『虎に翼』松山ケンイチの一言が伊藤沙莉の未来を変える? “共亜事件”の全裁判が終了

共亜事件の全裁判が終了した。『虎に翼』(NHK総合)第25話で、裁判長の武井(平田広明)が言い渡した判決は、被告人全員の無罪。検察側が提示する証拠は、自白を含めどれも信憑性に乏しく、証拠不十分によるものではなく、犯罪の事実そのものが存在しないと認めるものだとされた。手を握り合っていた寅子(伊藤沙莉)とはる(石田ゆり子)が抱き合い、直言(岡部たかし)が涙ぐんだ顔で傍聴席の寅子に振り向く。1年半に及ぶ寅子たちの戦いが終わりを告げた。

第25話は、直言がはるに約束を破ってしまった映画のチケットを渡し夫婦が仲直りしたり、寅子と優三(仲野太賀)が酒を酌み交わしていたり、直明(正垣湊都)と福笑いをする優三の姿から、平穏が戻った猪爪家が描かれる。その一方で、強烈な存在感を見せるのが裁判官の桂場(松山ケンイチ)だ。

検察畑出身の貴族院議員・水沼(森次晃嗣)からの圧力を受けながらも、桂場はあくまで中立の立場として今回の無罪の判決文を書き上げていた。穂高(小林薫)が蟻一匹通さぬ、一分の隙もない判決文だと絶賛したのは、「あたかも水中に月影を掬い上げようとするかのごとし」の部分。力を振りかざして司法に土足で踏み込んでくる検察への怒りと桂場のロマンチシズムが表れている。

甘味処「竹もと」で桂場を待ち伏せていたのは寅子。どうしても桂場にお礼を言いたかったのだ。桂場としては、「法を司る裁判官として当然のことをした」だけのこと。寅子は法律とは何なのかをずっと考え続けていた。弱い人を守るための盾や毛布のようなもの、もしくは戦う武器だとしていたが、今回の裁判を通して、寅子の考えは変わっていた。そもそも法律は道具のように使うものではなく、綺麗な水が湧き出ている水源のように、法律自体が守るものであると。綺麗な水を汚されたりしないように、正しい場所へと導かなければいけない――その考えを聞いて、桂馬は寅子に「なんだ。君は裁判官になりたいのか?」と問いかける。

思ってもみない質問に、呆気に取られた表情の寅子へ桂場は続ける。「君、その考え方は非常に……あぁ、そうかご婦人は裁判官にはなれなかったね」と。この後に続く高等試験の受験の確認は寅子たちが法学部最終学年になることをそれとなく示す、第6週への橋渡しとも言えるセリフだが、先述した桂場の言葉は寅子の未来を大きく変える一言となっていく。

第1週での「私も女子部進学には反対だ」というセリフを例に、竹もとでは寅子にとって思いがけない答えが桂場から返ってくる。桂場はしたたかであり、どこか腹の底が読めない。竹もとを出た後に見せる小さな笑みは、まるで女性が裁判官になる未来への布石を打ったかのような、そんな表情にも思えてくるが、寅子が法律自体が守るものだと話している時に、桂場は持っていた湯呑みを口のそばまで運ぶが手を止め、その湯呑みをちゃぶ台に戻す。じっと寅子の話を聞き、前傾姿勢で「君は裁判官になりたいのか?」と問いかけるその眼差しは、何事にも左右されない桂場が寅子の言動に感情を揺り動かされているようにも思えてくる。

「ご婦人は裁判官にはなれなかったね」の後につぶやく「はて?」の続きは、これから寅子が切り拓いていく地獄の道だ。今はとりあえず、竹もとで杏を頬張り満面の笑みを浮かべる寅子に、筆者からも「おめでとう」と言いたい。
(文=リアルサウンド編集部)

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