【レビュー】<チャート分析!>APS-C向け超広角ズーム・トキナーの白いヤツ『atx-m 11-18mm F2.8 E』の実力とやらをみせてもらってみた!

実勢価格6万円前後のケンコー・トキナーが販売する『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』、大三元広角ズームレンズ相当のホワイトモデルが気になって、その性能を各種実写チャートを使って分析してみました。白いボディが目立つだけではなかった、その実力を紹介します。

大三元ズームレンズの広角に相当するAPS-C向け

16-27mmF2.8に相当するソニー Eマウント向けは大混戦

『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E White Editon』をボディに装着したところ。短めの広角ズームレンズですが、白い鏡筒が目を引きます。 レンズ交換式のカメラを購入すると、多くの方が悩むのは次はどんなレンズを買うかでしょう。もしレンズ交換式のカメラをはじめて買ったなら、レンズキットなら24mmあたりから70mm、100mmあたりまでをカバーする標準ズームレンズ、ダブルズームレンズのキットモデルなら、これにプラスして70mm程度から300mmくらいまでをカバーする望遠ズームレンズが付属します。 これらで撮影していて、最初に不満を感じるとしたら、もっとアップで撮影したい→マクロレンズ、もっとぼかして撮影したい→明るい単焦点レンズ、もっと遠くのものを大きく撮影したい→超望遠レンズ、そして、もっと広い範囲を撮影したい→広角レンズといった感じになります。 プロやハイアマチュアの所有するレンズもだいたい、広角ズーム、標準ズーム、望遠ズームの3本を中心に、マクロレンズや超望遠レンズ、大きくぼけるポートレート用の明るい単焦点レンズだったりするので、基本の広角ズーム、標準ズーム、望遠ズーム+αは好みが大きく影響するのでしょう。 そして、一般的なダブルズームレンズキットに足りない焦点距離は広角ズームになります。だいたい16mm相当前後から標準ズームの広角端までをカバーするような24mmや28mmといった焦点距離をカバーするレンズです。そのため、この広角ズームの焦点距離のレンズは純正はもちろん、さまざまなメーカーから多くのものが販売されています。 そのなかでも人気なのが、いわゆる大三元広角ズームと呼ばれるカテゴリー。16mm前後の広角端から24mmから35mm程度の望遠端をもつズームレンズで、ズーム全域で開放F値(明るさ)がF2.8とズームとしては非常に明るいレンズになります。 大三元レンズは、それぞれのカメラメーカーやブランドを代表するF2.8通し(ズーム全域で開放F値が2.8)の広角、標準、望遠ズームレンズを指す通称です。この3本のズームレンズはそのカメラシステムを代表するような明るく高性能、高価なレンズであることが多く、憧れやステータスシンボル的な意味も含めて大三元レンズと呼ばれます。

通常のブラックモデルだけでなく『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E White Editon』のホワイトカラーも選べるのが大きな特徴です。 今回とりあげた『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』はAPS-C向けのレンズのため、装着時の画角は焦点距離にして16.5mmから27mm相当、ズーム全域で開放F値は2.8なので、APS-C向けの大三元広角ズームといえる位置付けです。 実は、このAPS-C向けの大三元広角ズームレンズは、人気のカテゴリーのようで、ソニー Eマウント用だけでも有名レンズサードパーティメーカーから、それぞれ味付けの異なるレンズが発売されている状態となっています。 先日、筆者は本サイトの「【レビュー】広角ズームはこれでいいと思うほど高性能『SIGMA 10-18mm F2.8 DC DN | Contemporary』は性能・サイズ・価格とすべてに満足なAPS-C向けレンズ」-特選街webという記事で、『SIGMA 10-18mm F2.8 DC DN | Contemporary』の性能を実写チャートでテストして、その高性能ぶりに驚きました。 『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』はケンコー・トキナーがTokinaブランドで販売している同カテゴリーのレンズなのですが、2024年3月独自調べでの最安値が58,000円程度と『SIGMA 10-18mm F2.8 DC DN | Contemporary』に比べて3割程度安く、しかも最近の広角レンズとしては珍しいカラーバリエーションでホワイトが選択可能なのです。 先日、ふと、そのことに気が付き、3割も安い『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』が気になり「みせてもらうか、トキナーの白いヤツの性能とやらを」と思った次第です。

予想以上だった日本製Tokina(トキナー)レンズの実力

筆者はレンズ評価の師匠である小山壯二氏にオリジナルチャートを作ってもらい、さまざまなレンズの解像力やぼけ、軸上色収差といったチャートを撮影してレンズのレビューなどを行っています。元々半ば趣味で撮影していたのですが、それを備忘録的に整理するためや他の方とも情報を共有できればと考えて、Amazon Kindleで電子書籍化したものが「レンズラボ」や「レンズデータベース」シリーズです。 今回はこのなかから「Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E レンズデータベース」に掲載したデータの一部を転載して『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』の実力について解説したいと思います。

心配した広角端11mm絞り開放F2.8でも周辺部まで解像

広角端11mmの絞り開放F2.8とF3.2で撮影した解像力チャートの結果。中央部は十分以上にシャープに、周辺部分もかなりしっかりと解像しているのがわかります。 素直に言ってしまうなら『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』の実写チャートテストにおいて、もっとも心配したのが広角端11mm絞り開放F2.8での解像力チャートの周辺部の描写です。小山壯二氏のオリジナル解像力チャートは、使用したカメラの有効画素数から理論的に解像可能なサイズのチャートを基準値とし、どの程度チャートを解像しているかを目視して評価を行っています。 今回のテストでは『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』を『Sony α7R III』に装着してクロップで撮影したので、基準となるチャートは1.2です。掲載した画像はA1サイズの解像力チャートの中央部分と周辺部分のチャートを切り出して掲載しています。 11mm絞り開放F2.8で撮影した結果は、上に掲載したチャートのとおりで中心部は非常にシャープに、周辺部分は描写はややソフトでコントストは弱くなっているもののチャートの1.2をかなりの部分で解像していました。また、中央部のチャートと周辺部のチャートの形の違いから歪曲も観察しているのですが、歪曲の影響も軽微です。筆者の予想以上の結果といえるでしょう。

絞り開放から広角端の11mmでもかなりしっかり解像する本レンズですが、解像力のピークと思われるF5.6からF8.0では周辺部のシャープネスがさらに向上します。 ちなみに周辺部のシャープネスとコントラストは絞っていくほどに上がる傾向で、上に掲載した11mm、F5.6とF8.0の実写チャートの結果からもわかるように、絞ると開放付近以上に周辺部分までしっかりした解像力を発揮します。 中央部分の解像力は絞り開放からほとんど変化しないので、画面全体をシャープに描写したいならF5.6からF8.0、周辺部の描写を少しソフトにして画面中央に配置した被写体に注目を集めたいならF2.8などの開放付近という使い分けがおすすめです。 小絞りぼけや回折と呼ばれる絞り過ぎによる解像力の低下がF11くらいから現れる傾向なので、絞り過ぎないように注意が必要です。 望遠端の18mmについても、中央部分は絞り開放のF2.8からかなり解像力が高く、シャープでコントラストも高いです。そのため中央部分だけを重視するなら、どの絞りで撮影してもまったく問題ありません。 周辺部分の解像力は、絞り開放のF2.8からF4.0未満では、解像はしていますが、シャープネスとコントラストが弱めのソフトな描写になります。F4.0から急激にコントラストとシャープネスが上がり、F5.6からF8.0がコントラストやシャープネス、解像力のピークになります。 そのため、画面全体の解像力を重視するならF5.6からF8.0。中央部分を重視して周辺部をややソフトの描写するならF2.8あたりを使用することをおすすめします。 広角端11mm、望遠端18mmともに絞り開放F2.8から、周辺部分も含め、実用レベルで不満を感じることはない結果といえます。完全に筆者の予想以上です。

9枚羽根と豪華な仕様の絞りのおかげで美しいぼけの形

『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』広角端11mmで発生する玉ぼけの様子を観察したぼけディスクチャート。超広角の焦点距離ですが、ぼけのカクツキは少ないです。 筆者たちは超小型のLEDライトを撮影し、意図的に玉ぼけ(画面内のアウトフォーカス部分に点光源を入れ込むと発生する円形のぼけ)を発生させ、その玉ぼけの形そのもの、円周部分のフチつきや色つき、玉ぼけ内部のガチャつきやゴチャつき、同心円状のシワ(タマネギぼけ)などを観察して、実際に発生するぼけの形や質を観察しています。 その結果が上に掲載した撮影結果が『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』の広角端11mm側でのぼけディスクチャートになります。超広角の11mmにしては、玉ぼけの円周部分の色つきやフチつきも少なく、玉ぼけの内部のガチャつきやゴチャつきも少なく美しいぼけが期待できる結果です。また、同クラスのレンズとしては絞り羽根枚数が9枚と枚数の多い豪華な仕様のためか、絞り込んでもぼけの形にカクツキが発生しにくい傾向です。 超広角の11mmにしては美しいぼけの得られる結果でした。といっても、『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』のぼけディスクチャートの結果だけをみていただいても、よくわからないと思いますので、ぼけの美しい望遠ズームの実写チャートを掲載した過去記事『【レビュー】驚愕のマクロ性能!LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S. ぼけも美しく開放解像力も高い望遠ズーム(実写チャート評価)』-特選街web、に掲載したぼけディスクチャートの結果も参照いただけると幸いです。こちらは11枚羽根絞りと中望遠のズームレンズなので、さらに豪華な絞りを採用しています。

『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』望遠端18mmのぼけディスクチャートの結果。広角端11mmに比べて、さらにぼけが美しい傾向。 望遠端の18mmで撮影したぼけディスクチャート(玉ぼけ)の結果は、上に掲載したとおりです。9枚羽根と絞り羽根枚数の多い絞りを採用している影響で、ぼけの形が真円に近く、絞ってもカクツキが発生しにくいという点は、広角端と同傾向です。 ただし、玉ぼけ内部のザワつきやゴチャつきなどはさらに少なくなり、よりすっきりとしたぼけが得られる傾向が感じられます。また、ぼけの円周部分については、色つきやフチつきの傾向がさらに少なくなっていることがわかります。 背景に大きなぼけが発生するシーンでは『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』の場合、広角端の11mmよりも望遠端の18mmのほうがぼけの形と質といった面でも優位と考えておくとよいでしょう。

ハイコストパフォーマンスで白も選択できる『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』

老舗トキナーの白い広角ズームの予想以上の高性能ぶりに驚く

広角端11mm、16.5mm相当、F8.0で撮影。広角らしい広々とした画角に、周辺部までしっかりと描写する解像力が感じられる1枚になりました。 『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E レンズデータベース』では、この記事に掲載した解像力チャートとぼけディスクチャートの一部のほかに、軸上色収差、周辺光量落ち、マクロ、星景写真撮影によるサジタルコマフレアのチャートを掲載しています。 これらの内容にも軽く触れておくと、軸上色収差については、ちょっと驚くほど広角端、望遠端のどちらも軽微であったこと、周辺光量落ちについてもカメラの初期設定のデジタル補正がオンであったことも含めても軽微でした。 マクロ撮影の結果については、広角端11mmでの最短撮影距離がわずか約19cmAPS-C向けレンズなので、飲食店などでの手軽なテーブルフォトにも十分対応できるレベルです。また、『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』はズームをするとレンズ先端が繰り出され、レンズの長さが変化するタイプのレンズなのですが、レンズフードが繰り出し部分を覆う構造になっているため、撮影時にレンズの伸縮が気になることもなく、デザイン的にも優秀です。よく工夫された設計といえるでしょう。ただし、最新のこのカテゴリーのレンズは、さらに近接できるものも多数出ているので、評価としては一般的なスペックです。 ちょっと気になったのは、星景写真を撮影した際に本来点であるはずの星が変形してしまう非点収差やコマ収差などが複合して発生するサジタルコマフレア(点が鳥が羽を広げたような形になる)の発生です。ほぼどんなレンズでも量の差はあれ発生するのですが、『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』は広角端11mmでも、望遠端の18mmでも比較的はっきりと発生する傾向です。絞ると軽減しますが、この点には注意が必要でしょう。 総合的にいうなら、解像力も、ぼけの形、美しさも十分以上、AFの動作も安定しているので、安心して使うことのできる老舗日本レンズサードパーティーメーカー製レンズといえる結果です。

コンパクトで明るく、寄れる広角ズームなので、息子とかくれんぼをしているときにも撮影が楽しめます。写真はシャッター速度優先AEで絞りは開放のF2.8です。 すでに筆者は過去の記事で「【レビュー】広角ズームはこれでいいと思うほど高性能『SIGMA 10-18mm F2.8 DC DN | Contemporary』は性能・サイズ・価格とすべてに満足なAPS-C向けレンズ」-特選街webという実写チャートレビューを行っているので、みなさんが気になるのは、『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』と『SIGMA 10-18mm F2.8 DC DN | Contemporary』はどちらが高性能なのか? という点だと思います。 多くの方が広角ズームレンズに求める高い解像力を中心に考えるなら『SIGMA 10-18mm F2.8 DC DN | Contemporary』のほうが周辺までの解像力が高く、よりシャープなレンズだといえます。ただし『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』の解像力が低いかといえば、解像力チャートの結果からもわかるように中央部分は十分以上、周辺部分も筆者の予想以上に解像しています。さらにチャート結果からは周辺光量落ちや軸上色収差の少なさ、絞り羽根枚数が多いので、絞り込んでもぼけのカクツキが少ないといった優位点もあります。

展示されていた蒸気機関車の車輪を撮影しました。広角端の11mmF8.0を選択しましたが鉄の重量感や質感などがしっかりと伝わってくる描写です。 しかし、2024年4月現在『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』の最安値は58,000円程度、これに対して『SIGMA 10-18mm F2.8 DC DN | Contemporary』は83,000円前後と1.4倍を少し超える歴然とした価格差があることも事実です。 そういった点までを考慮するなら『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』はAPS-C向けのF2.8通し大三元広角ズーム相当のAFレンズが実勢価格5万円台で入手できる極めてコストパフォーマンスの高いレンズといえます。日本メーカー製でしかもMADE IN JAPAN。 スタンダードなブラックモデルもありですが、やはり個人的にはホワイトモデルが選択できるのがうれしい。筆者のなかには鏡筒の白いレンズはスペシャルな高性能モデルというメーカーによる刷り込みがしっかりと行われているので『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』のWhite Editonを使っていると、なにかテンションが上がってくるのです。 コストパフォーマンスが高く、実用性も十分、ホワイトモデルも選択可能な『Tokina atx-m 11-18mm F2.8 E』は筆者の予想以上に高性能でした。ソニー Eマウントユーザーで明るい広角ズームを検討しているなら、候補のひとつとして考えてみてはどうでしょうか。

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