『光る君へ』玉置玲央の道兼は序盤の紛れもないMVP “悪人”が最期に得た愛とやすらぎ

『光る君へ』(NHK総合)第18回「岐路」。道隆(井浦新)の死後、一条天皇(塩野瑛久)は道兼(玉置玲央)を次の関白にと命じる。民の為によい政をと奮起していた道兼だが、関白就任の日に倒れ、七日後にこの世を去った。内裏では、次の関白は伊周(三浦翔平)か道長(柄本佑)かで話が持ち切りだ。

道兼の最期は切ないものだった。

道兼は第15回で道長から励まされ、思いを改めて内裏での務めに励む。そんな道兼は第16回で悲田院の様子を見に行こうとしていた道長を引き止めると、こう言った。

「汚れ仕事は自分の役目だ」

かつて道兼は、父・兼家(段田安則)が兄・道隆ばかり評価することに鬱屈を抱え、その苛立ちを弟の道長にぶつけるなど、自身の憤りをうまく収めることができずにいた。

道兼を演じている玉置玲央が見せる表情や台詞の言い回しには、苛立ちや憤りといった表に表れる感情だけでなく、父に認められない、愛されていないことへの深い悲しみや兄弟と比べられる苦しみといった心の奥底も感じられる。道兼が第1回で犯したこと、まひろ(落井実結子)の母・ちやは(国仲涼子)を殺めたことは、若さゆえの過ちという言葉で決して片付けることはできない。しかし玉置自身の演技からは道兼が抱える苦しみが十二分に感じられ、それによって道兼はただの嫌な奴には映らなかった。むしろ、道兼の再起を見守りたいと思えるような人間味に満ちている。

第14回で兼家が三兄弟を東三条殿に呼びつけた時、兼家の言葉に愕然とし、「この老いぼれが、とっとと死ね!」と激昂する姿は強い印象を残した。玉置の凄まじい形相からは道兼の激しい憤りが感じられたが、それと同時に、父に認められたい一心で務めてきた彼の懸命さが改めて蔑ろにされる瞬間でもあり、見ていて悲しさもあった。第15回で道長に励まされ、涙を流す姿こそ、道兼本来の素直な姿といえよう。これまで怒りをあらわにすることでしか表現できなかった彼の弱さが見える印象的な場面だった。そんな道兼が自ら「汚れ仕事は自分の役目だ」と言った時、胸を打たれた視聴者は少なくないはずだ。第18回で道兼は、道長とともに悲田院の惨状を目の当たりにしたからこそ、「救い小屋」を公の仕事にすると約束する。

公式サイト内にあるキャストインタビュー動画「君かたり」で、玉置は道兼を演じきったことについて「道長のおかげでまっとうな人間になれた、させてもらえたような気がしているんですよね」とコメントしている。玉置が捉えた道兼の人物像、そして道兼の道長への思いは、最期の場面でより一層強く感じられた。道兼には、「兄上にはこの世で幸せになっていただきとうございます」と自らを見捨てずに支えてくれた弟・道長を思う気持ちがあった。

病に倒れた兄を心配する道長を、道兼は「お前が倒れれば、我が家は終わる。二度と来るな」と言って遠ざける。玉置が震える声で口にした「俺を苦しめるな」の言葉には、これまで道兼が抱えてきた兄弟への鬱屈と、兄として純粋に弟を疫病から守りたいという意思が混じり合うようにして感じられ、胸が切なくなった。ボソボソと念仏を唱え始めた道兼だが、茫然とした面持ちで「俺は……浄土に行こうとしておるのか……」と呟くと、力なく自分を嘲笑う。「無様だ……こんな悪人が……」という台詞の言い回しは、なんとも言えない心苦しい響きをしていた。玉置の憂いに満ちた笑い声が、道兼の虚しさや後悔を際立たせる。

一度は道兼の意を汲み、その場を離れた道長だったが、孤独に笑った後、激しく咳き込んで苦しむ道兼を放っておくことはできなかった。いてもたってもいられず、道長は御簾の中へ入っていき、兄を強く抱きしめる。

玉置は最期の場面について、「あくまで撮影していた自分の感覚ですけど、最終的には『(助けてくれたのに)道長ごめん』っていう感情が強かったんですよね」と語っている。それが伝わってくるのが、語り部が道兼の死を語る最中に見せた演技だ。道長の腕の中で、道兼は疫病の苦しみに悶えている。その苦しみの最中、病にかかるかもしれないことをいとわず、道兼の背中をさすり続ける道長への思いがこみあげ、じわじわとその目に涙が浮かんだ。その表情に、第15回で弟の前で見せた弱さを再び素直にさらけ出したのだと思えた。すがるようにして道長の腕をグッとつかむ道兼の手元が心に残っている。道長の家族を思う気持ちに触れたことで、若き日の道兼が求めていた家族からの愛をようやく得られたのだと感じた。道兼の最期は悲しみと苦しみに満ちていたが、家族に愛される安堵に包まれたものだったともいえる。

「あのお方の罪も無念も、すべて天に昇って消えますように……」

道兼の死を知ったまひろはそう言って、弔うように琵琶を奏でた。罪深い部分もあった道兼だが、その最期に寄り添った道長の存在によって、道兼を苛んだあらゆる苦しみから解放されたと思いたい。

(文=片山香帆)

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