《連載:いばらきコロナ緩和1年》(5)駅包む乗客の活気 ローカル線、地域が支えに

那珂湊駅のホームを掃除する大重善広さん=ひたちなか市釈迦町

5月の爽やかな風が吹き抜ける。ひたちなか海浜鉄道湊線那珂湊駅(茨城県ひたちなか市釈迦町)のホームには、多くの人が次の列車を待っていた。到着すると続々と利用客が降り立つ。

「徐々に客足が戻ってきている」。同社管理課長の大重善広さん(46)は長いコロナ禍を経て、取り戻しつつある日常に感謝する。

2023年3月期決算では3年連続の赤字。コロナ禍の影響を大きく受けた21、22年に比べ、行動制限の緩和に伴い赤字幅は縮小してきた。

23年3月期の定期外旅客は、前年に比べて約2割増の34万3896人。国営ひたち海浜公園(同市馬渡)や、那珂湊おさかな市場(同市湊本町)などへの観光需要が後押しした。

コロナが5類に移行して1年を迎え、「駅に活気が出てきた」。晴れの日はなおさらそう感じる。ホームを掃除するほうきも、自然と軽やかに動く。

会計や資産管理を任され、コロナ禍は出費を最小限に抑える経費の見直しに迫られた。大規模工事を抑え、できるものとできないものを慎重に仕分けた。不明な点は会計士に確認しながら、数字をまとめる作業で精いっぱい。在宅勤務が増え、営業活動ができない日々が続いた。

休校やリモートワークが広がり、利用客は激減した。列車を動かすためには、線路や車両の整備費用は削れない。燃料費や電気代の高騰が追い打ちをかけた。いつ収束するのか、先が見えずに「もどかしい気持ちで過ごした」。

乗客数が見込めない間は鉄道グッズに力を入れた。鉄道模型などを手がけるトミーテック(栃木)企画の美少女キャラクター「鉄道むすめ」の販路を拡大。オンライン販売も導入し、受注を安定させた。

5類移行後、それまでぴたっと止まっていた同駅でのテレビ、映画の撮影依頼や問い合わせが徐々に増えた。

中でも、昨夏に市内で開かれた花火大会の光景は忘れられない。会場となった陸上自衛隊勝田駐屯地の最寄り駅、金上駅に大勢の家族連れや若者が詰めかけた。会場に向かう人の波を目の当たりにし、うれしさと同時に「地域の人たちにいかに支えられているか」を実感した。

湊線の延伸計画について、同社は今年3月、30年春の開業を目指して終点阿字ケ浦駅から国営ひたち海浜公園南口付近まで1.4キロ延長する工事施工認可を国に申請した。

これからも地域の足として-。「少しでも社会や乗客にお返しできるよう努めたい。それが会社の成長につながると思っている」(おわり)

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