松本まりかの“ピュアさ”が光る リアルを突きつけてくる『ミス・ターゲット』の面白さ

「結婚相手は条件で選ぶべき」なんてアドバイスをしてくる人がたまにいる。「どうせ、愛なんて冷めてしまうのだから」と。たしかに、お金がなければ生活はできない。でも、この世界に“好き”に敵うほど強い感情があるのだろうか。好きならば、その人のために身を粉にすることができる。好きなら、たとえ貧乏暮らしになったとしても、一緒にいるだけで笑顔になれる。

『ミス・ターゲット』(ABCテレビ・テレビ朝日系)のすみれ(松本まりか)も、本当はもう気づいているのではないだろうか。年収1億を超える起業家と飲む137万円のワインより、宗春(上杉柊平)と食べる草餅の方が美味しく感じてしまうことに。

本作の主人公・すみれは、さまざまな男を手玉に取ってきた結婚詐欺師だ。なのに、なぜこんなにもピュアに見えるのだろう? とずっと考えていた。その理由が、第3話で少しずつ分かってきたような気がする。

もともと、すみれは母親を死に追いやった闇金業者・黒崎(小木茂光)に復讐をするために、結婚詐欺師になった。黒崎が捕まったあとも、彼女が詐欺を仕掛けるのは悪事で荒稼ぎをする男だけ。真っ当に働いている人には、危害を加えないという彼女なりの正義がある。すみれは、黒崎と同じタイプの男たちを騙していくことで、“あの頃”の自分を救済しているような気持ちになっているのかもしれない。

だが、心の奥では「誰か、止めて」と思っているはずだ。なぜなら、奪われて、奪い返して……を繰り返しているうちは、いつまでも負のループから抜け出せないのだから。それに、いくら悪人にターゲットを絞っているとはいえ、人を騙してもなにも感じないほどすみれの心は汚れていない。ちょっとずつ、ちょっとずつすり減っているのだ。

すみれは、美しいものを美しいと思う心を失っていない。それは、演じている松本まりか自身も意識していることなのではないだろうか。2018年放送の『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)を観ていただけると分かるが、松本は100%“あざとい”に振り切ることもできる。ただ、すみれを演じているときはそうじゃない。あざとさはあるが、すべて計算で動いているわけじゃない。お金よりも大事なものを知っている宗春を小バカにしながらも、そんな感性を持っている彼を美しいと思っている。

とくに、第3話はすみれのピュアさが色濃く出ていた回だった。宗春が、“同業者”のちょーだい女子に騙されそうになっていることを知ると、お金持ちの男性とのディナーを蹴ってまで、彼のもとに駆けつける。そして、「彼のこと、騙さないでください。お客さんのために、一生懸命和菓子を作ってて、その和菓子でたくさんの人を幸せにしてて。そういう人のお金、取らないでほしいんです」と哀願したのだ。

「(宗春のような生き方は)わたしには、絶対にできない生き方だから」と口にしたときのすみれの表情。“本当はわたしもあんなふうに生きていきたい”という切なさが伝わってきて、胸が苦しくなる。

すみれと宗春は、お似合いすぎるくらいにお似合いだ。宗春は、すみれがどれだけ強がったことを言ったとしても、からかわない。すべてを理解した上で、まるっと受け入れてくれる。

「すみれさん、好きです」と宗春に抱き寄せられたとき、すみれはまるで少女時代に戻ったかのようなピュアな表情を見せていた。これまで、ひとりで生きていくために虚勢を張るしかなかった彼女が、ようやく纏っていた鎧を外せた瞬間だったのではないだろうか。

ただ、いくら悪人限定の詐欺師といえど、人を騙してきたことには変わりない。ここで、“運命の人に出会えました。めでたし、めでたし”で終わらないのが、『ミス・ターゲット』の深いところだ。宗春の父・竜太郎(沢村一樹)は、詐欺を扱う知能犯としてすみれのことを追っている。そのため、宗春と結ばれるわけにはいかない。

ようやく幸せになれそうなのに、今までの人生がこれからの人生の前に立ち塞がってくる。ど直球なラブストーリーでありながら、リアルを突きつけてくるところが本作の面白さだなぁと思う。

(文=菜本かな)

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