山香町の写真家・船尾修さんに「梅棹忠夫・山と探検文学賞」 インダス川流域の紀行本で受賞【大分県】

「第13回梅棹忠夫・山と探検文学賞」を受賞した船尾修さん=日出町南畑の事務所
「大インダス世界への旅」には現地で撮影した写真を多数収録(船尾修さん提供)

 【杵築】杵築市山香町南畑の写真家、船尾修さん(63)が、インダス川流域の民族や生活を題材にした紀行「大インダス世界への旅」(四六判、366ページ)で、「第13回梅棹忠夫・山と探検文学賞」を受賞した。土門拳賞など写真集で数々の受賞歴を持つが、ノンフィクション文学のジャンルでは初めて。「写真ではなく文学での受賞に驚いている。足で稼ぎ、行動しながら表現したことが評価された」と喜んでいる。

 副題は「チベット、インド、パキスタン、アフガニスタンを貫く大河流域を歩く」。チベット高原の西端からアラビア海に注ぐインダス川(全長3千キロ)の流れを縦軸に、周辺に暮らす民族や地域を横軸に大河を立体的に捉えたという。

 政治や時代に翻弄(ほんろう)されながらも、大自然の中を生き抜く人々を活写した。船尾さんが現地の人々に向ける温かなまなざしを随所に感じさせる。

 船尾さんは神戸市出身。2016年、杵築市に移住した。インダス川は大きなテーマの一つで、25年ほど前から撮影を続けている。「大インダス」は、国立民族学博物館の機関誌「季刊民族学」に発表した連載記事を再構成。書き直すうちにほぼ書き下ろしになったという。現地で撮影した写真をふんだんに載せている。

 選考委員会は「登山家の挑戦心、写真家の感性、文筆家の想像力が程よい均衡を保ち、地域を描き出すことに成功している」と評価した。

 船尾さんは「流域は多様性に満ちた豊かな社会。日本ではあまり知られていない魅力の一端だけでも感じてほしい」と話している。

 22年10月に、紀行本を手がける彩流社(東京都)が出版した。県内の大手書店などで販売している。

<メモ>

 故・梅棹忠夫(1920~2010)は、民族学者で国立民族学博物館の初代館長を務めた。著書に「文明の生態史観」や「知的生産の技術」がある。「山と探検文学賞」は、登山と探検を愛した梅棹さんの名前を冠した。選考委員には文化人類学者の中牧弘允さんや、日本山岳会の会員ら有識者5人が務める。過去の受賞者には、アフガニスタンなどで人道支援に尽力した医師、故・中村哲さんらが名を連ねている。 

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