『岸辺露伴は動かない』「密漁海岸」注目ポイントを解説 「ジャンケン小僧」復習が“ベネ”?

ドラマ『岸辺露伴は動かない』第9話「密漁海岸」が、5月10日にNHK総合で放送となる。それに先駆けてBSP4Kでは5月5日に先行放送されるほか、ドラマ第3期の第7話「ホットサマー・マーサ」、 第8話「ジャンケン小僧」の再放送が5月5日に、映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』が5月6日にそれぞれNHK総合にてオンエアとなる。

『岸辺露伴は動かない』の原作漫画の中でも屈指の人気を誇る「密漁海岸」は、岸辺露伴(高橋一生)とトニオ・トラサルディー(Alfredo Chiarenza)が「ヒョウガラ列岩」へとクロアワビを密漁しにいくという、海中での描写も含めて実写化が難しいとされてきた、アニメ化もされていないエピソード。

放送を前に4月22日に開かれた出演者会見にて、脚本・演出を手がけた渡辺一貴監督が、「今までやろうと思っていても、手の届かない存在だった『密漁海岸』に、ようやく5年目にして手が届いた」「ここまで積み重ねてきたから、できるかもねという手応えがチームみんなにできていた」と話していたことに筆者はそれが試写会後ということもあり「納得」したのだ。映画公開後の初めてのドラマシリーズとして、原点に帰りながら、これまでの経験から培った技術や演出、要素を詰め込んだ傑作と呼ぶに相応しい作品。故に、今回ドラマ3期の再放送と『ルーヴル』の地上波初放送がセットになっていることにも「納得」がいく。

今回の「密漁海岸」は、『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部「ダイヤモンドは砕けない」でトニオが初登場する「イタリア料理を食べに行こう」と「密漁海岸」を前後編として繋ぎ合わせた構成。原作では露伴の出てこない「イタリア料理を食べに行こう」をドラマ『岸辺露伴は動かない』の世界に落とし込むというのは大胆かつチャレンジングでもあるが、これまでも第2期の「背中の正面」、第3期の「ジャンケン小僧」が『ジョジョ』からの原作エピソードということで先例にあり、その経験が生きているとも捉えられる。

とは言え、演じる飯豊まりえが話しているように特に泉京香の言動はかなり「トリッキー」だ。原作のキャラクター虹村億泰のポジションを京香(と少しだけ露伴)が担っており、試写会の会場にも笑いが起きていたほどに、奇妙な現象と「これぞ、荒木飛呂彦のワードセンス」といった比喩表現が連発される。

編集者として少々お疲れの京香は、寝不足と虫歯を患っているという設定。トニオのイタリア料理を食べ、その能力で京香は大量の涙を流し眼精疲労が回復、虫歯が吹っ飛び新しい歯に生え変わるという、トニオの「ギフト」(能力)が効果として顕著に表れる。詳細は伏せるが、大量の涙は『ルーヴル』から、歯の生え変わりは第1期の「くしゃがら」でのシーンを彷彿とさせる特殊造形の技術がそれぞれ使用されており、熱心なファンにとってはこれまでのシリーズを踏襲していることが最も感じられる部分かもしれない。そして、初見の視聴者に向けてトニオの能力を解説する役割も担っているこの前半パートが、渡辺監督が言う「荒唐無稽」でありながら、「説得力のある設定」に当てはまっている。

後半パートとの対比として真っ先に想起したのが「ジャンケン小僧」だ。渡辺監督が『ジョジョの奇妙な冒険』の世界を映像にしたいと思ったきっかけのエピソードであり、露伴と大柳賢(柊木陽太)によるスリリングな会話劇が上質なエンターテインメントとして完成していた「ジャンケン小僧」。対して、「密漁海岸」は相手がアワビということもあり、海に出てからはほぼ会話のない身体的な動きがメインとなる。そういった意味では、第2期の「ザ・ラン」も露伴と橋本陽馬(笠松将)のトレッドミルを使った肉体的な戦いが展開されていたが、「密漁海岸」は水中戦。そこがこのエピソードの最大の山場であり、実写化への最大の難所であったことは想像に難くない。

海中でのシーンは、水中での撮影チームを新たに迎え入れ、実際の海でのロケと潜水用のダイビングプールで撮影。水深が10メートルはあるプールで、高橋は3メートルから5メートルぐらいの深さまで潜っていたという。『午後LIVE ニュースーン』(NHK総合)でのインタビューでは、3kgはある「おもし」をアワビの裏側に接着剤でみっちりと付け、自身が本当に沈めるかを調整していったことを明かしている。正真正銘、これまでのシリーズの中で最も身体を張った、高橋の身体能力の高さが遺憾無く発揮されているエピソードと言えるだろう。同時に、難易度の高い「密漁海岸」への挑戦には、『ルーヴル』での撮影から生まれた手応えがチームとしての自信に繋がっているというのが一番にあるはずだ。

ほかにもセリフや音楽においてなど、シリーズの積み重ねとして感じるポイントはまだまだある。放送を前に今言えることは、原作エピソードを読み、第3期の再放送と『ルーヴル』を観て「密漁海岸」に備えるのが「ベネ(良し)」ということだ。

(文=渡辺彰浩)

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