『イップス』第4話 事件にしゃしゃってくる篠原涼子に慣れてしまおう

イップスに陥った刑事・森野(バカリズム)と小説家・黒羽ミコ(篠原涼子)が殺人事件を解決していくドラマ『イップス』(フジテレビ系)も第4話。ドラマの冒頭で犯人を明かしてから刑事が謎解きを披露するという、いわゆる倒叙型ミステリーです。

メインの脚本はコント作家のオークラさん。第3話まではトリック監修の人が入っていたようですが、今回はクレジットがありませんでした。

振り返りましょう。

■ココナッツの殺傷能力

南国では、サメに食われて死ぬ人より、落ちてきたココナッツに当たって死ぬ人のほうが多いという話がありまして、今回は女性パティシエ(香椎由宇)がココナッツでオーナーの後頭部を殴打、殺してしまった事件でした。ココナッツの外皮が死亡事故を起こすほど固いというのはわかるけど、それはあくまで高木から落下してきたときの話。人間の力で頭上から振り下ろし、一撃で脳挫傷を起こして即死させるほどのエネルギーを発生させたとなると、このパティシエの背筋力は想像を絶するところです。角のとがったガラスの灰皿とかならまだしも、球状のココナッツ一撃で頭蓋骨を割るというのは、ちょっとねえ。

なんか嫌味っぽく書いてしまいましたが、気になってしまうんです。第1話でも、町の薬局から7.5トンの水を購入して建物の屋上に運んだという信じがたい描写がありましたが、倒叙型である限り謎解きのおもしろさを求めてしまうもので、その事件はなるべくリアルであってほしいんです。

それと、もうひとつ。トリックを扱うミステリーでの殺人事件は大きく分けて、計画殺人と衝動殺人の2つとなります。計画殺人ならその計画が刑事によって解かれることになり、衝動殺人なら犯行後の隠蔽工作が解かれることになる。

『イップス』では第1話、第2話が計画殺人であり、3話と4話は衝動殺人でした。

衝動殺人の中でも、明確に殺意を持って刺したのが第3話。そのほか、殺すつもりはなかったのに衝動的に暴力をふるったら勢いで相手が死んでしまったというケースがあります。

ここが、今回の第4話ではあいまいだったんです。

夜中の厨房。オーナーの男性に捨てられると思い込んだパティシエは、ココナッツに目を留めます。そしてオーナーの背後から後頭部にココナッツを叩きつける。このとき、ものすごく冷静なパティシエの横顔が映し出されます。

ところが、頭から血を流して倒れるオーナーを見ると、パティシエは激しく狼狽します。そして、しばしその場に座り込み、「あなたがいなくなったら、ここにいる意味ないじゃない」とひとりごちるのです。

え、何、どっち? と思ったんです。衝動的に殺そうと思ったなら厨房なんだから包丁だってあるはずだし、包丁よりココナッツのほうが確実に殺せると思ったなら不自然だし、殺すつもりがなかったならココナッツを振り下ろしたときの冷静な横顔はなんだったのか。

今回の場合、その殺人が「物理的にムズイぞ」と「どういうつもりだったんだ?」の2つが引っかかってしまった。「ん?」が1コなら飲み込めるけど、2コ重なると飲み込み切れない。

単純に、ココナッツを使ったトリックをやりたいというところから逆算して事件を作っているわけですが、最後の段で慎重さを欠いていると感じた部分です。ミステリーである限り、そこは厳密にやってほしい。ドラマを楽しみたいという気持ちの表れですので、ご勘弁ください。

■篠原涼子には慣れるしかなさそう

事件にしゃしゃってくるミコさんのキャラクターについては、もう慣れるしかないでしょう。性格がアレなのも、事件にしゃしゃり出てくるのも、設定上のことですし、これを「おもしろさ」として提示してきているわけですから、楽しく見続けたいなら慣れるしかない。逆に言えば、この篠原涼子を受け入れられないなら、見ないほうがいい。

いろいろ飲み込まなきゃいけないものの多いドラマですが、終始楽しくはあるんですよね。どっかで、すげえおもしろいトリックが見られたらいいな。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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