【NHKマイルC】ジャンタルマンタルが優勝「マイルなら負けない」名手の信頼に応える完全無欠の走り

ジャンタルマンタルが優勝 (C)SANKEI

「僕は常々、1600mだと思っています」――

NHKマイルCに臨む前、川田将雅はジャンタルマンタルの適性距離について聞かれると、こう断言した。そしてすぐにこう続けた。

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「強い馬はたくさん出てきていますので、その中でジャンタルマンタルが一番強いというところをお見せできれば」...... この一言を見ても、川田のジャンタルマンタルへの評価は何一つ変わっていないことがわかる。

初めてコンビを組んだ昨年の朝日杯FS。直線で弾けるようなフットワークで一歩、また一歩と脚を伸ばしていくジャンタルマンタルの走りを川田はレース後に「安心して乗れた」と語るほど。

まだまだ未完成な2歳馬にもかかわらず、この素軽いスピードを体感した川田は3歳での活躍を期待したことだろう。

ところが、ジャンタルマンタルは3歳になるとまさかの2連敗。

共同通信杯では先に動いたジャスティンミラノを捕らえられずに2着に敗れ、反対に皐月賞では先に動いて残り100m付近で失速。今度はジャスティンミラノに差し切られる形でクラシック一冠目を逃した。

2歳王者としてらしくない走りで無念の2連敗。しかし、破れたレースの距離は1800mに2000m。

ジャンタルマンタルの本来の力が発揮されるのはマイル戦だと公言していた川田にとってNHKマイルCは負けるわけにはいかない一戦だったに違いない。

ジャンタルマンタルにとって最良の舞台となるはずのNHKマイルCだが、今年は阪神JFを制したアスコリピチェーノをはじめ出走18頭中、重賞勝ち馬が8頭、連対経験のある馬は実に15頭を数えるという豪華なメンバーで争うこととなった。

(C)SANKEI

第29回NHKマイルC(GI)着順

5月らしい澄み切った青空の中で迎えた東京競馬場。桜花賞2着からの臨戦となるアスコリピチェーノが黒鹿毛の馬体を輝かせて周回していたが、ジャンタルマンタルも負けていない。

皐月賞から中2週というローテーション、年明け以来3戦すべて関東圏でのレースということで遠征を挟むということで体調面が気になるところだったが、皐月賞からプラス2キロとなる492キロの馬体は美しく黒光り。

そして朝日杯FS当時はどこかフワフワとしているように見えたフットワークが伸びやかなものに変わり、成長を感じさせた。

今思えば、ジャンタルマンタルのパドックでの闊歩はファンや他馬にこう宣言していたのかもしれない。

「一番強いのは、俺だ」と。

迎えたレース。ゲートが開いた瞬間に誰よりも好スタートを決めたのは他でもない、ジャンタルマンタルだった。そのまま逃げの手を打ってもいいくらいの好発を決めたが、鞍上の川田は慌てずにハナを他馬に譲り、4~5番手のポジションに。

3番人気のボンドガールがそれを交わして逃げの手を打ち、ジャンタルマンタルの内側には1番人気に支持されたアスコリピチェーノが付けていった。

ボンドガールとキャプテンシー、そしてマスクオールウィンが競り合うように逃げていく中で刻まれた前半3ハロンの時計は34秒3。前に付けたい馬が揃っていた割には落ち着いた流れになった。

人気馬の大半が5番手以内の位置に付けた上、この日の東京競馬場の馬場は前に付けた馬が残りやすいコンディション。加えてこのスローな流れということを考えると、この時点で前にいた馬たちによる決め手勝負になることが予想された。

キャプテンシーとマスクオールウィンの2頭が先頭のまま4コーナーを過ぎて迎えた最後の直線。

3番手グループにいたジャンタルマンタルは前を見ながら外側から進出を開始し、ジャンタルマンタルより内にいたアスコリピチェーノは前にいる馬たちが壁になり仕掛けが遅れるというアクシデントが。

この週から復帰したクリストフ・ルメールが機転を利かせて別の進路を取ろうとした瞬間、既にジャンタルマンタルは先頭に立っていた。

残り200m。完全に抜け出したジャンタルマンタルは川田の右鞭が一発、また一発と入るたびにスピードを上げていく。

その姿は朝日杯FS、そして3着に敗れたレースだが皐月賞とほぼ同じ。「俺を抜けるなら、抜いてみろ」と言わんばかりの堂々たる走りは五月晴れの府中のターフでも輝いていた。

まさにマイルの王者というべき、ジャンタルマンタルの走りにはもはや誰も付いていけなかった。

進路を変えて内からアスコリピチェーノがグングンと伸び、中団からはロジリオンが抜け出し、そしてゴンバデカーブースが外から猛追してきたが、誰もジャンタルマンタルの走りを止めることはできない。

そうしてジャンタルマンタルはNHKマイルCのゴールを先頭で駆け抜けた。

残り400mを過ぎた辺りで先頭に立って以来、誰にも譲ることなく並ばれることなくそのまま府中の長い直線を押し切った。世代最初の王はベスト条件とされたマイルの舞台で真の力を見せて3歳マイル王に君臨した。

「1600mで走ることに自信はあった。普通に走れば負けないと思った」と、レース後のインタビューで川田は普段以上に淡々と答えていた。

レース前から「一番強いところをお見せできれば」と語るほど自身に満ち溢れていた彼からしたら、ジャンタルマンタルの走りはこれくらいできて当然というものだったのだろう。

完全無欠の走りで3歳マイル王の座に就いたジャンタルマンタルに対し、川田は「日本一強い馬と思ってもらえるところまでいきたい」とさらなる期待を口にした。

果たして新しいマイルの王はこの後、どんな走りを我々に見せてくれるのだろうか。

■文/福嶌弘

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