【ルポ書店危機】地方書店の店長に聞く、町の本屋のリアル 現状から浮かんできた日本社会の縮図

■書店は存続するのか、それとも消滅してしまうのか?

現在書店が街からなくなりつつある。2003年に約2万店あった全国での書店数は2024年には約1万店舗まで落ち込み、現在書店のない市町村は全国で26%にのぼるという統計があるほど加速度的に街からなくなっている。今後、書店はどこへ向かうか、書店の現状にフォーカスした『ルポ書店危機』が2024年5月2日に株式会社blueprintより刊行された。

今回は、『ルポ書店危機』に掲載されている秋田県羽後町で奮闘する書店ミケーネの阿部久夫店長のインタビューの一部を掲載する。羽後町では、今年の5月に町の中心部・西馬音内にあるスーパーマーケット・バザールが閉店する。買い物難民が多数発生する事態が想定され、地元では大きな騒動になっているという。

それだけではない。ここ数年の間に秋田銀行の支店も消滅し、古くからある金物店の大黒屋も閉店、歴史ある病院の仙道医院も閉院した。羽後町は道の駅が好調であり、秋田県内でもトップレベルの人気を誇っているが、その陰で昔ながらの店が相次いで消滅している。

阿部店長は現在75歳。1992年に家族3人で開業したミケーネの売り上げは順調に伸び、4年後には月商1000万円を超える月もあり、職員2人を雇用するほどになった。

たびたびインタビューを重ねてきたが、阿部店長からは、元町議会議員として深刻な空洞化が進む地元の将来を嘆く声も聞かれた。羽後町は著しい高齢化と人口減少が進んでいる。日本の地方のあらゆる問題を抱えており、地方の縮図そのものと言っていい。そんな町の書店を例に、地方の書店の未来を考えてみたい。

■人口減少に比例して売上が減少

――2023年の取材の際も、阿部店長は苦しい経営状態を吐露していましたが、現在はどうなっていますか。

阿部:書店を開業した時に2万1000人だった人口は、現在は1万3000人と約40%減少しています。本の売り上げは、最盛期で年商1億円だったのが、昨年度は税込2千600万円まで落ち込みました。粗利益は約500万円なので、経費を差し引くと手元に残るのは200万円台です。朝から夜10時まで家族3人で働いて、ですよ。高卒の新入社員給料より安いです。だから、私が開業した時に湯沢雄勝地域で8件あった書店は、ミケーネ以外はすべて看板を下ろしました。

――人口が減少すると、子ども向けの本の売上はどんどん下がりますよね。

阿部:かつては、高校や中学生が学校帰りにライトノベルやコミックスを買っていましたが、生徒数が著しく落ち込んでいるため、若者をターゲットにした本が売れなくなっています。もちろん本離れが進み、動画やネットに関心が移っている影響もあると思います。

――高齢者のお客さんも減少しているのでしょうか。

阿部:羽後町のような田舎でも、新書や文庫などを熱心に読むインテリ層の大人がいましたが、高齢になって本を読めなくなったり、病気で亡くなったりしています。高齢者は増えているのですが、高齢者の読者は急激に減少しています。新聞の死亡欄を眺めて「あ、〇〇さんが亡くなった」と、力を落とす日々が増えています。

――雑誌の売上はいかがですか。

阿部:「週刊文春」「週刊新潮」「週刊現代」は美容院や病院などの配達での売上、つまり定期購読が8割で、店頭では驚くほど売れなくなりました。つまり、ふらっと週刊誌を買いに来る人がいなくなったということになります。「週刊少年ジャンプ」も最盛期の約75%減ですね。

――『SPY×FAMILY』や『【推しの子】』など、ヒット漫画がたくさん出ています。ミケーネでは売上に影響しないのでしょうか。

阿部:『【推しの子】』は……うちでは売れていないね。1990年代に『ドラゴンボール』がヒットしていた頃は、単行本が発売日に入るとごっそり売れたんですよ。『ONE PIECE』だって、新刊が初日に一気に20~30冊ははけていたのに、今は初日に2~3冊しか売れません。今の漫画はアニメになったときに一時的にブームになるだけで、長く人気が続く作品は少ないのかもしれない。特に、アニメ化されていないマイナーな漫画を買う人は、本当に数が少なくなりました。

――どんなに漫画がヒットしても、地方の書店の経営改善には繋がらないと。

阿部:若い人たちが漫画に興味なくなっているのか、Amazonで買っているのか、電子書籍を買っているのかでしょうね。割と売れるのは子ども向けの図鑑で、お母さんたちが買っていくので在庫を切らさないようにしています。

――そうなると、書店だけで生活するのは不可能ですね。ミケーネは学習塾も運営していますが、こちらも少子化の影響を大きく受ける分野だと思います。

阿部:おっしゃるとおりで、学習塾の収入も、人口減少の煽りをもろに受けて減少しています。学校統合が進み小学校は12校から4校に、中学校は1校だけになりました。学校図書の売り上げが減少し、経営する学習塾の月謝が減少する負のスパイラルに直面し、ブラックホールに引きずり込まれていくような気持ちになるときもあります。

■インバウンド効果で民宿は堅調

――ミケーネでは民宿「格山」の運営もしています。そちらの方はどうですか。

阿部:息子がやっている茅葺き民家の民宿「格山」は順調に伸びています。今や宿泊客の半数以上は海外からです。ありがたいことに、民宿予約サイトのAirbnbで、5点満点で4.97の評価を頂いています。好調なので、6月に500万円ほどかけて改修する予定があるほどですね。

――羽後町にもインバウンドの影響が大きく及んでいるのですね。

阿部:そうですね。今日は香港、明日はオーストラリアからお客さんが来ます。息子には書店も手伝ってもらっていましたが、今後は民宿をメインに頑張ってもらう。私は75歳だから、書店はあと5年くらいできればいいなと思います。

■公共施設は地元の書店から本を買って欲しい

――地方の書店を維持するために、必要なことは何だと思いますか。

阿部:せめて、公共的な図書館や病院、学校などで使う本は、地元の書店で買って欲しいですね。図書館関係の本を、図書館流通センターなどから仕入れている自治体も多いと聞きます。また、学校の教材、学習参考書の「チャート式」なども書店を通さずに直に出版社と取引している例もあります。羽後高校は学校図書や参考書をミケーネから買ってくれています。本の値段はどこで買っても同じなのだから、自治体はせめて地元から仕入れるべきではないでしょうか。

――今後、ミケーネはどうなっていくのでしょう。

阿部:私たち夫婦は、ただ本が好きだというだけで書店を始めました。子どもがここまで減ってしまう、小売業がこんなにやっていけない時代になるとは思わなかったですね。でも、書店がなくなっていく時代だからこそ、私が元気なうちは、細々とでもいいのでなんとか町の本屋を続けていければと思います。ただ、繰り返すようですが、書店だけではやっていけないんですよ。書店の経営に意欲のある人が、当店を引き継いでくれるといいのですが……。

――苦しい中でも書店を続ける阿部店長の原動力は、何なのでしょうか。

阿部:なんだろうね。ミケーネは今やコミュニケーションの場になっている。それが楽しいからかな。本に関係ない来客が毎日10人以上来店し、お茶やコーヒを飲み語り合っていきます。様々な世代の人が来店して、人生相談や移住相談だったり、ビジネスの話だったり、政治の話だったりと、いろんな話をしながらお茶を飲んでいきます。羽後高校の活性化のためにやってきている慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスの生徒もよく来ます。その中から移住者が増えたり、新たな事業が始まったりしています。あらためて考えてみると、書店ミケーネが地域を活性化させる一つの“熱源”になっているという確信が、書店を続ける原動力になっているような気がします。

――書店がコミュニティを形成するのですね。

阿部:うちの女房は、来た人を誰でも歓待するからいいのだと思います。書店を守っていくのは、最終的には“人”なのかもしれませんね。とにかく、私も女房も人と話をするのが好きなんですよ。だから、書店の経営は面白いことは面白いし、熱意が続くうちは店を潰さないようにしたいと思っています。

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【書籍情報】
タイトル:『ルポ書店危機』
著者:山内貴範
発売日:2024年5月2日
※発売日は地域によって異なる場合がございます。
価格:2,420円(税込価格/本体2,200円)
出版社:株式会社blueprint
判型/頁数:四六判ソフトカバー/256頁
ISBN:978-4-909852-50-2
Amazon、blueprint book store他、各書店にて発売中です。
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