【NHKマイルC回顧】2歳女王を下したジャンタルマンタル GⅠ・2戦での厳しいペースの経験がポイント

ⒸSPAIA

朝日杯FSの厳しい経験が生きたジャンタルマンタル

3歳マイル王決定戦が創設され、今年で29回目。最優秀2歳牡馬と牝馬、つまり2歳王者と女王がはじめて激突した。かつてベストマイラー決定戦はダービーの出走権がない外国産馬によるナンバー1争いだったことを考えると、時代は大きく変わった。

クラシック一本にこだわらず、あくまでマイルという距離に対する適性を踏まえてレース選択をした結果でもある。もちろん、オークス、ダービーの権威はなんら変わることはない。しかし、選択肢は多くていい。馬優先によるレース選びをする上で、道が多様であることは健全といえよう。

2歳マイルGⅠを勝った2頭はどちらが強いのか。一貫してマイルを歩んできたアスコリピチェーノと中距離へシフトし、マイルへ戻ったジャンタルマンタルか。その結末はジャンタルマンタルに軍配があがった。

朝日杯FS1:33.8、阪神JF1:32.6は一週違いだったことを踏まえても、記録上は阪神JFが上だった。だが、朝日杯FSは前後半800m46.1-47.7、阪神JF46.4-46.2。好位から押し切ったジャンタルマンタルと差したアスコリピチェーノがスピード優先の流れで戦った結果、時計は遅いが、厳しいペースを経験したジャンタルマンタルの強みがいきた。

皐月賞の経験もポイント

ジャンタルマンタルは朝日杯FSを好位から押し切ったのち、年明けはクラシックに照準を向けるため中距離へ舞台を移した。折り合いを試した共同通信杯で東京の重賞を経験したことも大きい。さらにポイントになったのは、やはり皐月賞だ。

共同通信杯を経て、本番では強気な競馬に打って出た。メイショウタバルのハイペースを自ら追いかけ、先に勝負を仕掛けた。さすがに中山の急坂に阻まれ、最後はジャスティンミラノ、コスモキュランダの末脚に屈しはしたが、1:57.1のレコードはジャンタルマンタルの仕掛けによるところもある。本当に苦しい経験だったにちがいないが、これが着実にNHKマイルCにつながった。

中2週は簡単なローテではなかったはずだが、皐月賞での経験を生かせるとあえてNHKマイルC出走に舵を切った陣営の判断を称えよう。

スピードの持続力と粘り強さはこの日の早朝、ケンタッキーダービーで伏兵ミスティックダンに見せつけられたように、米国ダート競馬では欠かせない。ジャンタルマンタルも父パレスマリス、その父カーリン、さらにその父スマートストライクと米国名種牡馬の血を引き、母インディアマントゥアナは米国芝11ハロンの重賞勝ち馬と、持続力に特化した血統構成。東京マイルで前後半800m46.3-46.1の真っ向勝負となれば、自身のポテンシャルを最大限に発揮できる。

外枠から積極的に仕掛けた川田将雅騎手の明確な意図も頼もしかった。この先、経験を積み、川田騎手のベストパートナーになれるのではないか。

決してマイラーではないゴンバデカーブース

2歳女王アスコリピチェーノは2着に敗れた。着差2馬身半は完敗の形だが、直線でのさばきに手間取ったことを踏まえれば、そこまで差はないといえる。だが、ジャンタルマンタルに進路を消され、強引に内へ入ったのは少しC.ルメール騎手らしくなかった。競馬は本当に繊細だ。事故にならなくてよかった。最後、内から抜け出す走りには女王のプライドを感じた。今年2戦、大事な場面での反応の悪さが気になるところだが、思う存分、瞬発力を発揮できる舞台と状況でもう一度みたい。

3着ロジリオンは10番人気の低評価に反発した。NHKマイルCでは前哨戦の重賞で敗れ、本番で人気を落とし、反転するのは穴パターンのひとつで、今年はロジリオンがそこにハマった。京王杯2歳S2着後、朝日杯FSに向かわず、年明けクロッカスSを勝って賞金加算と、堅実な歩みによって本番まで余裕をつくることができた。陣営の計算とその通りに歩んだ馬の力が伝わる。ファルコンSは進路がなく、脚を余しており、そこはきちんと認識するべきだったと反省した。父リオンディーズは天皇賞(春)を勝ったテーオーロイヤルに続きGⅠ好走と、距離に幅があって実に懐が深い。

4着ゴンバデカーブースは2歳終わりまで2連勝でトップランクにいた。ホープフルS取消後にリズムを乱しながらも、そこから4ヶ月後にGⅠ・4着と世代上位の力は示した。新種牡馬ブリックスアンドモルタルの期待馬ということから、この先の進路選択は気になるところ。今回のレース運びと結果から決してマイラータイプではない。

3番人気ボンドガールは17着。直線で大きな不利を受け、最後は無理をさせなかった。好スタートから一旦ハナに立つ場面もあり、父ダイワメジャーらしいスピードは魅力だ。我慢させることを覚える段階を経て、ここから本領発揮だろう。結果は残念だったが、スピード重視の競馬での素質開花が楽しみだ。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。



© 株式会社グラッドキューブ