語らずにいられない(5月4日)

 日本の美術館には不文律がある。静かに作品を鑑賞する―。絵画や彫刻の世界観に浸る。静寂な時間を邪魔してはならない。おしゃべりに興じたり、子どもが騒いだりすると、監視員に注意される場合がある▼海外では少し事情が違うようだ。米国のニューヨーク近代美術館では、来場者の話し声があちこちから聞こえてくる。老若男女が現代アートの醍醐味[だいごみ]に感嘆し、印象を語り合い、批評する。音楽や劇のパフォーマンスが披露される時もあり、拍手が鳴り響く。もちろん、騒々し過ぎればスタッフが駆け寄ってくるが…▼福島市の県立美術館はあす5日をトークフリーデーとする。声の大きさを気にせず自由に会話を楽しめる。小さな子どもや赤ちゃんを連れて眺められるように、との配慮だ。最近、同様の取り組みは国内で広がりつつある。親子で見たまま、感じたままを言葉にしつつ、館内を巡るのも一興だろう▼今、開かれているのは上村松園、鏑木清方、伊東深水らの美人画をそろえた企画展。日本画ならではの優しい色合いと、あでやかな着物姿が目を引く。美の宝庫でのわいわい、がやがやは将来、語らずにはいられない5月の爽やかな思い出になる。<2024.5・4>

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