円相場が急騰したのは為替介入のため?仕組みと目的を金融アナリストが解説

29日は昭和の日。祝日なので東京市場は休場でした。そんな日に日銀の為替介入と見られる動きがあったことはご存知でしょうか?

今回は為替介入とは何なのかについて簡単に解説をしたいと思います。


急速な円安進行の中で突如の高騰

外国為替市場では、日本は祝日のなか円安がさらに加速しました。祝日で薄商いなところを狙われたのか、午前中に34年ぶりとなる1ドル160円台を一気に超えて160円20銭まで暴落。ユーロ円も1999年以降で最安値となる1ユーロ171円台と円が暴落しました。

その後ジリジリと円安方向に戻しましたが、午後に日銀の介入と思われるドル売りが出て再度154円52銭まで円高ドル安方向に動きました。神田財務官はロイター通信などの取材に対し、介入に関していまはノーコメントとしているよう。岸田首相も「為替相場の動向、介入についてはその有無も含めてコメントは差し控える」としています。

5月31日発表分の外国為替平衡操作の実施状況(財務省発表)を見るまでは、29日に介入が行われたのか正確にはわかりません。ただ、5月1日の日銀当座預金残高の見通しを見ると、当座預金増減要因の金額で介入の有無を鑑みることができます。29日は介入があったことが見てとれ、差額の約5.5兆円が円買い介入の規模だったと考えられます。また、2日に日銀が公表した5月7日の当座預金残高の見通しによると、為替介入を反映する「財政等要因」による減少額が4兆3600億円となっており、4月29日に続き日本時間2日早朝にも介入はあったようです。

4月11日、神田真人財務官が「行き過ぎた動きに対してはあらゆる手段を排除せずに適切な対応を取る」とけん制(口先介入)しても影響はほぼ限定的となっていました。

そのような中で、急速な円安進行の際には日銀は為替介入することを示したこと、薄商いのタイミングで行われたことも含めて、狙い澄ました介入だったのではないかと個人的には考えます。円安進行に不安を覚えている方は多いと思いますし、エネルギーなどの資源や食料品の自給率が低い日本は、円安になると輸入物価が上昇し、インフレ(物価上昇)が起こり、家計にも大きく影響を与えます。

為替介入はどんな時に行われるか

為替介入は、正式には「外国為替平衡操作」といいます。政府や中央銀行が国の通貨の価値に意図的に影響を与えるために外貨市場に介入すること(通貨を売り買いすること)を指します。この介入は、通貨の価値が急激に上昇したり下落したりするのを防ぐため、または経済政策の目標をサポートするために行われます。日本では財務大臣の権限において実施することとされており、日本銀行が財務大臣の代理人として、指示や法律に基づいて為替介入の実務を遂行します。

為替介入の目的は通貨の安定です。通貨が急速に値下がりすると、輸入品の価格が上昇しインフレが進む可能性があります。逆に、通貨が急速に値上がりすると、国内の製品が外国で買いにくくなり、輸出産業が打撃を受けることがあります。為替介入によって、通貨価値の急激な変動を抑えて国内経済を保護し、経済の安定を図ることができるのです。

また経済への影響を考慮した介入や経済の成長促進、インフレ抑制など、政府や中央銀行が目指す経済政策を効果的に推進するためにも為替介入を行うこともあります。たとえば、国内の経済を刺激するために通貨の価値を下げることで輸出競争力を高めることを目的とした介入です。

いずれにせよ、介入は政府や中央銀行が経済の安定や成長をサポートするための一つの手段であり、為替レートの安定や為替市場のミスマッチの修正のために行われます。

東日本大震災の時行われた為替介入

日本でも過去に何度も為替介入を行っており、特に円の急激な上昇を防ぐための円売り介入が有名です。例を挙げますと、2011年に発生した東日本大震災の際にドル円が急速に円高方向に動きました。大地震によって起こると考えられる経済復興への期待感や資金の国内回帰で円買いが加速したのです。この介入は日本経済の回復をサポートし、輸出産業の競争力を保つために、円高進行を抑制することが目的でした。日本政府と日銀は2011年の数回にわたり市場に介入し、大量の日本円を売って外貨を買いました。特に、8月期(7月28日〜8月29日)の外国為替平衡操作の実施状況では外国為替市場への介入額が過去最大規模とされる4兆5129億円だったと公表されています。介入によって短期的に円は弱まり、ドル円レートが一時的に大きく上昇しました。

2カ国以上で行う“協調介入”

また2011年の介入では日本側が要請して日米欧の“協調介入”が行われました。協調介入とは、為替相場の急激な変動を抑えるために、2カ国以上の通貨当局が合意をしてそれぞれの市場で足並みをそろえて介入を行うことです。

過去の有名な協調介入としては、ドルを下落させて米国の輸出競争力を高め、貿易赤字を減らすという狙いで1985年9月にG5 (日・米・英・独・仏)の各国の通貨を切り上げる協調介入を行うとしたプラザ合意や、2000年9月には誕生から間もないユーロを下落から守るために行われたユーロ買いの協調介入などがあります。

直接自国通貨を売買する「直接介入」

為替介入には主に以下の二つの方法があります。まず直接介入です。中央銀行が直接外貨市場で自国通貨を売買します。通貨の価値を下げたい場合は、自国通貨を大量に売って外貨を買い、通貨の価値を上げたい場合は、外貨を売って自国通貨を買います。これにより、供給と需要のバランスが変わり、通貨の価値に影響を与えます。

例えば日本では財務省所管の外国為替資金特別会計(外為特会)の資金が為替介入に使われますが、円の価値を下げたい場合(急激な円高に対応する場合)はドル買い・円売り介入となり、「政府短期証券」(国債の一種)を発行することによって円資金を調達し、これを売却してドルを買い入れます。反対に円の価値を上げたい場合はドル売り・円買い介入を行いますが、外為特会の保有するドル資金を売却して、円を買い入れることになります。29日に行われたと考えられるのはこの介入です。

金利の調整で行う間接介入

そしてもう一つは間接介入です。金利の調整を通じて間接的に為替レートに影響を与える方法です。例えば、中央銀行が金利を下げると、その国の通貨を持つことの利益が低下し、人々がその通貨を売って他の国の通貨を買うようになるため、通貨の価値が下がります。

為替介入は短期的に為替レートに影響を与えることができますが、持続的な効果を得るためには、他のマクロ経済政策との連携が必要です。また、国際的な政治的圧力や市場の力によって、介入の効果が限定されることもあります。例えば、グローバル市場の投資家のセンチメント(市場心理)や、他国の経済政策の影響を受けることが多いため、介入のタイミングや規模を慎重に決定する必要があります。

また投資家としては為替市場の動向はFX取引をしている人はダイレクトに、株式投資をしている人でも大きく影響を受けます。今週末も連休で、月曜も薄商いであるため値動きが激しくなる可能性もあるでしょう。介入のニュースにも注目しつつ、投資する金額は全資産の一部(余裕資金)に留めること、無理な取引はしないこと、ゴールデンウィークや年末年始など大型連休前はポジションを調整するなども心がけてみてください。この記事が皆様の投資の参考に少しでもなれば幸いです。

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