「年収の壁」助成金の利用見込みは3749社。年収の壁・支援強化パッケージの効果とは

手取りが減少する「年収の壁」問題。2024年10月に社会保険適用拡大へ

厚生労働省は2024年2月29日に「年収の壁・支援強化パッケージ」を活用する事例を取りまとめました。

計画届を受理した件数は全国で3749件となっています。

年収の壁とはどのような問題で、政府はどのようにして解消しようとしているのでしょうか。

今回は、年収の壁にまつわる課題と政府の支援策「年収の壁・支援強化パッケージ」について解説します。

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年収の壁にまつわる問題

年収の壁とは、扶養内で収入を得ていた人が、扶養から外れた場合に手取りが減少する問題をいいます。

社会保険料の負担が必要になる壁のラインは「106万円」と「130万円」の2つです。

「年収106万円の壁」は、以下の条件を全て満たした場合、社会保険の加入が必要になり、手取りが減少します。

  • 従業員数が101人以上
  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 2ヵ月を超える雇用の見込み有
  • 学生ではない

従業員数が101人以上の企業においては、所定内賃金が月額8万8000円以上(年収約106万円)になると社会保険料の負担が発生するということです。

また、夫の家族手当も扶養から外れて支給されなくなり、世帯の手取りが減少することも懸念されています。

2024年10月、こちらの対象が「従業員50人超の企業」まで拡大される予定です。

一方、年収130万円の場合は、労働時間や勤務先の従業員の規模にかかわらず社会保険への加入が必要です。

このように、社会保険の加入によって世帯の手取りが減少する問題を解消するために「年収の壁・支援強化パッケージ」が実施されました。

どのような制度なのか次章にて確認しましょう。

年収の壁・支援強化パッケージとは

「年収の壁・支援強化パッケージ」は、年収の壁を解消する目的で、2つのコースを用意しています。

  • 年収106万円の壁への対応:キャリアアップ助成金
  • 年収130万円の壁への対応:被扶養者認定の円滑化

キャリアアップ助成金は、社会保険が適用されるパートやアルバイトで働く人を対象にしています。

社会保険への加入が必要になった人が、社会保険料でこれまでより手取りが減らないように助成金が支払われる制度です。

106万円の壁への対応

キャリアアップ助成金は、「手当等支給メニュー」と「労働時間延長メニュー」の2つです。

どちらのメニューも、社会保険料で天引きされる金額以上に賃金を上乗せして労働者に支払った場合、助成金を支払います。

助成金は企業に直接支払われ、最大で50万円が支払われます。また、年収130万円の壁を解消するために、被扶養者認定の円滑化も用意されました。

130万円の壁への対応

年間で130万円以上の収入を得たとしても、一時的な収入の増加であれば扶養内として認定できる制度です。

「年収の壁・支援強化パッケージ」活用事例

「年収の壁・支援強化パッケージ」において、キャリアアップ助成制度を利用する人は、コースごとに以下の通りになりました。

  • 手当等支給メニュー:約500名
  • 労働時間延長メニュー:約700名

2024年1月末時点で取りまとめた「年収の壁・支援強化パッケージ」の活用事例を確認しましょう。

キャリアアップ助成制度「手当等支給メニュー」

「手当等支給メニュー」では、週20時間以上の労働を希望している従業員が、社会保険料によって手取りが減少しないように、企業が社会保険料に相当する額を助成します。

個別の事例イメージ

企業の活用事例では、新たに社会保険が適用される従業員に対して、2年間の手当を支給する見通しです。

ただし、手当等支給メニューは3年目まで助成されますが、その後は助成制度がありません。将来的には、社会保険料の負担をする可能性もあるので、その点については注意が必要です。

キャリアアップ助成制度「労働時間延長メニュー」

労働時間延長メニューは、年収128万円を超える収入を希望する場合、労働時間の延長を整備する制度です。

活用事例では、労働時間を延長できる従業員の労働時間を、1週間で4時間以上延長しています。

個別の事例イメージ

キャリアアップ助成金によって、以下の効果がみられたと報告されています。

  • 社会保険加入者が増加
  • 勤務時間が増加し、人手不足の解消に寄与

計画届を受理した3749件の活用が、どのような効果を及ぼすのか、引き続き検証していく必要があるでしょう。

2024年10月に社会保険適用拡大

社会保険の適用要件は、2024年10月に改定される見通しです。

現行では、年収106万円以上で従業員が101人以上の場合が適用ですが、10月以降は従業員数が51人以上で適用されます。

「年収の壁・支援強化パッケージ」によって、手取りの減少や労働力不足が解消されるのか、引き続き注目しましょう。

参考資料

  • 厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」
  • 厚生労働省「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)活用事例」
  • 厚生労働省「「年収の壁・支援強化パッケージ」キャリアアップ助成金 計画届受理状況の取りまとめ (令和6年1月末時点)」

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