「どうせ俺なんか」悪に手を染めた悲しいヒーロー…闇堕ち仮面ライダーの“影の魅力”

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仮面ライダーは昭和・平成・令和と続く正義のヒーローだ。しかしなかには、正義の道を踏み外してしまった“闇落ち仮面ライダー”もいる。闇に堕ち、悪に手を染めてしまった悲しいヒーローであるが、ライダー同士の戦いが物語の軸になった平成以降のシリーズでは、作品により深みを与えエキサイティングにする存在として必須のライダーでもあるだろう。

そこで今回は、印象的な闇堕ち仮面ライダーを厳選して紹介したい。そこには正義の仮面ライダーにはない闇堕ち仮面ライダーだけが持つ「影の魅力」があった。

■ネガティブ発言を連発『仮面ライダーカブト』地獄兄弟・矢車想と影山瞬

まずは、2006年放送の『仮面ライダーカブト』から、“地獄兄弟”という闇落ちライダーのコンビを紹介する。

地獄兄弟は、兄・矢車想と弟・影山瞬の義兄弟からなる。兄の矢車は、ZECTの精鋭部隊“シャドウ”の初代隊長で仮面ライダーザビーという超エリート。もともとは「パーフェクトハーモニー(完全調和)」を信条とする、真面目な人物だった。しかし、ザビーゼクターに見放され仮面ライダーへと変身できなくなり、さらには(後に義弟となる)影山の裏切りによりZECTを去る。

しばらく物語から姿を消していた矢車だったが、第33話「萌える副官」で黒い衣装に身を包み再登場。以前のようなキラキラとしたエリートの面影はなく、仮面ライダーキックホッパーに変身する闇の住人となっていた。

かたや弟の影山は、シャドウの3代目隊長で矢車を陥れた張本人だ。誰にでも媚びる性格から信用されず、次第に周りの人々から見放されていく。

第35話「地獄の兄弟」で、敵にも媚びて利用され、深手を負ってどうしようもなくなったところを、矢車に「俺と一緒に地獄に落ちるか?」と拾われ、仮面ライダーパンチホッパーとなる。

王道の“バッタ”モチーフのカッコいいキックホッパーとパンチホッパー、そして「どうせ俺なんか」「お前はいいよな」などとネガティブ発言を連発する兄に、「兄貴!やっぱ凄いや」と心酔する弟……この異色のキャラクター性に視聴者の多くが虜となった。

そして、二人の最期は非常に切なかった。第48話「天道死す!!」、敵の策略によって“ネイティブ”となってしまった弟の影山は「さよならだ兄貴」と背を向け、兄のライダーキックによって介錯されるのだ。二人で夜空の星を見上げるラストシーンは印象的だった。

■若さゆえの暴走『仮面ライダー鎧武/ガイム』アーマードライダー龍玄・呉島光実

2013年から放送された『仮面ライダー鎧武/ガイム』にも、とんでもない闇落ちライダーが登場している。

計画都市・沢芽市と異空間・ヘルヘイムの森が舞台の本作。沢芽市の実質的な支配者であるユグドラシル・コーポレーション、その重役の息子だったのが、ミッチこと呉島光実である。その素性を隠してビートライダーズ・“チーム鎧武”に参加しており、物語序盤では非常に純粋で育ちのいい美少年という印象だった。

しかし、戦極ドライバーを手に入れ、アーマードライダー龍玄へと変身するようになってから徐々に様子がおかしくなっていく。それまで尊敬していた仮面ライダー鎧武・紘汰とは決別。さらに、想いを寄せていた高司舞からビンタを食らったことで、彼の中で何かが壊れてしまった。

その後、黒いスーツに身を包んだ通称“黒ミッチ”になった光実は、紘汰のことを常に目の敵にし抹殺しようと画策していく。このころは自身の暴走を止めようとしてくれた兄の貴虎さえも手にかけるなど、迷走ぶりが甚だしかった。視聴者の多くが、「あの可愛かったミッチを返してくれ!」という気持ちになったはずだ。

第42話「光実!最後の変身!」にて。さらに追い込まれたミッチは、龍玄の最強形態・黄泉ヨモツヘグリアームズに変身してしまう。命を削る痛みでもがき苦しみながらも戦う姿は、なんとも哀れだった。紘汰の犠牲によりようやく変身が解けるも、その直後、最後の希望であった舞も死亡してしまう。悪の限りをつくしてきたミッチのその手には何も残っておらず、絶望と後悔を繰り返すしかできなかった。

最終47話「変身!そして未来へ」、新たな脅威アーマードライダー邪武が現れ、ようやく絶望から立ち上がるミッチ。そこに紘汰が現れ二人で邪武を倒すシーンは、かつての二人の関係性が戻ってきたようで最高の瞬間だった。

若さゆえの暴走を繰り返す、非常にやきもきさせられる闇堕ちライダーであった。

■パンドラボックスの光により野心的に『仮面ライダービルド』仮面ライダーローグ・氷室幻徳

最後は2017年放送の『仮面ライダービルド』から、愛すべき闇落ちライダーを紹介する。

本作は「東都・西都・北都」の3つに分かれ勢力争いをしている日本が舞台である。東都政府首相である氷室泰山の息子・氷室幻徳は、本来は家族思いの優しい性格で茶目っ気たっぷりの憎めないやつだった。

しかし、“スカイウォールの惨劇”でパンドラボックスの光を浴びたことにより、野心的で好戦的な性格となってしまう。東都政府の首相補佐官という肩書の裏で、秘密結社・ファウストの幹部・ナイトローグとして活動し始めるのだ。北都との戦争が始まった第2章では、東都軍の総司令官の立場で戦争への道を突き進んでしまう。

仮面ライダービルドに敗れて東都を追放されたのち、第23話「西のファントム」で、西都の仮面ライダーローグとして復活を遂げた幻徳。

“クロコダイル”モチーフの非常に強力でクールなライダーであるうえ、自身もボロボロの黒いコートを纏って、髪や髭を伸ばしており、以前よりも渋さが増していた。

仮面ライダーローグとして幻徳は大暴れするのだが、実はこのとき彼はパンドラボックスの光から解放され、本来の優しい性格に戻っていた。しかしあえて自分が汚れ役になることで、父・泰山に国を託そうとしていたのである。

しかしその泰山も殺され、国を建て直す為に仮面ライダービルドらと手を組むことに ……そしてここから本来の幻徳があらわとなった。「親しみやすさ」「威風堂々」などプリントされたTシャツを好むなど服装のセンスは壊滅的で、放送当時はこのあまりの突然なキャラ路線の変更に困惑した視聴者も多かったようだ。しかしそのギャップで非常に愛されたのも事実だ。

最終回目前の第48話「ラブ&ピースの世界へ」。エボルトとの最終決戦では人々の声援を力に変え、エボルトリガーを破壊しエボルト攻略の突破口を作り、最期は正義の仮面ライダーとして勇敢に散っていった。

今回は、闇堕ち仮面ライダーを3人紹介してきた。それぞれ悪の道を突き進んでしまった彼らであったが単純に憎めず、正義の仮面ライダーにはないダークヒーローゆえの魅力があった。

そして彼らの最期は、さらなる闇に堕ち死んだ者、正義の道に戻った者、正義に戻ったが想いを託し散った者とどれもが印象的なものであり、三者三様愛すべき闇堕ちライダーだった。

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