「元SMAPの話でもあるけれど」放送作家卒業の鈴木おさむ52歳「テレビ界への遺言」不可能に立ち向かう民放版『プロジェクトX』

2024年3月31日、その男は筆を置いた。20年と9か月続いた国民的グループのバラエティ番組、スマスマこと『SMAP×SMAP』で放送作家をつとめ、オートーレース界に森且行が去りし後、メンバーから“6人目のSMAP”とまで言われた鈴木おさむ、その人である。
バラエティ番組『めちゃイケ』『¥マネーの虎』『お願い!ランキング』『Qさま!!』、ドラマ『人にやさしく』『M 愛すべき人がいて』『離婚しない男』など数々の大ヒット番組や、国民的な海賊マンガ「ONE PIECE」の劇場版『ONE PIECE FILM Z』の脚本などを手掛けたことで知られる彼が、SMAPの小説『もう明日が待っている』と、テレビ界への遺言ともいえる『最後のテレビ論』(共に文藝春秋)を置き土産に、放送作家を辞めるという。
なぜなのか。日本列島を笑いと感動で包み込んだ大ヒットメーカーの、断筆に至るまでの「チェンジ」と、放送作家を卒業後の「ビジョン」に迫った。(全5回 第3回)

テレビの裏で起きていたことを知ってほしい

――もう一つの著作『最後のテレビ論』についてお聞かせください。書かれた理由は、なんでしょうか?

テレビ人が書くテレビのエッセイって意外と面白くないって、以前から思っていたんです。もちろん、自分の過去の著作も含めて。最後は絶対に、関係各所に気を遣わなければいけないし、だから、書き物としてはパンチ力が足りないんです。
水道橋博士の本は別ですけど。テレビ人のエッセイは振り切れていないんだけど、自分はやめるからこそ、一番強烈なテレビの人が書いたテレビの話を書こうと思って、書き残したんです。しかも、実名で。

――特に、読んで欲しい方はいますか?

テレビ人です。テレビに関わる人に、まず読んでほしいと思って書きましたね。テレビに関わる人が読んでザワザワしてほしいと思ったんです。
それと、テレビを見ている人たちには、何か面白いものに熱狂して、それを作るために死に物狂いで頑張っている。こういう人がいるから面白いものが作られているということを、今一度、知ってほしかったんですね。
みんなが見ていたテレビの裏で起きていたことを、これを読んで知ってほしい。テレビの内側からの本当のテレビの遺言です。

元SMAPのメンバーの話でもあるけれど…

テレビを見る家庭が今、すごく少なくなっていると思うんですけど、面白い番組の裏には、面白いものに熱狂して、人並外れて取り組んでいる“熱狂人”がいることを知ってほしかったんですね。
『もう明日~』『最後の~』は、NHK『プロフェッショナル仕事の流儀』とか『プロジェクトⅩ~挑戦者たち~』みたいなものだと思っているんです。元SMAPのメンバーの話でもあるけれど、僕とかチームの話でもあって、絶対不可能なことや絶対無理なことに立ち向かっていく、さきほど映画『アルマゲドン』って言いましたけど、これは、不可能に立ち向かうプロの男の話だと思っているので、これを読んで胸が熱くなってほしいなと思います。
昔、SMAPを見ていた女性ファンの方はもちろんなんですけど、40~50代の男の人に、仲間の話と思って読んでほしいなと思います。こんな仲間が欲しいと思っている人、結構いるんじゃないかなと思ってるんです。

――本の中には、ものすごいテレビ人が数多く登場しますが、その中でも、すごいな~と思った人はいますか?

そこに書いてある人たちは全員すごいので、甲乙つけがたいですね。だって、みんな、おかしいんですよ。ナスD(テレビ朝日・友寄隆英氏 『ナスD大冒険TV』他)もそうだし、飛鳥さん(元フジテレビ 片岡飛鳥氏 『めちゃ×2イケてるッ!』他)も、阿部さん(TBS 阿部龍二郎氏『中居正広の金スマ』他)も、『¥マネーの虎』などを作った栗原さん(日本テレビ 栗原甚氏)もそうだし、本当にすごいんですよね。
高橋利之さん(日本テレビ 『行列のできる法律相談所』他)は『最後のテレビ論』を読んでくれて「感動した」って電話をくれたんです。本の最後で僕は「テレビはネットに対して白旗あげたほうが楽だ」って言ってるんですけど、トシさんはその部分について言及されて「おさむくん、僕は周りから見て、どう見ても負けていると思われているかもしれないけど、最後までギブアップしないからね」って言ってくるんですよ。すごい強靭だなと思って。
でも、それがテレビ人だなと思って、僕はかっこいいなと思うんですよね。読んだ皆さんにも、そう思ってもらえたとしたら、書いて良かったなって本当に思います。

すずき・おさむプロフィール
1972年4月25日、千葉県生まれ。19歳のときに放送作家になり、それから32年間、さまざまなコンテンツを生み出す。2024年3月31日に、放送作家を引退。著書に『仕事の辞め方』(幻冬舎)、そして大ヒット中の『もう明日が待っている』『最後のテレビ論』(共に文藝春秋)などがある。現在は、「スタートアップファクトリー」を立ち上げ、スタートアップ企業(急成長をする組織、会社)の若者たちの応援を始めており、コンサル、講演なども行う。

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