「無眼球症」の元保護犬ムゥくんとの暮らし。そのお世話と工夫を飼い主さんに聞いた

この特集では、難病や障がいをもった愛犬とその飼い主さんの、闘病や暮らしの様子をレポートします。

今回ご紹介するのは、生まれつき両目の眼球がない「無眼球症」で、元保護犬だったミックスのムゥくんのお話です。

1回目の記事|生まれつき両目の眼球がない愛犬ムゥくん 同居犬たちと活発に過ごす様子を聞いた

5頭の犬たちとの生活を通してますます輝く笑顔になったムゥ

神奈川県のSさん宅に迎えられたムゥくん(オス・1才/6.8kg/ミックス/ポジティブでやさしい)

5頭の先住犬がいるSさんのお宅に迎えられたムゥくん。Sさんはムゥくんを特別扱いしないで、ほかの5頭と分け隔てなく接することを心がけているそう。そのうえで、目が見えないムゥくんがケガなどをしないよう、注意していることを聞きました。

まず、ムゥくんのためにリビングには極力物を置かず、家具のレイアウトは変えないようにしました。そして、Sさん家では、犬たちがリビングと広い庭を自由に行き来できるように、掃き出し窓の外に大きなスロープを設置しています。島田さんの在宅時、犬たちは庭を走り回ったり、ひなたぼっこを楽しんだりします。

「まずは、このスロープを下りることをムゥに教えました。最初はサッシとスロープの間の仕切りを越えるのを少し怖がったのですが、声と床をたたく音で何度か誘導するうちに、1週間くらいで越えることができました。その後、すぐに5頭の犬たちといっしょに散歩にも行けるようになったんです」とSさんはムゥくんのがんばりを笑顔で話します。

ムゥくんを初めて5頭の愛犬たちとの散歩に連れていったときは、あえてカートなどは使わず、ゆっくり島田さんの足元近くを歩かせるようにしました。最初は戸惑って立ち止まってしまったムゥくんですが、Sさんは根気よくリードを引いて誘導するなどして、ムゥくんが歩道や公園を歩けるようトレーニングしました。

「無眼球症」のムゥくんの毎日のお世話と工夫

留守番時や就寝時は、どこかにぶつかってケガなどしないようケージに入れます。排泄は、滑り止めつきのスロープを下りて庭でできるように。毎朝、涙やけ防止のために目のまわりのケアも行います。

留守番時と夜寝るときは、専用のケージに入れる

撮影/犬丸美絵

ケージはリビングの定位置に置いて、Sさんの外出時や就寝時には入れるようにします。水入れのボウルは、ムゥくんのあごの高さに合わせてケージに固定。留守番カメラも置いて見守れるように。

タオルやベッドは無撚糸の素材を選び、噛んでも口に糸がからまないようにする

撮影/犬丸美絵

ムゥくんは、ケージに敷いたベッドやタオルを噛んでしまうことがあるので、糸がほつれて口の中にからまないよう、無撚糸の素材を選びます。タオルは人のベビー用品のもの。

室内から安全に庭に出られるよう滑り止めマットを敷いたスロープを設置

撮影/犬丸美絵

リビングから庭へ下りられるよう幅の広いスロープを設置。スロープには人の介護用マットを敷いて、滑らないようにする工夫も。トイレは庭の決まった場所でするようにしています。

おもちゃなどの物に誘導するときは、床を指でたたいて教える

撮影/犬丸美絵

ムゥくんは音やニオイで方向を把握します。お気に入りのおもちゃがある場所などを知らせるときは、床を指でたたいて誘導します。また、家の中ではSさんの足音を聞いて、あとを追ってくるそう。

涙腺からの涙が多いので毎朝ガーゼで目のまわりをケアする

撮影/犬丸美絵

眼球がなくても涙腺から粘度のある涙が多く出るので、毎朝、ぬるま湯で湿らせた滅菌ガーゼで、目のまわりをよく拭きます。また、顔まわりの被毛もSさんがカットして清潔を保ちます。

次回は、これからのムゥくんとの暮らしについて、Sさんの思いをレポートします。

出典/「いぬのきもち」2024年1月号『困難と闘う!……その先のしあわせへ』
写真/犬丸美絵
写真提供/Sさん
取材協力/葉山どうぶつ病院
取材・文/袴 もな
※掲載の情報は「いぬのきもち」2024年1月号発売時のものです。

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