「ババロア」…それは恋人未満、友人以上のじれったい魅惑の昭和スイーツ!

皆さま、こんにちは。はじめましての方、はじめまして。昔のお菓子の本を集めたり作ってみたりしちゃったりしているBUNKOです。

今回は「ババロア」です。皆さま「ババロア」は憶えていらっしゃるでしょうか?

「あ、忘れていたババロアの存在……」という方も多いでしょう。

最近だと、ムースは聞くけどババロアってあまり聞かないと思います。

ムースとババロアの違いって?

「ムース」は卵白や生クリームなどを泡立てて、ふんわりさせて果物やチョコレートなどを混ぜて固めたもの。

「ババロア」は基本、黄身などで作った「アングレーズ(カスタード)ソース」に生クリーム、ゼラチンなどで固めたもの。

実際はどっちも使っていたりと、明確には区切っていないようです。

とは書いたものの、あるサイトでは「はっきり違いますね」などと書かかれており、「結局どっちなの? はっきりして~!」と悩む人も多いかと思います、そんな“恋人未満、友人以上の曖昧な存在”の「ババロア」を紹介していきます。

夢に見た美しい「ストロベリーババロア」

私は以前、一度作ったことがあります。

私の親は団塊の世代で、常に新しいものを求め取り入れる「ニューファミリー世代」でもあります。核家族化などにより料理教室やTV、雑誌や本から新しい料理やお菓子を学んだりと、新しい食生活が次々と導入された時代です。

そんな時代にご多分にも漏れず、うちの母も『3分クッキング』や『きょうの料理』など意欲的に購入しており、幼い私はいつもそのお菓子部分だけを眺めて「大人になったら、こんなステキなお菓子食べたい……」と、大袋の不二家POPキャンディーを舐めながら夢みるような子どもでした。

そんな幼少期、昭和49年に発売された『3分クッキング』に掲載されていたのが「ストロベリーババロア」

▲『3分クッキング』(昭和49年 日本テレビ発行) ※著者私物

そこに掲載されているストロベリーババロアの姿は、まるでまだ見ぬ霧深いヨーロッパの尖った山のようにシャープで美しく、エレガント。おとぎ話のお嬢さまが、じいやと共に馬に乗って旅をしていると、じいやに「お嬢さま、あの山をご覧ください」と言われ、顔を上げると朝霧のかなたにそびえ立つ美しい山が……。

てな感じで、妄想しちゃうほどにとても美しく、美味しそうで長年の憧れのお菓子だったのです。そんなストロベリーババロア、数年前、ようやく満を持して作ってみました、が……。

▲ストロベリーババロアの完成!

ぶひ~い!! な……なんか、全体的にだらしがないな……写真ではもっと鋭角にピンと美しく……。

当時あのババロア型はどこで買えたの? そもそも、苺が添えてあるので食べ物とギリ認識できる感じだし、この色はギョニソ? 強いて言えば魚肉ソーセージに近いな……と。

凄まじく頭の中で言い訳と本音が言い争いの大喧嘩! このままほっておくとキャットファイトが始まるので、すぐさま切り分けることに。

▲ジャムが…

!!!???……切ってみたけど「死んだギョニソ」? まじ?? 死んでんじゃん??? 血でてんじゃん! ギョニソ!! ギョニソオブ死!!! 時すでにおすしで脳内キャットファイト開催中。

食べてみましたが、味も漉し方が良くなかったのか、苺の果肉と種のザラザラで美味しいのか美味しくないのか曖昧な味。これじゃあ「じいや」もがっかりだ……。

気になり過ぎる三色ババロア

と、当時は失意のなかで終わったギョニ……いえ、ストロベリーババロア。それ以来、ババロアは作っていませんでしたが……皆さま! 時は来ました!! まさに今、リベンジの時!!

まずは以前から気になっていた「三色ババロア」、掲載されているのはこちら!

▲『おやつ向きの和洋菓子の作方』(昭和9年 主婦の友社発行) ※著者私物

『おやつ向きの和洋菓子』。人気婦人雑誌『主婦の友』の付録で、表面はカラーで付録とは思えないほどの豪華な内容のレシピカードです。戦前の付録は意外と豪華で、錦絵のような印刷で華やかでステキです。

記載名は「三色バゞロア」(以下三色ババロア)。大型のゼリー型で作ったババロアが、苺・バニラ・チョコレートの三層になっており、この形態の「三色ババロア」は、昭和初期から中盤までいろいろな本や雑誌に掲載されているので、ご存じの方もおられるかと思います。材料はこちら。

「三色ババロア」 苺液 材料:苺シロップ / 砂糖 / 水 / 卵白 / レモン汁 / 食紅

カスタード液
材料:牛乳 / 砂糖 / ゼラチン玉子

チョコレート液
材料:牛乳 / 砂糖 / ゼラチン玉子 / チョコレート

まずは、苺味部分の「苺シロップ」を作らないといけませんが、記載されてる手順だと「苺と砂糖を漬けて1か月間マメにかき回す」というもの。……無理だ……絶対に作ったことさえ忘れ、謎の物質が爆誕するという自信さえある……。

というわけで、今回は苺と砂糖を一旦軽く煮て、数日置いた苺シロップをご用意。

▲即席苺シロップ

意外と綺麗な赤でびっくりです。このシロップを漉したものとゼラチン、砂糖、謎の卵白、レモンを混ぜます。そもそも、この苺液は、レシピ集に別記掲載されている「ゼリー・プレーンの応用」と書いてあるので、これゼリーなのでは…? とも思いますが、謎は謎のまま進めていきます。

そして謎の卵白は、応用の「ゼリー・プレーン」の挿絵でわかりましたが、白赤の二色のゼリーで白色を付けるために卵白が入っているようです。なので、入れなくてもよさそうですが、一応、今回は記述通りに進めていきます。

▲一段目の苺液を入れます

材料を入れて混ぜていると、苺シロップの瓶では良い色でしたが、体積が少なくなると、なんだか色が薄くイマイチ。レシピには「食紅を使って良い」的なことが書かれてるので少し入れ、型は挿絵の城型ではなく、当時、三色ババロアとして各本によく紹介されていたベーシックな型にしました。型に流し入れ、冷蔵庫で冷やし固めます。

そして二段目、カスタード味(本来は「アングレーズソース」というらしいのですが、わかりやすく「カスタード」で押し進めます)は牛乳、ゼラチン、砂糖、黄身を混ぜて、

▲二段目のカスタード液を入れます。

固まった苺味の上に流し込み、冷蔵庫で冷やし固めます。

いちいち冷やすの時間かかるなこれ……とはいえ、国産の電気冷蔵庫の発売は昭和10年なので、昭和9年の一般家庭では大きな氷を入れて冷やすタイプの冷蔵庫、もしくは冷水で冷やすしかなかったので、当時からしたら現在の冷やし方はちょっぱや! なので我慢です!

そして最後のチョコレート味。溶かしたチョコと牛乳、砂糖、ゼラチン、そして泡立てた卵白、……ん? これこそムースでは? とは思いますが、とにかく進めます!

▲三段目のチョコレート液を入れます

混ぜたチョコレート液を固めたカスタードの上に流し込み、冷蔵庫で冷やし固めます。

固まったら出来上がり!

▲完成!

おお! 意外にうまくいってる!! 3種類とも入っているものが微妙に違うので、何かしらが起きちゃうかと思っていましたが予想外!! 苺部分が予想以上に綺麗です!

▲切った断面もイイ!

切ると下のチョコレート部分が泡立てた卵白入りのせいか、ほわほわしていますね。

さてさて、いただきま~す!

んん!?!? は? 本当にこれ昭和9年のレシピ?? まじ??? 凄まじく美味しいんですけど!? 少し甘いけど、チョコ部分の美味しさと柔らかさ、カスタード部分の王道の美味しさ、そこに少し酸味と甘味の苺味とのバランスが絶妙!!

ふおおお……ちゃんと漉したので舌触りもなめらかで、苺ゼリーとババロア、チョコムースとのトライアングル効果でずっと食べていられる!! なぜ今まで作らなかったのか~!!

みかん囲みババロア(みかんのシャルロット)

そんな「ババロア」の起源が『デザート』(昭和48年 婦人画報社発行)に記載されており、出身国はなんとドイツ。私の脳内では勝手に焼き菓子が多い国とか思っていましたが、ババリア地方(現在のバイエルン州)の城主に仕えていたコックが考案したものと記載されています。そんな直球な名前だったとは……。

▲『デザート』(昭和48年 婦人画報社発行) ※著者私物

この本にもババロアはかなりの種類載っており、そのなかでも幼い頃から気になってた、周りに柑橘の輪切りがめちゃ付いているババロアも作っちゃいます!! 材料はこちら。

「みかん囲みババロア」 材料:ゼラチン / 水 / 生みかん汁 / 砂糖 / レモン汁 / 白ワイン / みかんの輪切り / 卵白 / 生クリーム / 塩

記載名は「みかん囲みババロア(みかんのシャルロット)」。

「みかんシャルロット」の「シャルロット」は、本来ビスキュイやパンの耳で囲った帽子に見立てたお菓子を指しますが、こちらの本では、囲ったみかんの輪切りをビスキュイなどに見立てたようです。

まずは、型離れしやすいようにサラダ油を型に薄く塗り、輪切りにしたみかんを付けて型ごと冷やします。

見本ではドーム型ですが、以前、知人とババロアの話になった際「なぜババロアはエンゼル型で作られているのが多いのか?」という話になったのを思い出し、謎を解明すべく? エンゼル型でやってみますか!

▲エンゼル型にみかんの輪切りを貼り付ける

とは言うものの、上手に型からはずれるのか悩みどころですが、やってみるしかねえ!

ちなみに、エンゼル型は「天使(エンジェル)の輪」に似ているからですが、昔の日本語には「ジェ」という言葉がなかったので、その時代に入ってきたものはこういう表記のようです。

まず、みかんを絞るのですが必要量300ml! 1袋以上も絞ることに……まじか……ポンジュースも考えましたが、できるだけ忠実にしたく絞りまくりましたぞ!! コンチクショー!! ぎゅむぎゅむぎゅむ……。

▲10個前後使用

ぜえぜえ……必死に絞りまくったせいで何個使ったか数えてない……、たぶん1袋ちょいも絞ったよ……絞っているあいだに、“なぜオレンジでなくみかん?”とも思いましたが、オレンジは平成3年の「オレンジ自由化」まで輸入制限があり、母が昭和40年代に田舎から上京した折りに初めて見たと言っており、あまり一般的ではなかったようです。

なので、そんなオレンジより手に入りやすいみかんにしたのかもしれません。んもう! めっちゃ絞った~!!

ここに砂糖、レモン汁、白ワイン、溶かしたゼラチンを入れて混ぜたオレンジ液を作り、別に卵白に塩ひとつまみと砂糖を入れて泡立てたものを作り、両方を混ぜます。

▲みかん液に卵白を投入!

卵白と液同じくらいのとろみにして混ぜます。

とは言うものの、ぼやっとしてるとみかん液は固まり始めるし、卵白の状態を見たりで、同じってかなり難しい! 大丈夫か?

▲すこし固まり過ぎてモコモコになってしまった

そんなこんなで型に入れ、冷蔵庫で冷やし固めます。

……なんだかもったりしてて大丈夫なのだろうか……モコモコじゃん……というか、不安しかない!!

ひょうきん懺悔室の「バツ」を出されたような気分のまま、片肘をついてお菓子のゴッドに祈ります(ウソ、お茶飲んでた)

数時間後、かなり大きいのでしっかり冷やしました! せーの……

▲完成!

ドン!! そして生クリームで盛り付け!

お~!! なかなかイイ感じ! 若干輪切りが1枚剝がれかけましたが、持ち前のネガティブさでなんとか乗り切りました!!(悲鳴上げてた) では、いただきま~す!

▲断面はホワホワしています

おお! 味はまんまみかんです。さすが、あれだけの数のみかん汁が入っているだけあります。味はまあまあですが、みかん独特のモワっとした柑橘の風味より、シャープな柑橘感のオレンジのほうがより一層美味しそうです。この味、遠足のバスを思い出すな……それにしても断面がかなりホワホワしていますが、これ正解? 断面写真が掲載されていないのでわからないのです。

珈琲ハウス「赤茄子」のファンシーなババロア

ここまで作ったババロアを紹介しましたが、私自身、長らく人が作ったババロアを食べてないので、プロのババロアも見て食べ比べてみたい! 断面も気になるし! というわけで、今も可愛いババロアを出す喫茶店があると聞き、早朝に行ってまいりました!

▲街のイイ感じに可愛いCOFFEE HOUSE「赤茄子(とまと)」

東京、新小岩の商店街にあるCOFFEE HOUSE「赤茄子」と書いて「とまと」。イカします! 寒さでヒリつく冬の朝、店内に入ると店内の柔らかい温かさでホッとします。

▲商店街にあるので行き交う人が眺められる

ガラスの向こうには駅に向かう人々のせわしなさ、店内はゆったりとした時間の異次元さを体感しつつ注文すると、

▲恐ろしいほど可愛いババロア!

キタ! ババロア! うひ~! めちゃくちゃファンシー!! なんという可愛さ!! 最近の世の中は、この可愛さをすっかり忘れています!

外にこれ持って出て「これ可愛いですよ!」って叫びたい~!!

……では、変質者として通報される前にいただきます!

▲全てがちょうどよい

う! なめらかで固さもちょうどよく美味しいカスタードの味!! この舌触りと断面を見ると、私が作った囲みみかんババロアは少し泡立て過ぎたのかもしれません。

さすがプロ……。

そして、ここでもわかるように「エンゼル型」のババロアです。盛り付けの際に、三色ババロアくらいの高さがあると、ババロアの弾力では立てるのに技術がいるので、エンゼル型が一番安定していたのかもしれませんね。

美味しかった~! ご馳走さまです。

そんなこんなで、まだまだステキな形と味のババロアはたくさんあるので、皆さま、ぜひお試しを。

それにしても、家庭に冷蔵庫があるかないかの昭和初期に、現代で冷蔵庫を使っても1日がかりな三色ババロアを作っちゃうなんて、当時の製菓大好き勢の底知れぬ努力を感じてめちゃリスペクトです! ストロベリーババロアもいつか再チャレンジしたいと思います。じいやも喜ぶでしょう……。


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