指先サイズの小さな顕微鏡が宇宙探索を進める!? 神戸のラボで研究 世界も興味示す先端技術

いま、宇宙を探索するための技術の研究が、神戸のラボで進められています。これは、指先サイズの小さな顕微鏡を使うというもの。

【写真】指先サイズの顕微鏡!? 宇宙研究にも役立てられる「マイクロ・イメージング・デバイス(MID)

その現状について、フリーアナウンサーの清水健と絵本作家の夏きこが木曜にパーソナリティーを務めるラジオ番組にゲスト出演した、株式会社IDDKの最高科学責任者で医学博士でもある池田わたるさんに話を聞きました。

――宇宙研究を進めるための研究とは、池田さんが実際に宇宙に行くということですか?

【池田さん】 いえいえ、ちがいます。僕は行かないです。人工衛星を用いて無人かつ自動で実験できるような装置を作って、そういう実験のプラットフォームを作ろうとしています。そこで登場するのが、指先サイズの小さな顕微鏡です。わが社の社名「IDDK」は、「いつでも」「どこでも」「だれでも」「顕微観察」というワードの頭文字からきていて、自動化によってどこでも研究ができれば宇宙研究に役立つのではと考えています。

そもそも顕微鏡は、小さくても犬や猫ぐらいのサイズが普通です。しかし、限られた宇宙ステーションにそのサイズのものがあるとそれだけスペースがとられるし、いろいろな研究で使いたいけど、順番に使わなければならないというロスが発生します。

さらに、研究ひとつ行うにしても、きちんと実験ができるような仕組みづくりの準備に2〜3年という時間がかかるうえに、いざ研究するときには人件費もかかります。

――池田さんたちが研究しているのが、人工衛星に顕微鏡を取りつけて、人の手を使わずに研究を行うということですか?

【池田さん】 そうです。僕らは“ユニット”を作ろうとしており、10センチ立方ぐらいの大きさを“1ユニット”と呼びます。そのなかに、人の手で行うような実験をなるべくシンプルにして詰めこみ、電源さえあれば自動で実験を行うことのできるシステムを開発しています。

小指の爪ほどのサイズの顕微鏡といってもレンズはなく、「マイクロ・イメージング・デバイス(MID)」という半導体チップにより、見たいものを画像データとして直接取り込むことができます。

「ラズベリーパイ」と呼ばれる名刺の半分ほどの大きさの基盤を、小型のコンピューターと合わせることでパソコン付き顕微鏡になります。「ラズパイ駆動型MIDボード」と呼んでおり、さまざまな機械と組み合わせて無人で遠隔操作することによって、宇宙での実験を進めたいと考えています。

――世界からも注目されているのでは?

【池田さん】 昨年からアメリカの宇宙関係の学会でブース展示などをしているのですが、実験ユニットを国際宇宙ステーションに納品している企業は興味を示してくれています。ただ、いざ実験しようと思うと、顕微鏡でうつすことができるだけでなく、普段は手作業で行っていることを自動化しなくてはいけないので、そういう仕組みづくりを頑張っています。

地上で顕微鏡を見るときに、対象物がうつっていなかったら手で動かしますよね。そういった動きを自動でしなければならない、ということです。あとは、生き物を観察することが多いと思うので、細胞だったりプランクトンだったり、いろいろなものを生かしておくための仕組みづくりが今後の課題です。

――宇宙で生き物の観察があるのですか?

【池田さん】 ありますね。といっても、宇宙に生き物がいるというわけではなく、宇宙に地上の生き物を連れていき観察を行います。重力がないと地上と同じような振るまいができない生き物は多くて、地上とは異なる動き方をします。たとえば、魚だったら光がないと上下がわからなくなってしまうし、植物も根や茎をどちらに伸ばせばいいかわからなくなるようです。

今後、人類が宇宙に生活圏を拡大というか、宇宙旅行だったり月面に人が住んだり、火星まで行ったりだとか、宇宙飛行士ではない普通の人が宇宙に行くときの生活を支えるための研究が必要になると考えている人たちが多く、僕らはそういう研究を支えていければと。もちろん、チャンスがあれば僕自身も宇宙に行ってみたいな、と思っています。

――その夢をこんな小さな顕微鏡で叶えられるというのは、すごいですね。

【池田さん】 そうですね。まだ完成したわけではないので、すごいと信じている、が正しいでしょうか。いまの状態だと、ちょっとした顕微鏡というだけなので。研究の世界で使われている顕微鏡にはすごい機能がもっとあるので、そこに追いつくための開発も進めています。

国際宇宙ステーション「ISS」は、2030年には退役します。後継として、NASA主導の民間宇宙ステーションが建造される計画もあるそう。現在、年間2000機以上の人工衛星が打ち上げられていて、今後は人工衛星でさまざまな実験が行われる時代になると思います。

いままでは、限られた人しか国際宇宙ステーションで研究ができませんでした。さらに、実験をしてもらおうとすると1時間550万円ほどかかるうえに、計画から実験まで時間もかかる。しかし、人工衛星に僕らの作る顕微鏡をつけて研究ができれば、まだわかっていないことがわかる可能性が十分にあると思っています。

国際宇宙ステーションでの研究は、国の協調の場であり国の予算で動いているのですが、そこを民営化したいと思っています。お金さえあればどんなチャレンジでも受けつけて、成功確率も関係なく研究を応援したいと思っています。そこから、僕らの作った実験プラットフォームで大発見があればうれしいですね。

――そんな顕微鏡は、神戸で作られているそうですね?

【池田さん】 作っているのは東京が中心で、神戸は研究がメインですね。昨年までは東京で研究もしていたのですが、僕が関西に住んでいるということで、1月から神戸にラボができました。

IDDKは友人が立ち上げた会社で、僕は1年半前に転職してきたのです。もともとは製薬会社で研究をしていたので、神戸でIDDKの研究をやりたいと思いラボを作りました。

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宇宙に宇宙人はいるのか、何があるのか? 「まだまだわからないことがあるところがワクワクする。だから同じ思いを持つ人の研究をサポートしていければと思います」と話す池田さん。

実は以前から、「チャイルドケモハウス」という小児がん治療施設(現在は患児と家族の滞在施設)のサポート活動も行っているのだそう。研究だけでなく、誰かを助けサポートしていくことが池田さんの目指す生き方なのかもしれません。

※ラジオ関西『Clip 木曜日』2024年4月18日放送回より

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