品したことで足がつき、2012年に逮捕されました。

コンティ博士と呼ばれたワイン偽造者、ルディ・クルニアワン イラスト:藤井昌子
出所:渡辺順子監修『サクッとわかる ビジネス教養 ワインの経済学』(新星出版社)

<なぜ、まんまとルディにだまされた?>

●ボトルは本物も多く使用:
偽造ワインの中には本物のボトルに詰められたものも。プレオークションディナーで空き瓶を持ち帰り、そこに詰めていたとも考えられている

●レシピは完璧!隠し味は醤油:
安物のチリワインやカリフォルニアワインにポートワインをブレンド。隠し味にハーブや醤油も加えて、高級ワインの味を完璧に再現していた。

●転売履歴を明らかにして信用させた:
「〇〇で落札した」とオークションハウスの名前を出して、別のオークションハウスに持ち込み「〇〇で出品されたものなら確かだろう」と信頼させた。

●パーカーさえだまされた!? 知識は本物だった:
知識は確かで、オークションや交流会の席でも他の参加者から信頼されていた。
また、パーカー*も彼のワインに高得点をつけてしまったことがある(*ロバート・M・パーカー。世界で最も影響力を持つワイン評論家)。

偽造ワインを見破るための最新技術とは?

ルディが逮捕された後も、回収できた偽造ワインはごく一部で、まだまだ多くの偽物が市場に出回っていると考えられています。

偽造ワインを見分けるヒントになり得るのは、ラベルやコルクです。ラベルの質感や汚れ具合に違和感があったり、コルクの素材やロウの部分が不自然なことがあります。しかし、これらは見比べなければわかりにくく、素人目には難しいでしょう。

ワインを購入するときには、信頼できる販売店やオークションハウスを通すのが確実です。ルディ事件以降、オークションハウスも対策を強化し、少しでも疑わしいものは出品を見送るようになっています。

また、ワイナリーも偽造対策に乗り出しています。偽造できないようコルクに合成素材を使用したり、ラベルに温度センサーを導入したり、GPSでボトルを追跡できるようにしたりと、最新技術を駆使しています。

渡辺 順子
ワインスペシャリスト

1990年代に渡米。フランスへのワイン留学を経て、2001年大手オークションハウス「クリスティーズ」のワイン部門に入社。同社初のアジア人ワインスペシャリストとして活躍する。09年に退社し、プレミアムワイン株式会社を設立。ワイン普及の活動を続けている。現在はメキシコ在住。
著書に『世界のビジネスエリートが身につける教養としてのワイン』『高いワイン』(ダイヤモンド社)、『日本のロマネ・コンティはなぜ「まずい」のか』(幻冬舎ルネッサンス新書)、『語れるワイン』(日本経済新聞出版)等がある。

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