【虎に翼】寅子(伊藤沙莉)の中に新たな視点が生まれる。そのセリフを憲法記念日に持ってくる構成の凄さ!

「虎に翼」第25回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。困難な時代に立ち向かう法曹たちの姿を描く「虎に翼」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

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まさに総力戦! 伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『虎に翼』第5週「朝雨は女の腕まくり?」で5話にわたって描かれた展開は、そんな印象だった。

ストーリーは、第4週終盤からの流れを受け、贈収賄の疑いで逮捕されたヒロイン寅子の父・直言(岡部たかし)を法廷で助けだそうというものが大きな軸となる。

「共亜事件」と名付けられたそれは実際に起きた事件をもとにしたもので、直言を含む16人が関与したとされ逮捕された。直言は検察の執拗な取り調べに耐えかね、さらに他の逮捕者の運命も散らつかされ、罪を認めてしまう。これによって直言の置かれる立場は相当不利なものとなる。

一度認めてしまった以上、それを覆すことは相当厳しい。この困難きわまりない状況に、まず立ち上がったのが、寅子たちの師で、直言の大学時代の恩師でもある穂高(小林薫)。そして寅子たちと机を並べる花岡(岩田剛典)だった。「私にやらせてくれないか、直言君の弁護人を」穂高は直言の弁護を引き受けると言う。日頃穏やかで優しい眼差しを見せるが確固たる正義を内に秘めた穂高の弁護は、なによりも暗く沈んだ猪爪家にとって心強いものだった。

その提案をしたのが実は花岡だと穂高は言う。そして、「君の居場所は決して失われたりはしていないからね」と声をかけ、休学状態だった寅子が再び通うことができた。さらに、よね(土居志央梨)をはじめとした寅子のクラスメートの女学生たち、同級生の轟(戸塚純貴)たちが、「法」のもとに力を合わせ、直言の無実の証明を目指す。高等試験に落ち続けている優三(仲野太賀)だって「法を学ぶ」という意味では誰よりもたくさん学んでいる。法曹界隈ばかりでない。

「俺にはわかるよ」「そのほうがいい!」と、ちょっとズレながらもいい感じにまとめがちな兄・直道(上川周作)の脳天気さには癒される。穂高以外は、一人一人は未熟で、正直頼りない面もあるが、それぞれが持ち味を生かし、小さな力を友情全開でワンチームとして結集させ難題に立ち向かう。この胸アツ展開に、一秒も目が離せない展開となっていった。これまでの本作は、その週ごとに複数のエピソードを盛り込んだ構成が多かったが、今週は裁判1本で物語が進められ、法をもとにした一進一退の攻防戦が繰り広げられる骨太な流れも、食い入るように見てしまう理由のひとつだっただろう。

「虎に翼」第25回より(C)NHK

かつては「時計代わり」とも言われた朝ドラだが、近年は朝の15分、ドラマに没入させる作品も増えている。中でも、この『虎に翼』第5週での法廷でのやりとりは、純然たるリーガルエンターテインメント、はたして我々が見ているこれは本当に朝ドラなのかと思うほど。ワクワク感の「はて?」も加わり、朝ドラの概念すら大きく変えられていく緊迫感である。

穂高に学ぶ面々や家族ばかりでない。寅子たち女学生が法を学ぶことをゴシップ的に書き立てた帝都新聞の記者・竹中(高橋努)もまた、この事件の行方にきな臭さを感じており、寅子や花岡の証拠集めを邪魔しようとした男たちを撃退するなど一転してペンの力も頼もしい存在となっていった。

「虎に翼」第24回より(C)NHK

それにしても、検察側が直言を有罪とする証拠は、直言の自白のみとは。自白の強要によって起きてしまった冤罪事件、自白の信憑性について再審を繰り返す事件は近年まで繰り返されていることは、ニュースなどでもよく知られた事実だ。当時から現代まで続いていることに、改めて愕然とする。

直言の自白は、厳しい取り調べに耐えかねてなされたもののため、調書にはさまざまな矛盾が生じている。穂高や寅子たちはその矛盾を、資料を集めながら一つずつ小さい穴を開け続け、やがてそれが厚い壁を貫くような作業を繰り返す。直言の無罪を勝ち取る大きな決め手となったのが、直言の妻・はる(石田ゆり子)がずっとつけてきた日記だったという夫婦愛、家族愛を感じさせるうまさ。はるの冷静さ、聡明さは寅子の中にしっかり受け継がれている。

おなじみの傍聴マニア篠山(田中要次)のリアクションや、証拠の矛盾や嘘の自白を飄々とした態度を保ちつつ突いてくる裁判官の桂場(松山ケンイチ)の言葉の切れ味……これまでの主なキャラクターが一丸となって直言の潔白を証明するさまは、まさに総力戦。

しかも、直言が冤罪を機に、寅子の中はまた新たな視点が生まれていた。これまで法律は武器とよねが言い、寅子は盾や毛布と言った。しかし、父の冤罪を通して、桂場にこんな見解を伝える。
「法律は道具のように使うものではなく、法律自体が守るものというか。例えるならば、綺麗なお水が湧き出ている場所、というか」「綺麗なお水に変な色を混ぜられたり、汚されたりしないように、守らなきゃいけない」

スリリングな法廷劇にも舌をまいたが、この展開、このセリフを憲法記念日に持ってくる構成の凄さ。しかも、世論の大半が不要あるいは慎重論になっている中、強硬に改憲を進めようとする動きが進行中の今、明確なメッセージを持った作品が放送される凄さ。脚本家やプロデューサー、演出家をはじめとした作り手たちの強い覚悟を感じる第5週だった。

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