猫さまに転生したヒトみたい! 犬派だった飼い主がひれ伏した猫さまの人心掌握術とは

人心掌握術に優れた猫さまの物語

【フレンチ猫さま】vol.230
猫さまの話をもっと聞かせて!
シマシマさまは9歳の男性猫さま。




<シマシマさまが語ります>
僕の飼い主は夫婦共に音楽家で、パリと田舎を行ったり来たりの生活です。
朝はカリカリ、夜はパテを食べています。とにかく食欲旺盛、食べることが大好きで、食べ物をねだる時は必ず飼い主の母のところに行きます。父がキッチンにいても、ピアノを弾いている母のところへ行ってかなりのアピールをはじめます。作戦で一番有効なのが楽譜をカリカリと爪でひっかくこと。これをすると母がすぐキッチンに飛んでいってご飯をくれるのです。ニンマリと微笑みながらバッハやショパンの楽譜を爪でカリカリします。



田舎にいる時は小ネズミを味わった後、プレゼントとして持ち帰ります。母の大敵ですが(笑)。日本製の『ちゃおちゅ~る』が大好きで両手で抱えてかぶりつきます。時々、父母が焼く鶏の丸焼きのお裾分けもあります。



パリにいる時は僕専用のカゴがあって、そこでお昼寝したり、心を休めたり、夜はそこでぐっすり熟睡します。バルコニーがあるので、朝パトロールするのも日課。バルコニーの木々に遊びにくる小鳥たちをじっと見つめて、カチカチ言いながら威嚇するのもお決まりの日課です。



田舎にいる時は、暖炉の前のソファーに寝っ転がってウトウトするのが至福の時間です。時々庭に出て、草の匂いを嗅いだり、足腰を鍛えるためのウォーキングもします。ただ、母の「シマシマ、ご飯だよー!」という掛け声が聞こえると、どこにいてもスプリングダッシュで駆けつけます。最初に覚えた人間の言葉が「シマシマ、ご飯だよー!」なんです。



とにかく人懐っこく、誰にでも優しく愛情表現をするので、そのコミュニケーション能力の高さは僕の大きな魅力だと思います。ビジュアル的にとても美しい顔と筋肉隆々としたボディーも自慢です!


<飼い主から見たシマシマさまとは>
前に一緒に暮らしていた黒猫のチチュスが16歳で旅立った後、2年経って猫との暮らしが恋しくなっていた時に、モンマルトルのふもとに住むピアニストの友人の家に4匹の子猫が産まれました。ふらっと夫と見に行きがてら遊びに行ったところ、4匹のうち1匹の子猫が私の腕の中に飛び込んできて、その瞬間心が決まりました。その子猫がシマシマです。



私たち家族はパリのバルコニー付きのアパルトマンで5年間暮らしていましたが、3年前にパリから1時間ちょっとの田舎にある元農家だった家を購入したので、2つの家を行き来しながら暮らしています。この田舎の家の庭は2ヘクタールあって、庭の中には川が流れていたり、鹿がいる森があったりと、野性味に溢れています!



愛猫の名前はシマシマで、まさに名は体を表す…です!(笑)
パリにいる時も、田舎にいる時も基本的に規則正しい(?)生活です。夜更かしもあまりせず、朝も適度な時間に起きて3食モリモリ食べて、バルコニーや庭を散歩して、それ以外は家中のあちこちにあるブランケットの上でグーグー寝ています。



シマシマは見かけは猫の姿をしていますが、その中にいるのは人間か?! というぐらい人の気持ちを読み取って寄り添ってくれたり、自分の希望を全身で表現したり、私たちと目をしっかり合わせて”会話”をすることができます。言葉がしゃべれないとは思えないぐらいの意思疎通能力の高さと存在感の強さはものすごいです…。



とにかく物怖じせず、初対面でもまずは近づいていって鼻と鼻を寄せあってウェルカムの意思を表現しています。産まれた時にお世話になっていた友人ファミリーの雰囲気がとてもおおらかで暖かい環境だったので、きっと人に対してのフレンドシップがそこで育まれたのではないかと思います。ちなみにそのファミリーも音楽家だったので、楽器の音を産まれた時から耳にしています。そのためか、思いっきりピアノを弾いていてもびくともせずに横でウトウト眠っています!



どうやったら自分が欲しいもの(食べ物やお水、または外に出たい時など)を欲しい時に手にいれられるか、という作戦をたてるのがかなり上手です。とても賢いんだと思います。主な作戦で一番効果が高いのは私のピアノの中に入り込んで弦をビンビンはじくことです。



人を喜ばせたい、皆が自分の存在でハッピーになってくれるのが何よりだ、という気持ちのありかたがとても私と似ている気がします。あとは食いしん坊なところ! 食べることへのパッションの強さはかなり似ています(笑)。私のことは食べ物と暖かい寝床を用意してくれるお母さんのような存在だと思っていると思います。夫言わせると、シマシマは自分が何をすると私がどう反応するか全て把握していて、それによって私が簡単に彼の思い通りに動いているという構図ができあがってるらしいです(笑)。私自身は夫と暮らすまでは猫と暮らした経験はなく、完璧な犬派でした。しかも子どもの頃、私が飼っていたインコが外から入ってきた野良猫にくわえて連れ去られるシーンを目撃して以来、猫はかなり苦手な存在でした。



ところが夫が大の猫好きで、一緒に暮らしはじめた時に夫が飼っていた老猫チチュスも一緒に暮らすことが選択の余地がない状況になり、そのお陰で猫と暮らす楽しさ、豊かさを知りました。チチュスが2年後に亡くなった時、自分でもびっくりするぐらいぽっかり穴があいたような気持ちになりました。チチュスも2年の間にすっかり私に懐いてくれて、膝の上ですやすや眠るぐらいに仲良くなっていました。そして、どんなに深く寝ていても、夫が部屋に入ってくると、夫を裏切ってしまった浮気現場をつかまれたパートナーのごとく、さっと退場するのが何とも愛らしかったです(笑)。



シマシマのエピソードですが、ある夜、夫と一緒にコンサートに出かけました。18時過ぎだったでしょうか? コンサートの後ゆっくりディナーをして、深夜0時過ぎに私たちの住む3階のアパルトマンまでの階段を登っていったところ、家の扉の前でシマシマが4本の足を揃えて私たちを待っていました! ドアを開けると一緒に出てしまうことが多いので、夜の外出時もものすごく注意していたのに、まさか一緒に外に出ていたとは! そして6時間近くたった後でも家の前で私たちの帰りを待っていてくれたことに、びっくりしました。後から隣人に聞くと、地上階の中庭まで降りてきたらしく、少しうろうろと歩いた後は、また3階の自分の家を迷わず見つけて(どの階数のアパルトマンもみな似たような外見なのに!)、その前で私たちの帰りをじっと待っていたそうです。忠誠心に感動しました。



シマシマからは柔らかさ、静けさ、美しさを感じます。猫はいつも美しくエレガントです。なんたってシマシマは穏やかで、面白いことが多いので毎日の生活が楽しくて仕方ありません。私たち夫婦は子どもがいないので、シマシマは大事な子どものような存在でもあり、時には寄り添ってくれる親友のようでもあります。また、世知辛いパリの暮らしを一緒に乗り越えてくれる戦友のような存在でもあり、黙って私たちの疲れを癒してくれるようなセラピストのような存在でもあります。


ーー毎日ピアノの音が流れる生活のなかで、シマシマさまは楽しい毎日を送っています。猫さまが苦手だった飼い主が猫さま好きになった話も興味深いですね。シマシマさまとの毎日は充実したものになっている様子がよくわかりました。でも田舎に行った時に小ネズミのプレゼントは少し控えてください(笑)。


著者情報
松永学
猫さま好きフォトグラファー。雑誌、webなど多くの媒体で活躍。猫歴、実家に通っていた野良を含めると10匹以上、パリには2匹の猫さまを連れて移住、現在は保護猫3匹と暮らす。どこへ行っても通りで見かけた猫さまに挨拶は忘れません!

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