一時1ドル=151円台後半…いったん止んだ円売りの流れ 「介入余力」は?どうなる週明けの円相場

3日のニューヨーク外国為替市場の円相場で円が上昇し、一時1ドル=151円台後半と、約3週間ぶりの円高・ドル安水準をつけた。政府・日銀が相次いで円買い介入を実施したとの観測が強まるなか、円の対ドル相場は1週間で8円を超える大幅な値動きを見せている。

ドル売りを促したアメリカ雇用の下ぶれ

3日、アメリカ労働省が発表した4月の雇用統計は、市場の関心が高い非農業部門の就業者数が、前月比17万5000人増だった。31万5000人増だった3月から減速して、24万人程度としていた市場予想を大きく下回り、インフレの要因となってきた労働市場のひっ迫が緩んだことを示す内容になった。

日本が祝日だった3日は、アジア市場の円相場で、1ドル=153円をはさんだ取引が続いていたが、アメリカ雇用統計の数値を受け、FRB=連邦準備理事会による利下げ開始が先送りされるとの観測が後退し、米国債に買いが広がって利回りが低下し、幅広い通貨に対してドルが売られる動きが強まった。3日のニューヨーク市場の円相場は、一時1ドル=151円台後半まで値上がりした。

1週間で8円を超えた円の変動幅

ここ1週間の円相場は、対ドルで8円を超える大きな値動きを見せた。

一時、1ドル=160円を超えて円安が加速していた4月29日は、午後1時過ぎに流れが急反転し、一気に155円台まで円買いが進んだ。その後、157円台前半へと戻ると、再び円買いの動きが強まって、154円台半ばに上昇するなど、荒い値動きを繰り返した。5円を超える変動幅となったこの日は、政府・日銀が5兆円規模の円買い介入を実施したとの見方が強まっている。

2回目の介入観測が広がったのは、2日の早朝、午前5時過ぎだ。アメリカ東部時間1日夕方に、FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長の会見が開かれたが、終了後30分ほどたったタイミングで、円相場が大きく動いた。1時間も経過しないうちに、1ドル=157円台から153円ちょうどの水準まで一気に駆け上がった。

「意表を突く絶妙なタイミング」との声

2日の円急騰の直前に、円相場では円売りの勢いが鈍る状況が生まれていた。パウエル議長は会見で、利下げの開始時期が遅くなる可能性を示唆した一方で、「次の政策金利の動きが引き上げになる可能性は低い」として、市場の一部にあった追加利上げ観測を否定した。金融政策は十分に引き締め的だとの認識を示し、インフレが期待したペースで落ち着いていかない状況には、利上げではなく、利下げ見送りを続けることで対応し、引き続き利下げ時期を探っていく姿勢を見せた。

また、会見に先立って、FOMC(連邦公開市場委員会)では、6月からバランスシート縮小ペースを減速させることを決めていた。パウエル議長の表現ぶりやFOMCの決定が、市場が懸念していたほど「タカ派」ではなく、むしろ「ハト派」だとして、日米の金利差が開いていく状況にはならないとの見方が広がったことが、円売りの流れを緩めた。

そこに大量の円買い注文が入り、一気に円高が加速したのが、2日朝の円急伸劇だ。政府・日銀が、3兆円規模を投じて2回目の介入を行ったとの観測が強い。29日の1回目が、速まった円安ペースを食い止める断続的な円買いの実施だったとすると、2日の2回目は、円売り圧力の弱まりを見計らっての円押し上げの追撃だったと見てとれる。29日は日本が祝日にあたり、2日のケースは、議長会見が終了して市場が一息ついていた取引量の少ない早朝時間帯だった。市場関係者の間からは「円の売り手の意表を突く絶妙なタイミングを狙っている」との声が出ている。

「米国債」は換金されたのか

円売り介入とは異なり、円買い介入の場合は売却のためのドル資金が必要で、政府・日銀保有の「外貨準備」がその元手となる。

3月末時点で、その額は1兆2906億ドル(約200兆円)で、うち「預金」が1550億ドル(約24兆円)、「証券」が9948億ドル(約154兆円)ある。ドル建ての預金はそのままドル売りの原資として使えるが、「証券」は多くが米国債とされ、介入に使うには売却してドルに換える必要がある。市場では、米国債の売却はアメリカ政府の理解を得る必要があるとして、換金しやすい短期債を含めてもすぐに使える原資は限られるのではとの見方も出ている。

政府・日銀が前回、一連の為替介入に踏み切ったのは、2022年9月~10月のことだ。直前の2022年8月末時点の外貨準備は、2024年3月末時点と同規模の1兆2920億ドルで、うち、「預金」は1361億ドル、「証券」は1兆367億ドルだった。当時も、原資としてまず使われるのは全体の1割の外貨預金で、介入余力は限定的だという見方があったが、公表された月末時点の外貨準備の内訳で、介入後に減少していたのは、「預金」ではなく「証券」だった。アメリカ政府と話をつけたうえで、米国債を換金して円を買った可能性が推測される結果となった。

今回1回目の介入があったとされる4月29日分の売買が反映される4月末時点の外貨準備高は、9日午前に公表される。

投機筋の攻勢復帰は

円相場は、先週、1ドル=160円台という安値から大幅な円高・ドル安の水準にいったん値を戻した。投機筋が新たなポジションを立て直して、円売りドル買い攻勢を仕掛けていく態勢にすぐには復帰しない可能性があるが、アメリカでインフレをめぐる環境が変わらない限り、円安傾向は続きやすく、介入はアメリカが利下げ局面に入るまでの時間稼ぎに過ぎない側面が強い。

2022年秋の為替介入では、1ドル=145円や150円を突破した局面で、3回にわたって円買い介入が実施され、あわせて9兆円を超える金額が投じられて、その後、円相場では円安進行が一服した。アメリカの利上げ加速観測が後退し、日銀が長期金利許容上限の引き上げという政策修正を決めるという要因も重なって、3カ月後には一時127円台まで上昇して円売り基調にいったん歯止めがかかったが、1年後には、ほぼもとの円安水準にもどっている。

週明けの6日は、日本は連休中だが海外市場は売買があり、東京市場は、連休明けの7日、通常通りの取引が再開される。1年半ぶりに介入に動いたとみられる政府と市場の間での心理戦がどういう展開を見せるのか。介入の有無について政府が明言を避け続けるなか、円相場の値動きから目が離せない局面が続く。
(執筆:フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

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