5月はGW連休もあり、冬の間にお休みしていたハイキングを復活する方が多い時期かと思います。
残雪を抱いた山々の遠望の美しい季節ですが、じつは5月の山々には景色以外にも楽しみがあることをご存知でしょうか。それは、足元や樹上に芽吹き始める愛らしい春の花々。山の上には、街よりも少し遅れて春がやってきます。
ここでは、この時期の中低山で見られる春の山を代表する花々をいくつか紹介してみましょう。小さな花が多いので、山頂や遠くの景色ばかり気にしながら登っていると、つい見逃してしまいますよ。
■春山の足元に咲く花々
まず、4、5月の中低山でも、沢沿いなど湿った岩場でよく目にするのが、ネコノメソウの仲間です。特徴的な名前は、花ではなく、花が枯れた後に現れる果実が猫の目のような形になることに由来しています。
花はとても小さく、種類はたくさんあります。コガネネコノメソウやヤマシロネコノメソウといった黄色い花の種類だけでなく、シロバナネコノメソウのように白いものもあるので、よく足元を探してみましょう。
フキの花も、雪解け後の地面でよく見かけます。天ぷらなどで食べるフキノトウは蕾の状態ですが、花が開くと少し違った印象になりますね。食べ頃を過ぎたことを意味する「とうがたつ」とは、この状態が語源となっています。
タンポポと同じキク科の仲間で、雄株と雌株があり、花の付き方が異なります。写真は雌株。
スミレも山では4、5月に見頃を迎える花の一つです。
日本には50種ほどのスミレの仲間がいると言われており、しかも非常に交雑しやすいため、分類するのは非常に難しいことでも知られています。
■花が咲くまでに、なんと最短で7年もかかるひたむきさ
カタクリも登山者たちが愛する春の花。ブナ林など、落葉樹の林床でよく見られます。
成長は非常にゆっくりで、花が咲くまでに、なんと最短で7年もかかります。花が咲いた翌年も必ず咲くとは限らず、栄養が足りない場合は葉を一枚だけ出して、じっと翌年に備えます。
そんなひたむきで可憐な姿が、登山者たちに広く愛される理由です。
エンゴサクの仲間は、いくつもの花が連なって咲く姿が可愛らしい。
初夏には地上部が枯れ長い休眠に入る、いわゆるスプリング・エフェメラルの一種。地中の塊茎部分は、古くは漢方薬として使われていました。
濃い紫色の花が印象的なハシリドコロは、沢沿いの樹林下でよく目にします。
花は美しいのですが、春の山で見られる有毒植物の代表格。新芽は柔らかくておいしそうなので、山菜と間違えてしまう中毒事故が絶えません。食べてしまうと、幻覚と苦しさから狂乱状態となって走り回ることが名前の由来となっています。恐ろしや。
最後に紹介するヒトリシズカは、4、5月の中低山で見られます。
白いブラシのような形の花と、光沢のある葉の組み合わせは特徴的で、名前に反して群生して咲くので見つけやすいと思います。
ちなみに、少し後に咲くフタリシズカという種類もありますが、見た目はまったく別物です。
■春の花々は足元から徐々に上へ
春の山で花を見つけるコツは、上ではなく、足元をよく観察することです。季節が進むにつれて、花が咲く位置は足元から徐々に樹上へと上がっていきます。種類によっては、春でも樹上に咲く花もありますが、まずは先を急ぎ過ぎず、森の中で立ち止まって足元からゆっくりと周りを観察してみるとよいでしょう。