クロちゃん“泣き虫少年”のメンタルを鋼にした「女性教師の激怒」と「心を楽にする思考法」

クロちゃん 撮影/有坂政晴

唯一無二すぎるキャラクターで、いちどその魅力に気づくと目が離せなくなってしまう芸人、安田大サーカス・クロちゃん。近年は『水曜日のダウンタウン』(TBS系)などで芸人界屈指の「クズキャラ」として名を馳せている一方、人間らしい「喜怒哀楽まみれ」の姿に好感度もアップしている。そんな最低で最高な人間・クロちゃんの「THE CHANGE」とは。【第1回/全5回】

取材時、向かい側に座るクロちゃんがテーブルの下で足をモゾモゾと動かす。すると慣れた手つきで、靴を、そして靴下を脱ぎ、裸足になって床に足をつける。記者が「なぜ靴を脱いだんですか?」と聞くと、「え!」と虚を突かれたような声をあげる。

「え、いや……えっと、靴を脱いだのは、僕、ブラジルの格闘技のカポエイラをやっているんですけど、裸足でやるんです。つまり、本気になったときは裸足になるってことです」

ーーいま、本気になっているということなんですね!

「どんなに床がベタベタなところ……ラーメン屋さんでも裸足になっちゃいます。僕、中学校のとき、足を鍛えるために裸足で学校に行っていたんですよ。左手に靴を持ちながら。それに慣れて、靴と靴下を履くと落ち着かなくて。リチ(クロちゃんの彼女)も、一緒にメシに行ったとき、僕が黙ってバレないように裸足になっているのを、テーブルの下に落とした物を拾おうとしたときに見て、“えっ!?”となっていました」

ーーそれは業界内では有名な話なんですね。

「いや、そこまでは知られてないもんね?(と、隣にいたマネージャーに問いかける)」

マネージャーK氏「誰も興味ないですよ」

「そんなこと言うんじゃないよ! でも、初めてこんなに食いつかれてびっくりした……」

クロちゃんといえば、昨今は、いくら世間からキツく当たられようと、SNSで炎上しようと、自らのスタンスを一切変えずに貫き続ける「最強メンタルの持ち主」として知られている。昨年1月には『日本中から嫌われている僕が、絶対に病まない理由 今すぐ真似できる! クロちゃん流モンスターメンタル術30』(徳間書店)も上梓した。

「いまはそう言われていますが、もともとは誰よりもメンタルが弱かったんですよね。文句を言われるだけで泣いちゃうし、親にちょっと注意されるだけで泣いちゃうし」

そんな泣き虫少年に転機が訪れたのは、小学2年生のとき。テストの点数が悪く、当時の担任だった女性教諭が激怒したという。

「泣いても許してくれなくて……“怖い、怖い、怖い!”と、恐怖心でいっぱいになったんですね。でも次の瞬間、ふっと、先生のせいにしてみたんです。“ああ、この先生は、僕にきちんと説明できないから、怒っちゃうんだな。もうちょっと優しく話してくれたら僕もわかるはずなのに、頭ごなしに怒るってことは、先生は感情のコントロールが苦手な人なんだな。仕方ないんだな”と。そう思ったら、ちょっと楽になったんですよ」

小2ながら、大人のアンガーマネジメント力の未熟さを感じとったクロちゃんは、もうひとつ、「先生のせい」にすることで自分を納得させたという。

心を楽にするための「メンタルコントロール」

「“僕が点数を取れなかったのは、先生の教え方がわかりにくいからじゃないか? なら、自分でちゃんと勉強しよう”と思ったら、予習復習するのが苦じゃなくなったんです。ただ、120%の力で気合いを入れて予習復習すると、“これだけやっても、また点数が悪かったら怒られる……”とプレッシャーになってすごく苦しいと思うんですよね。だから僕は、気楽な気持ちを意識して、半分の力も出さずに勉強していました」

追い詰められ、自分の心身が脅かされてしまう前に、クロちゃんは無意識のうちにメンタルコントロールをしていたのだ。

クロちゃん 撮影/有坂政晴

「学校では“人のせいにしちゃいけません”と教えられますけど、僕は逆に“人のせいにしないといけないな”と思ったんです。それがいちばんの分岐点かもしれないですね」

ーー「人のせいにする」というと、ふつうは人を悪者にすることで、自分を正当化しようとする行為です。でもクロちゃんの場合は、自分が苦しくなる理由を分析するために、「原因はその人にある」と考えるわけですね。

「なにか問題があったとき、人のせいにしたほうが楽になれるんだな、と思いましたね。もうちょっと成長して、部活の先輩に手をあげられながら怒られたときも同じでした。“この先輩はきちんと説明ができないから、すぐに手が出ちゃうんだな。論破しようと思ったらできちゃう人なんだろうな”と思うようにしていました」

誰だって好き好んで怒られたいとは思わない。「そんなに怒らないで」と言っても、怒る人は変わらず怒り続ける。ならば、怒りを浴び続けるのは不毛である。そんな不毛さを乗り越えるために、自分でなんとかするしかない、とクロちゃんは立ち上がったのだ。

「それでもしんどいと思ったら、“この人は、僕の伸びしろを感じて、僕のことを思って怒ってくれているんだな”と考えましたね。もし相手にそんな意図がなかったとしても、そう思うことでやる気のパーセンテージを上げることができるんです。あと、そう思わないと、その人のことを嫌いになっちゃう。会うたびに“うわ!”となるはイヤですから」

「人のせいにする」という考え方がけっして単なる「責任転嫁」にならないのは、根底にある、クロちゃんの心根の優しさゆえだった。

クロちゃん
1976年12月10日生まれ、広島県出身。2001年、団長安田、HIROとともにお笑いトリオ『安田大サーカス』を結成。コワモテフェイスとギャップのあるハイトーンボイスが特徴で、近年は『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で大ブレイクし、「愛すべきクズキャラ」として人気を集めている。アイドル好きとしても知られ、アイドルグループ『豆柴の大群』アドバイザーとしての顔や、アイドルフェスプロデューサーとしても才能を発揮している。

© 株式会社双葉社