『あなして』夫婦が急増中「セックスレス=悪」なのか 宋美玄医師が語る社会の健全化と解決法

※画像はフジテレビ『あなたがしてくれなくても』公式サイトより

奈緒(29)と永山瑛太(41)、岩田剛典(35)と田中みな実(37)が演じる夫婦の間に亀裂が入る様子を描き、大いに話題を呼んだドラマ『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系・2023年)。夫婦間のすれ違いから生じる”セックスレス”がテーマとなった同作だが、現実世界でも、そんなすれ違いカップルが増加傾向にある。日本家族計画協会が今年3月、3000人を対象に行なった『男女の生活と意識に関する調査』によれば、夫婦間で性交渉が1か月以上ないという“セックスレス”カップルが過去最高の48.3%だったのだ。

同調査では、夫婦間の「セックスレス」は、前回(16年)を1.1ポイント上回る48.3%と過去最高の半数近くをマーク。20年前となる04年の調査と比べると16.4ポイント増となった。

ところで、「セックスレス」を取り上げる調査や報道には何やらネガティブな雰囲気がつきまとう。もちろん深刻な悩みであるケースもあるが、一概に「セックスレス=悪」なのだろうか。産婦人科医で『ずっとずっと愛し合いたい』(幻冬舎)などの著書もある宋美玄(そん・みひょん)医師に、話を聞いた。

夫婦間においてセックスレスは「問題視すべきこと」なのかという問いに、宋医師は「ネガティブな雰囲気を漂わせる人がいるとしたら、その人はたくさんセックスをするほうが“偉い”、“良いこと”、といった価値観をもっている人なのでしょう」と話す。

「結婚についても“いつでもタダでセックスできる相手を手に入れる制度”と、相手を人としてよりもセックスの対象として見る人が多い時代があったのかもしれません。また、昔は“妻は夫に養われているんだから”という圧が社会にあって、妻のほうも求められたら応えることこそが妻の務めだと思っていたのでしょう」(宋医師)

しかし、そんな価値観はすでに過去の物。今や、女性も男性と同じ職場で働き、独立して社会生活を営む人が多くいる。

「時代の変化もあり、女性がきちんと自分の意見を言えるようになってきた結果、夫婦間のセックスレスの割合が増えているということであれば、結婚が必ずしも配偶者に性交渉を強要するものでなくなってきたということ。むしろ、良いことだと思います」(前同)

■「子どもを作る」行為だが……

セックスレスとなると子どもを作る、という行為から夫婦は離れることになるわけだが、宋医師は「セックスをすればいいというものではない」と冷静だ。

「夫婦とはいえ個人を尊重しないといけない、という風潮になってきてはいます。それでも妻にセックスを強要する夫のモラハラや、避妊をしないといった問題はある。さらには夫が妻とのセックスで妊娠を強要し、結果的に子どもを何人も出産させる“多産DV”など、セックスに関する問題はたくさんあります」(宋医師)

社会を見渡せば少子高齢化といった問題があるのも事実。現在、国会でも少子化対策の支援金制度などを盛り込んだ「子ども・子育て支援法などの改正案」に関する議論が頻繁に取り上げられている。

「もちろん子どもが増えてほしい人たちからすると、夫婦間のセックスレスが進んでいるのは由々しき事態なのかもしれません。しかし、したくないのに無理に応じてしまう人が減るほうが、健全な社会だと思います。確かに、女性が子どもを急に妊娠して、予定外のさずかりものという”おめでた”パターンは減るでしょう。その代わりに、意図しない妊娠や中絶が減りますから」(宋医師)

では、「セックスレス」が大きな夫婦間の問題につながる場合の対策や解決法はあるのだろうか。

「夫婦ごとに答えは違うものだし、話し合っていただくしかないですね。どちらかがゼロ回答だったらパートナーシップが続かない可能性もあるし、10回に1回は応じるといったルール作りによって解決する夫婦もあるかもしれない。お互いの落とし所を探すしかありません」(前同)

セックスには合意と責任が伴う。セックスレスだとしても、パートナー同士が納得していれば何の問題もないのだ。

宋美玄(そん・みひょん)
産婦人科医 医学博士、丸の内の森レディースクリニック院長。1976年兵庫県神戸市生まれ、大阪大学医学部医学科卒。妊娠出産に関する数多くの著書を出版。“カリスマ産婦人科医”としてメディアへの出演、医療監修の他、女性のカラダの悩み、妊娠出産、女性の性など積極的な啓蒙活動を行なっている。2児の母。

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