女性視点から物語を紡ぎ続ける、ソフィア・コッポラと今注目の女性監督たち

Credit Melodie McDaniel.

世界が憧れるスーパースター エルヴィス・プレスリーと恋に落ちた14歳の少女・プリシラの物語を描く『プリシラ』が全国公開中。今回は、今作の監督を務めたソフィア・コッポラにクローズアップ! まずは、彼女の歩んだ軌跡から振り返ってみましょう。(インタビュー、文・斉藤博昭/デジタル編集・スクリーン編集部)
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唯一無二のフィルムメーカー、ソフィア・コッポラの歩み

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女性監督として、およそ25年にも渡って第一線で活躍し続ける。“女性”という枠で語られること自体、おかしな話だが、男性優位の状況が今も色濃いままのハリウッドにおいて、ソフィア・コッポラの仕事はリスペクトに値する。

もちろん巨匠フランシス・フォード・コッポラと、やはり映画業界に身を置くエレノア・ニールという映画一家に生まれた“特権”はあった。しかし今では、両親の名が言及されることもなくなり、唯一無二のフィルムメーカーの地位を確立している。

父フランシスが監督として参加した1989年のオムニバス映画『ニューヨーク・ストーリー』の一編「ゾイのいない人生」で、まだ10代だったソフィアは脚本を担当。高級ホテルに暮らす12歳の少女という主人公に寄り添った。そこから少し時間を置き、1998年に撮った14分の短編『リック・ザ・スター』で思春期の少女の独特な感性をリリカルに切り取る。

同作を原型にした翌年の初長編監督『ヴァージン・スーサイズ』(1999)が、その後のソフィアの路線を決定づけたと言っていい。1970年代を舞台に、5人の姉妹それぞれの孤独や悩み、危うい決断を、美しい映像と音楽でつづる。“ガーリームービー”、“ガーリーカルチャー”といった言葉が、ソフィアの映画とともに語られ始めた。

2作目の『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)では東京のホテルや街を舞台に、やはりヒロインが味わう孤独感をソフィア自身の体験も込めて描き、アカデミー賞脚本賞を受賞する。

ここから『マリー・アントワネット』(2006)のカンヌ国際映画祭コンペティション参加、『SOMEWHERE』(2010)のヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞、『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』(2017)のカンヌ監督賞……と、ソフィア・コッポラは国際映画祭の常連となり、カンヌでは審査員も経験した。

「The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ」ソフィア・コッポラ監督来日インタビュー - SCREEN ONLINE(スクリーンオンライン)

“観たい世界”に入り込み非日常の世界を愛でる

すべての作品で女性が主人公、あるいは男性と女性が同列の主人公。そして美術や小道具、選曲にこだわり、そのセレクトや使われ方が作品自体の魅力になる。ソフィア・コッポラ作品の特徴はかなり一貫しており、だからこそ「観たい世界に入り込む」という観客の欲求を満たしてくれる。

さらにソフィアの志向を挙げるとしたら、セレブライフの具現化。初脚本の「ゾイのいない人生」での高級ホテル生活に始まり、『ロスト・イン・トランスレーション』ではハリウッドスターを登場させ、『マリー・アントワネット』ではヴェルサイユ宮殿での贅を尽くした日常、『SOMEWHERE』でもホテル暮らしを続ける映画俳優と娘の関係をみつめた。『ブリングリング』(2013)で少女たちが盗みに入るのもハリウッドの豪邸。

そして最新作『プリシラ』では、あのエルヴィス・プレスリーという歴史に残るセレブの日常にも迫っていく。ホテルや豪邸のおしゃれなインテリアとともに、われわれ観客も、ソフィアが描くそうした非日常の世界を愛でることになる。

ただし近年は、南北戦争を背景にしたサスペンス『The Beguiled〜』、コメディ色も強い『オン・ザ・ロック』(2020)など、作品の多様化もみせる。ニューヨークを起点にしていることから、ニューヨークシティ・バレエの短編を撮るなど、「惹かれた題材」への自在なアプローチがソフィアの流儀。

それゆえにメジャースタジオとは一線を画し、A24配給などインディペンデントでの製作を貫く姿勢が、次に何を手がけるのか、つねに映画ファンに注視されている。

バンド「フェニックス」のボーカル、トーマス・マーズとの結婚生活も順調のよう。マーズは『ヴァージン・スーサイズ』に楽曲を提供した縁もあり、『プリシラ』でも選曲を手伝うなどソフィアの映画を支えている。

ソフィア・コッポラ フィルモグラフィー

1999年|『ヴァージン・スーサイズ』監督・脚本

『ヴァージン・スーサイズ』 U-NEXTで配信中©1999 by Paramount Classics, a division of Paramount Pictures. All Rights Reserved

2003年|『 ロスト・イン・ トランスレーション』監督・脚本・製作

『ロスト・イン・トランスレーション』 U-NEXTで配信中©2003, Focus Features all rights reserved

2006年|『マリー・アントワネット』監督・脚本・製作

『マリー・アントワネット』 U-NEXTで配信中©2005 I Want Candy LLC.

2010年|『SOMEWHERE』監督・脚本・製作

『SOMEWHERE』
Blu-ray発売中/価格:4,935円(税込)
発売元:株式会社東北新社
販売元:TCエンタテインメント株式会社

©2010-Somewhere LLC

2013年|『ブリングリング』監督・脚本・製作

2015年|『ビル・マーレイ・クリスマス』監督・脚本・製作総指揮

2017年|『The Beguiled/ ビガイルド 欲望のめざめ』監督・脚色/兄のロマンと共に製作も兼任。

2020年|『オン・ザ・ロック』監督・脚本・製作

2023年|『プリシラ』監督・脚本・製作

『プリシラ』2024年4月12日より公開中
配給:ギャガ
©The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023

ソフィア・コッポラ インタビュー

プリシラの回顧録「私のエルヴィス」を読み心を動かされたと語るソフィア・コッポラ。今作にどのようにして取り組んだのか、その溢れる思いを語ってくれました。

『プリシラ』あらすじ

1959年の西ドイツで、14歳のプリシラは兵役についていたエルヴィス・プレスリーに見初められる。17歳になったプリシラは、メンフィスにあるエルヴィスの邸宅、グレースランドへ招かれ、彼との生活がスタート。華やかな日常を送り、2人は結婚し、プリシラは娘も授かるが、多忙なエルヴィスとは心のすれ違いも生じていく。

──この『プリシラ』は、ふかふかのカーペットに素足が沈み込む映像で始まります。多くの人が期待する、あなたの映画ならではのセンスを感じられました。

あの映像で『これは私の映画です』と宣言しているわけではありません(笑)。私は自分自身を映画で表現している傾向もあるので、そのように受け取られることには慣れています。あのオープニングの映像は無意識に撮っていました。私としては、たとえばベッドルームに何人かの女の子たちが横たわっていたり、そういったイメージに自分らしさを感じる時はあります。

──本作はプリシラ・プレスリーの回顧録「私のエルヴィス」を基にしたうえで、プリシラ本人の協力も得ているのですよね。

はい。プリシラが私の前で人生を振り返ってくれました。そこで原作に書かれていないエピソードも出てきたのです。

たとえばプリシラとエルヴィスの映画館でのデート。エルヴィスはハンフリー・ボガートのセリフを暗記しており、スクリーンに合わせて復唱します。その直後の車の中のシーンで、エルヴィスはマーロン・ブランドやジェームズ・ディーンの演技に憧れていることをプリシラに語ります。ミュージシャンとしては最高の人気を得ていたエルヴィスが、俳優業ではキャリアに不満をもち、屈折感も抱えており、そうした感情はプリシラから直に聞いたことで脚本に入れ込むことができました。

──プリシラは完成作に満足してくれましたか?

初期のラフカットを観てもらう時は緊張しましたが、プリシラから『私の人生を伝えてくれてありがとう』と言われ安心しました。何よりプリシラになりきったケイリー(・スピーニー)の演技のおかげだと思います。

──ケイリー・スピーニーを、どのようにプリシラ役に導いたのでしょう。

当初、ケイリーはプリシラについて詳しくなかったので、一緒にコーヒーを飲みながら、時間をかけてプリシラの人生について説明しました。おたがいの意図を理解し合ったうえで、彼女はプリシラ役を引き受けてくれたのです。

撮影に入ってからは、エルヴィス役のジェイク(ジェイコブ・エルロディ)との相性が本作の成否を分けると感じていました。ジェイクに備わっていたカリスマ性と、どんな相手も受け入れる包容力によって、ケイリーもプリシラになりきってくれました。

──バズ・ラーマン監督の『エルヴィス』は気になりましたか?

『エルヴィス』は、本作の撮影が始まる前に観ましたが、全く方向性が違っていたので影響は受けていません。同作にはプリシラが少ししか登場しないので、私はむしろ別の視点から登場人物の感情を描けばいいと気がラクになりました。

──本作は撮ったことで、あなた自身が得た喜びを教えてください。

1960年代のカルチャーを再現し、私の母の人生を追体験できたことです。そこから私の世代、そして娘の世代で変化していったもの、また変わらず共有できるものなどに思いを巡らす喜びに浸りました。 

©The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023

ガーリー・カルチャーを牽引する

ソフィア・コッポラをより深く知る4つのこと

長年に渡るキルスティン・ダンストとの深い絆

キルスティン・ダンストのインスタグラム(@kirstendunst)より

これまで『ヴァージン・スーサイズ』を含め4本もの監督作に出演しているキルスティン・ダンストとソフィアは現在に至るまで深い絆で結ばれている。

10代の頃キルスティンは、ある映画プロデューサーに「歯を矯正した方がいい」と言われたことがあったが、「彼女(ソフィア)は私に、自分の歯がかっこよくて、きれいだと感じさせてくれた」とインタビューで語っている。

また、キルスティンが次男ジェームスくんを妊娠した際には、W誌の監督特集号にてマタニティフォトもソフィアが監修している。

キルスティン・ダンストのインスタグラム(@kirstendunst)より

23歳の時に自身のFashionブランドを設立

BARRIEの公式インスタグラム(@barrie)より

10代の頃にCHANELでインターンとして働いていたこともあるソフィアは、ファッションブランド「X-girl」の立ち上げに参加したことをきっかけに服作りに興味を持ち(23歳の時に)自分をカテゴライズしない自由なファッションスタイルを提案する「MILKFED.」を1995年に設立し、日本でも瞬く間に人気となった。

BARRIEの公式インスタグラム(@barrie)より

最近では、120年続くスコットランド発のニットブランド「BARRIE」とコラボするなど、ファッションデザイナーとしても活躍し続けている。

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安全領域から離れ、オペラの演出もこなす!

『ソフィア・コッポラの椿姫』U-NEXTで配信中©Yasuko Kageyama

2016年5月に、イタリア・ローマ歌劇場で上演された「椿姫」の演出を担当し、名作にモダンなタッチを付与することに成功したソフィア。イタリアを代表するファッション・デザイナー、ヴァレンティノ・ガラヴァーニが今作の悲劇のヒロイン、ヴィオレッタの衣装を自ら全てデザインし大きな注目を集めた。

のちに、「椿姫」の演出を担当できた経験は、「“安全領域から離れて何かができた”という意味で自信になった」とインタビューで語っている。

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パートナーであるトーマス・マーズへの信頼

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ソフィアの夫・トーマス・マーズ(ポップロックバンド“フェニックス”のフロントマン)との出会いは『ヴァージン・スーサイズ』のサウンドトラックの制作中だった。これまでにフェニックスは『ロスト・イン・トランスレーション』『SOMEWHERE』等で楽曲を提供。『マリー・アントワネット』では、リュート奏者の四重奏団としてカメオ出演もしている。

以前から公私にわたるパートナーとして信頼を深めてきた2人だが、最新作『プリシラ』でもマーズがフランキー・アヴァロンの「ヴィーナス」をカバーしている。

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