日本衰退の元凶はグローバリズムよりも消費税!? 経団連が増税を望むのはなぜか

岸田首相が2023年にぶち上げたジャパン・ウィークス構想は、日本の個人金融資産にアメリカのハゲタカファンドの魔手を入れさせる金融政策だ。そう訴える情報戦略アナリスト・山岡鉄秀氏によると、日本衰退の元凶はグローバリズムよりも消費税だと言います。経団連が消費税率アップにこだわるのは、輸出大企業にとっては巨額の輸出戻し税の還付があるからです。

※本記事は、山岡鉄秀:著『シン・鎖国論 -日本の消滅を防ぎ、真の独立国となるための緊急提言-』(方丈社:刊)より一部を抜粋編集したものです。

岸田政権により日本国民のお金が世界に流出

21世紀に入ってからの日本の国力衰退は明らかです。このまま溶けて消えてしまうのではないかとさえ思えます。日本は、安全保障を米国に委ね、経済に専念することによって繁栄しようとしてきました。平和国家だ、経済大国だと、うまくやってきたはずだったのに、もはや誰の目にも衰退が明らかです。

経済至上主義をうたっていた国の経済が駄目になると、本当に惨めなものです。しかし、この期におよんで岸田首相は外国まで出かけて、「日本を売ります。皆さんで買ってください」と懇願しているのです。

2023年9月21日、訪米中の岸田首相は、企業経営者や金融関係者らで構成する「ニューヨーク経済クラブ」主催の会合で講演し、日本への積極的な投資を呼びかけました。

2000兆円を超える個人金融資産を活用した日本の資産運用ビジネスの発展は、法の支配や市場経済といった普遍的価値を共有する日米間において、投資の流れとウィン-ウィンの関係を強固にし、世界経済に大いに貢献するもの。

世界の投資家に賛同いただくため、この秋に、世界の投資家を日本に招聘する「ジャパン・ウィークス」を展開する。皆さんにも、ぜひ参加いただきたい」(産経新聞9月22日掲載講演全文より)

なんと、割安の日本企業が外国資本に買い漁られている状況下で、今度は2000兆円を超える日本人の個人金融資産の運用に、外国の資産運用会社を参入させたいというのです。

明らかに日本人の個人金融資産に手を付けたい海外勢に迎合しています。これが世界経済に大いに貢献すると言っていますが、日本国民の金が世界に流出することを意味します。

彼がすべきことは、日本経済と日本人の生活向上への貢献のはずです。

▲ブリンケン国務長官と岸田首相(2023/11) 出典:U.S. Department of State / Wikimedia Commons

消費税を10%に引き上げた財務省の言い分は?

私は当初、日本経済が衰退した原因はグローバル化にあると考えていました。しかし、どうやら日本の敗因はそれだけではないようです。実はそれ以外に、日本人自身が自らの首を絞める罠をかけていたのです。それが消費税です。なんのことはない、日本人は自滅していたのです。

消費税が導入されたのは1989年。平成元年の竹下登内閣のときでした。私たちは、消費税というのは間接税だと教わりました。累進性のある直接税に対して、所得水準には関係なく、広く浅く課税する間接税は有効な税制で、直接税と間接税の比率(直間比率)が重要であるようなことを聞いた覚えがあります。

しかしその後、不思議に思ったのは、バブルが崩壊してデフレ基調になってからも、国が消費税を上げ続けたことです。そのあとに、上がりかけた景気が腰折れして、デフレが酷くなるのですが、止めようとしません。

日本経済は内需主体で、GDPの約6割が日本国内の個人消費によるものです。したがって、景気が悪いときに消費税を上げて消費が低迷すれば、デフレを脱却できなくなります。

そんなことは素人にもわかっているのに、2019年10月、とうとう消費税は10%にまで引き上げられました。これについての財務省の言い分はこうです。

「社会保障制度の財源は、保険料や税金だけでなく、多くの借金に頼っており、子や孫などの将来世代に負担を先送りしています。安定的な財源を確保し、社会保障制度を次世代に引き継ぎ、全世代型に転換する必要があります。

こうした背景の下、消費税率は10%に引き上げられました。消費税率の引き上げ分は、すべての世代を対象とする社会保障のために使われます」

しかし、これは本当なのでしょうか? じつは、政府が言うことはくるくる変わってきています。財務省から出されているパンフレットでは、「消費税とは、消費一般に広く公平に課税する間接税です」と明記されていますが、過去の大蔵省時代には、消費税は間接税ではなくて直接税だと言っていたのです。いったいどういうことでしょうか?

消費税は間接税であるという大前提が崩れた

消費税が導入された1989年に存在していた「サラリーマン新党」という政党が、政府を相手に裁判を起こしたことがあります。「消費税は消費者が負担する税金なのに、年商が一定額以下の事業者が免税となるのは、預かり金をピンハネする行為(益税)だ」と訴えたのです。

判決は1990年3月26日には東京地裁で、同11月26日に大阪地裁でそれぞれ出されました。判決はいずれも原告の敗訴で、免税は益税(ピンハネ)ではない、というものでした。この裁判における大蔵省(当時)の反論が驚きで、消費者が負担する消費税は「物価の一部に過ぎない」というのです。

物価というものは、最終的には市場における需給で決まるものだから、消費税は個別の物品に課せられているものではなく、事業者が一年間に作り出した付加価値に一定の税率をかけて払うものである。そうなると、消費税は事業者の観点からは、実質的に直接税ということになります。

直接税であれば、たとえば所得税でも、年間の収入がこの額までは無税という、免税点というものがありますから、小規模事業者に対する免税は預かり金のピンハネにはあたらない、というのが大蔵省の主張を汲んだ判決の主文でした。ここで、消費税は間接税であるという大前提が崩れたわけですが、付加価値に課税するとはどういう意味でしょう?

もともと日本の消費税は、欧州の「付加価値税(VAT:Value-added tax)」を下敷きとして作られた税制なのですが、付加価値とはなんでしょうか。一般的な感覚で考えると、たとえば木材を買って、それを加工して美術品とか道具にすれば付加価値を加えたことになります。木材を1000円で仕入れ、それを美術品にして5000円で売った場合、4000円の付加価値を創造したことになるわけです。

ところが、消費税の課税対象である付加価値とは、「利益と人件費の合計」だというのです。人件費というのは会計学的には経費(固定費)です。

ちなみに法人税は、粗利(売上総利益)から人件費を含む全ての経費を引き去って、もし利益が残ったら、その利益に対して課せられるものです。従って、赤字であれば、当然ながら法人税は払わなくて済みます。

しかし、消費税の場合、利益と人件費の合計に課税するということは、法人がたとえ赤字でも払わなくてはならないということになります。たとえ赤字の事業者であっても、消費税率が上がるほど税負担が増えるということで、ひじょうに過酷な税金だということになります。

▲増税は消費者や中小企業にはキツい イメージ:builderB / PIXTA

輸出戻し税に溺れた経団連の詐術

消費税は、実際に正しく社会保障目的税として使われているのでしょうか? 調べてみると奇妙なことに、消費税によって得られた税収とほぼ同じくらいの規模で、法人税が減額されているのです。

もう一つ、「輸出戻し税」に関しても疑問があります。海外の消費者に日本の消費税を払ってもらうわけにいかないので、輸出品に対しては消費税を課税しないというのが国際ルールなのですが、輸出業者は、自分が仕入れる際には消費税を払っているので、その分が「損」になってしまいます。

その税負担分を税務署が輸出業者に還付する仕組みを、俗に「輸出戻し税」と言います。

輸出戻し税は、輸出大企業にとっては巨額なものになります。この輸出戻し税が、実質的な輸出補助金になっています。

また、全てとは言いませんが、規模の大きい企業が取引先の下請けなどから仕入れをする際、「消費税の一部をディスカウントしてよ」なとど単価を買い叩くケースがあり、そうしたケースでは「実際は負担していない消費税分」も含めて、戻し税によって補助されていることになります。消費税率が高くなればなるほど、大企業にとっては有利になるわけです。

一方、実質的な税金とも言える社会保険料は、国会で具体的な議論もされないまま、毎年確実に上がり、国民負担率も上昇する一途です。そもそも、日本の消費税は社会保障目的税として、4つの目的(1.年金 2.医療 3.介護 4.少子化対策)にしか使わないとされていますが、税の使用先を決めている国は、日本以外にはありません。

年金・医療・介護は、保険制度として賄うべきであって、収入が大きく変動する税によって運営されるべきではないからです。

経団連は常々、消費税アップを推す意思表示をします。早く19%まで上げたらいいのに……などとまで言います。マクロ経済学的な理論から言っても、実際に何度も景気の腰折れという痛い目に遭った経験則から言っても、消費税増税は景気を悪化させることがわかりきっているのに、なぜ、経団連がそれを容認するどころか、わざわざ望むのか。理由は先述のとおりです。

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