【社説】SNS投資詐欺広告 被害の放置は許されない

 1億円を超す被害が相次ぐ非常事態である。交流サイト(SNS)上で、著名人になりすました広告などを入り口に、多額の投資詐欺に遭う問題が深刻化している。

 典型的なケースはこうだ。フェイスブックやインスタグラムなどで、実業家や経済アナリストらの名前や顔写真とともに、確実な資産運用をうたう広告が出てくる。

 クリックするとLINE(ライン)グループに誘われ、架空の外国為替証拠金取引(FX)を勧められる。繰り返し送金するうちに突然、音信不通に―。「あの人が言うなら」と信じる心理につけ込む悪質な手口である。

 警察庁によると昨年後半から急増し、昨年1年間の被害額は約277億円に上った。40~60代の現役世代が大半を占める。新たな少額投資非課税制度(NISA)の周知や低金利によって個人の投資意欲が高まり、投資やネット上での金銭のやりとりに抵抗感が薄まった背景があろう。老後の資金をだまし取られたケースもあり、看過できない。

 許し難いのは無論、犯人である。海外を拠点とする犯罪グループが関与しているようだが実態は分かっていない。警察は海外の捜査機関との連携を進める方針という。摘発や手口の解明に力を尽くしてもらいたい。

 加えて巨大IT企業が偽広告を事実上放置し、犯罪を助長した面は見逃せない。

 フェイスブックとインスタグラムを運営する米メタは、なりすまし広告の削除を求めた起業家に「全部はなくせないので理解してほしい」と答えたという。声明では「社会全体でのアプローチが必要だ」としたが、責任逃れに聞こえる言いぶりで不誠実だ。

 利用者の安全より自社の利益を優先する姿勢も透ける。広告配信の事前審査は、担当者のチェックや人工知能(AI)の自動検出機能で行うというが、具体的な手法や削除数は公表していない。SNSは既に社会インフラの一つと言っていい。広範な被害がある以上、費用や人員を拡充し、審査体制が整うまでは広告を制限する対処があってしかるべきではないか。

 政府は今国会にプロバイダー責任制限法改正案を提出している。誹謗(ひぼう)中傷など不適切な投稿の削除申請があった場合、迅速な対応や削除基準の公表を事業者に義務付ける。なりすまし広告の対策にも一定の効果があるとするが、十分な規制とはいえない。

 6月をめどに偽広告の総合対策をまとめるという。詐欺が疑われる広告の削除を事業者に義務付けたり、広告配信業務に対して停止命令を出せたりする抜本的な規制を速やかに議論すべきだ。

 私たちも自衛策が欠かせない。SNSでしか接点がない人から投資を勧められたら、まず詐欺を疑うことだ。不自然な日本語の表現に気付くのも重要だ。送金前に業者や口座が怪しくないかを確認し、家族や専門家への相談を習慣にしたい。何より簡単にもうかる投資話はないと肝に銘じよう。さらに巧妙な詐欺は今後も増えるとみておきたい。

© 株式会社中国新聞社