武居由樹はなぜ元K―1王者初のボクシング世界王者になれたのか 石井館長が徹底解析

元K―1王者として初のボクシング世界王座奪取に成功した武居由樹

ボクシングのWBO世界バンタム級タイトルマッチ(6日、東京ドーム)で、武居由樹(27=大橋)が王者ジェイソン・モロニー(33=オーストラリア)に判定勝ちで王座奪取に成功した。この試合を立ち技格闘技「K―1」創始者の石井和義・正道会館館長(70)が徹底分析。なぜ武居は、元K―1王者として初のボクシング世界王座奪取に成功したのか――。

試合は武居が1ラウンド(R)から積極的に攻め、サウスポー(右前)の構えから何発も強烈な左のボディーストレートを打ち込んだ。2Rにはそのボディーが下腹部に入ったとされて減点1が告げられるアクシデントもあったが、その後も強烈な攻撃で王者を追い込むことに成功。終盤は王者からの反撃を受ける場面もあり、最終12R終了直前には猛ラッシュを受ける大ピンチもあったが、根性で立ち続けて判定3―0で歓喜の瞬間を迎えた。

ボクシングデビューから9戦での戴冠という日本人6位タイのスピード記録の快挙も達成。そんな武居に対し石井館長は「武居選手のボクシング経験が少ないといってもキックを25戦やっていますからね。むしろ武居選手の方が(モロニーより)落ち着いていたように見えましたよ」と目を細める。そして、偉業達成に至った理由を「キックやムエタイのセオリーで戦っていました」と指摘しつつこう説明した。

「ムエタイのサウスポーにおいて、基本は左のミドルキックなんですよ。だけど当然、ボクシングは蹴ることができない。そこで代わりに左のロングストレートをボディーに打っていました。前屈立ちで腰を低くしていたのは、手が伸びるからなんです」

さらに武居が自分から見て右方向に回り、オーソドックス(左前)に構えるモロニーの前足(左足)の〝外側〟に出ていたことに注目する。これもムエタイやキックでのサウスポーの選手のセオリーだとして「常に相手から見て左側に回って外を取って、相手のパンチをもらわない距離を取って自分は思い切りボディーを打って流れをコントロールしていました。距離はボクシングより半歩遠く、キックやムエタイよりも半歩近い感じでした。相手は嫌だったと思います。リズムが違うもん。あれはボクシングじゃなくて、キックだから」と説明した。

一方で7R以降徐々に反撃を受ける場面もあった。これに「チャンピオンの方も途中で気付いて、ムエタイの嫌な距離、つまり接近戦に持ち込もうとしたんです。それで後半はフックを打ち始めましたよね。チャンピオンは、アレをもっと早くやれば勝っていたと思います。ムエタイはあれに弱いんで…。気付いたのは良かったけど遅かったね」と王者目線からひもとく。しかし、最後に苦戦があったからこそ「武居選手から見れば勝つだけじゃなくて課題も見つかって良かったと思います。トレーナーの八重樫東君が現役時代に接近戦がうまかったから、これからそこに取り組んでくれるでしょう」と新王者の〝のびしろ〟に大きな期待を寄せた。

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