『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』父と子の物語として構築された偉大なる続編

『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』あらすじ

帝国軍から攻撃を受け、反乱軍は氷の惑星ホスから撤退。ハン・ソロとレイア姫は帝国軍から追われる。一方ルークは、ジェダイ・マスターのヨーダのもとで修業を積む。しかしダース・ベイダーと対峙したルークは、自らの出生について衝撃の事実を知ることになる…。

業界が見過ごしてきた才能、アーヴィン・カーシュナー


スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(77)で歴史的成功をおさめたジョージ・ルーカスが、その続編を制作するにあたって心に決めていたのは、「自分は監督しない」ことだったという。考えてみれば、自分が生み出した偉大なるサーガを人の手に委ねるというのは、一人のクリエイターとして非常に奇妙なこと。それだけ彼は、一作目で疲労困憊していたのである。

非常に内向的な性格で、役者に対する演技指導も苦手。スーパーシャイなルーカスにとって、監督業に戻ることはありえないことだったのだろう。第二作『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(80)では製作総指揮にまわり、具体的なプロデュース業も盟友ゲイリー・カーツに一任。家族との時間を楽しみつつ、自身が設立した特撮工房インダストリアル・ライト&マジック(ILM)のさらなる拡大と、カリフォルニアに巨大スタジオのスカイウォーカーランチを設立することに専念する…。それが、彼が描いていた青写真だった。さっそくルーカスは、映画監督のアーヴィン・カーシュナーにコンタクトをとる。

『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(C)2024 Lucasfilm Ltd.

「ある運命的な日、ジョージ・ルーカスから電話をもらった。テニス仲間だったから、その誘いかと思ったよ。あるいは相談事かと。だが違った。彼は“ユニバーサルで昼食を”と誘い、私は承諾して撮影所へ行った。一緒においしい昼食をとったよ。やがて彼は言った。“カーシュ、『スター・ウォーズ』の続編の監督を頼む”。シーンと静まり返ったよ。私は彼を見てこう言った…“イカれたのか?”と」(*1)

『帝国の逆襲』の監督に指名された日のことを、カーシュナーはそう回想している。まさに青天の霹靂。一度はそのオファーを固辞するが、周りからのとりなしもあり、最終的に世界的大ヒットを飛ばしたスペースオペラの第二弾を手がけることになる。

チャールズ・ブロンソン、ショーン・コネリー、ロバート・ショウ、バーブラ・ストライサンドといったスターを主演に迎えて、数々の娯楽作品を撮り続けてきたベテラン監督とはいえ、彼は決して知名度の高いフィルムメイカーではなかった。だがジョージ・ルーカスにとってカーシュナーは、南カリフォルニア大学で学んでいたときの講師であり、映画作りについて様々な助言を与えてくれたメンター的存在。ルーカスは“業界が見過ごしてきた大きな才能”と高く評価し、三顧の礼をもって『スター・ウォーズ』の世界に招き入れたのである。

「信頼できる人、本当に尊敬できる人、成熟したユーモアのある人が必要だった。それがカーシュナーだったんだ。『帝国の逆襲』を単なる続編、スペース・アドベンチャー・シリーズの1エピソードにしたくなかった。私は何かを作り上げようとしていたし、カーシュナーはその手助けをしてくれる人だとわかっていた。彼は多くのものをもたらしてくれたよ。彼には本当に感謝している」(*2)

“オリジナルに立ち向かい、それを超える”


『帝国の逆襲』の撮影にあたって、ルーカスはカーシュナーにこんな言葉を投げかけたという。

「『スター・ウォーズ』トリロジーの2作目は、1作目と同等かそれ以上の作品でなければシリーズにならない。(中略)可能な限りオリジナルに立ち向かい、それを超えなければならない」(*3)

『スター・ウォーズ』が偉大なるフランチャイズとなったのは、間違いなく『帝国の逆襲』の成功があったからこそだ。1作目を超えてシリーズ屈指の傑作という声も高い。マスター・ヨーダ、皇帝パルパティーン、ランド・カルリジアン、ボバ・フェットという人気キャラクターが初登場し、あの有名な「帝国のマーチ」(The Imperial March)が流れ、ハン・ソロとレイア姫のロマンスが展開する。何よりもこの映画は、『スター・ウォーズ』にダークな雰囲気を与えた。痛快娯楽大作というよりも、悲劇的な要素が強い本シリーズのトンマナを決定づけたのは、この『帝国の逆襲』なのである。

『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(C)2024 Lucasfilm Ltd.

ルーカス自身は、旧3部作(オリジナル・トリロジー)の中間に当たる本作について、「プロット上の仕掛けは多いとは言えない」と冷静に分析。ルークがヨーダのもとで修行に明け暮れるシークエンスは、必要不可欠ながらもドラマティックな要素は少ないと考え、ハン・ソロとレイアが帝国軍からの追撃をかわそうとするシークエンスと同時進行させることを決断。ルークが己のなかにダークサイドを垣間見る内面描写と並行して、ミレニアム・ファルコン号と帝国軍のエンタメ感満載なドッグファイトを描いた。

思い返してみれば、『ロード・オブ・ザ・リング』(01)も9人の旅の仲間が一路モルドールを目指す直線的な物語だったが、その続編『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』(02)では、フロドとサム、ピピンとメリー、アラゴルンとレゴラスとギムリの、3組のパーティを並行で描くスタイルが採られていた。第1作で世界観の説明は済んでいるからこそ、続編では思いっきり各キャラクターの掘り下げに集中できる。

『帝国の逆襲』は、J・R・R・トールキンによる最も有名なファンタジー小説と同様の構造をまとうことで、物語の強度を高め、登場人物の内面に迫ることに成功したのである。

『地獄の黙示録』との共通項


ルーカスは「プロット上の仕掛けは多いとは言えない」と語っているものの、本作にはひとつ大きな仕掛けが存在する。ルーク・スカイウォーカーの父親が、ダース・ベイダーだったというスーパー・サプライズだ。「I am your father」という告白をルークは受け止めきれず、思わず「No!」と絶叫する。今となっては世界的常識のひとつと言って差し支えないだろうが、『帝国の逆襲』公開当時はとてつもない衝撃をもって迎えられた。この事実が漏洩されないように、撮影現場では鉄桶水を漏らさぬセキュリティ対策が敷かれていたほど。

ダース・ベイダーを演じるデヴィッド・プラウズには「オビ=ワンがお前の父親を殺した」というセリフを言わせ、後から吹き替えで「私がお前の父親だ」というセリフに入れ替えたほどの徹底ぶり。デヴィッド・プラウズは完成した映画を観るまでその事実を知らず、ダース・ベイダーの声を演じたジェームズ・アール・ジョーンズは「ベイダーは嘘をついている」と思い込んでいたという。

我が子をダークサイドへと誘惑する父。息子はそれを乗り越え、自分自身を発見し、ジェダイとしてのアイデンティティを確立する。この父と子の関係は、神話や伝説にそのルーツを見出すことができるだろう。そして同時に、フランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』(79)にも、その萌芽を垣間見ることができる。

『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(C)2024 Lucasfilm Ltd.

もともとルーカスは、『風とライオン』(75)や『ビッグ・ウェンズデー』(78)で知られるジョン・ミリアスと共に、ジョゼフ・コンラッドの小説『闇の奥』の映画化を進めていた。だがベトナム戦争が激化していた時代背景もあり、その企画を友人のコッポラに譲り渡したのである。

カンボジアの奥地に独立王国を築き、山岳民から神のごとき存在として崇められていたカーツ大佐(マーロン・ブランド)。彼を密かに暗殺すべく、秘密工作員のウィラード大尉(マーティン・シーン)が送り込まれる。残酷で無慈悲なベトナム戦争の現実を目の当たりにして、闇の奥へと身を潜めたカーツの姿は、皇帝パルパティーンの誘惑に屈してダークサイドに堕ちたダース・ベイダー=アナキン・スカイウォーカーと重なる。カーツを殺害することでその闇を追い払おうとするウィラードは、父親を暗黒面から救い出そうとするルーク・スカイウォーカーそのものだ。

ダースは「Dark lord of the Sith」の略称であり、ベイダーはオランダ語で“父”を意味する。文字通り、黒い父親。その巨大な存在を乗り越えることで、主人公は初めて試練に打ち勝つ。「『スター・ウォーズ』シリーズは、全編を通して「父と子の物語」と読み解くができるが、その嚆矢となったのが『帝国の逆襲』なのである。

巨大なインディーズ映画


ジョージ・ルーカスは、『スター・ウォーズ』のフランチャイズ権で得た収益を元に、銀行からの融資と組み合わせて製作資金を自己調達している。20世紀フォックスから資金提供を受けない代わりに、誰からも侵犯されないクリエイティブの自由を手に入れたのだ。ある意味で『スター・ウォーズ』とは、ルーカスによる巨大なインディーズ映画といえる。

だが実際に撮影に入ると、スケジュールは大幅に遅れ、予算も雪だるま式に超過していく。銀行からの融資もキャンセルされてしまう事態に陥り、ルーカスは資金繰りに奔走した。なんとか別の銀行から新しくローンを組み直すことができても、また予算オーバーの繰り返し。彼はこう述懐している。

「『帝国の逆襲』の撮影を担当したのは素晴らしいカメラマンだったが、照明に時間がかかったね。1作目は1,300万ドルという超低予算映画で、撮影は一晩で済ませていた。だが2作目はその3倍の費用がかかり、撮影にもかなり時間がかかってしまった。それでも低予算で済むと思ったが、そうはならなかった。幸いにも成功して、私はお金を取り戻したけどね」(*4)

その一方でルーカスは、アーヴィン・カーシュナーが自由に撮影ができる環境を整えられるように腐心していた。創造主たる自分の存在が邪魔にならないように、気を配ったのである。

『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(C)2024 Lucasfilm Ltd.

「ジョージはこれまで一緒に仕事をした中で、最高のプロデューサーだったよ。彼は私を放っておいて、何度かイギリスに来ただけだった。ある時私はジョージに、“誰のせいでもないけれど、あまりに複雑なためにスケジュールが遅れている”と言った。セットで行われる特殊効果の多くは、まったく機能しないことが多かったんだ。彼の答えは“今やっていることを続けろ。撮り続けるんだ”。これは監督にとって、プロデューサーから聞いた最高の言葉だったね」(*5)

だがプロデューサーを務めたゲイリー・カーツは、ルーカスはコントロール・フリークの一面があると明言している。

「彼は任せるのが苦手だったんだろうね。彼はすべてをコントロールしたがることもあれば、どこかへ行ってしまい、長い間連絡が取れなくなることもあった」(*6)

『スター・ウォーズ』において、ルーカスの発言は神の一言にも等しい。どこまで自分がこのフランチャイズを支配すべきなのか、支配せざるべきなのか。自ら招いた“師”にどこまで口出しすべきなのか。ひとつ間違ってしまえば、彼自身が支配欲に取り憑かれ、ダークサイドに堕ち、ダース・ベイダーとなってしまう。

ルーカスの心情を窺い知ることはできないが、少なくとも表面的にはアーヴィン・カーシュナーにクリエイティブの自由を保証することで、彼はジェダイのままでいられたのかもしれない。ダークサイドは物語のなかだけではなく、ルーカスの内面にも侵食しようとしていたはずなのだから。

(*1)「巨匠たちとの対談」(2010年)

(*2)https://www.today.com/popculture/george-lucas-mourns-his-mentor-empires-irvin-kershner-wbna40422602

(*3)https://screenrant.com/star-wars-george-lucas-empire-strikes-back-fears/

(*4)https://www.empireonline.com/movies/features/george-lucas-the-empire-strikes-back-interview/

(*5)https://www.vanityfair.com/hollywood/2010/10/irvin-kershner

(*6)https://www.ign.com/articles/2002/11/11/an-interview-with-gary-kurtz

文:竹島ルイ

映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。

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(C)2024 Lucasfilm Ltd.

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