「生きとし生けるもの」妻夫木聡と渡辺謙が“テレ東でしかできなかったドラマ”で届けたかった思いとは?

テレビ東京開局60周年特別企画ドラマスペシャル「生きとし生けるもの」(午後8:00)の記者会見が行われ、ダブル主演の妻夫木聡渡辺謙をはじめ、原田知世杉野遥亮大政絢が登壇した。

「生きとし生けるもの」は、北川悦吏子氏が脚本を手掛け、廣木隆一氏が監督を担うヒューマンドラマ。佐倉陸(妻夫木)は類まれなる才能を持った外科医だったが、ある時からメスを握れなくなり、精神的に追い詰められた結果、外科を追われ内科医となった。そして、余命宣告を受けたがん患者である成瀬翔(渡辺)の担当医となる。繰り返される手術と抗がん剤治療にうんざりした成瀬は、陸に「殺してくれよ」と言い、陸はあっさり「いいですよ」と返答。「でもその前に、やりたいことはありませんか?」と問い掛ける。2人は病院を抜け出し、バイクで旅に出ることに。キャンプをし、生まれた街へ行き、初恋の人に会う。次第に体調を崩していく成瀬を支える陸。人生最後の旅をしながら「人は何のために生きるのか」を模索をしていく。

冒頭、妻夫木は「命というものを題材にしたテーマで、素晴らしいキャストの方々、脚本家の北川さん、監督の廣木さんを迎えてスペシャルドラマを企画するのもなかなか勇気がいることだったと思うんですが、こういう機会を与えてくださったことに本当に感謝していますし、テレビ東京さんだからこそできた企画だったんだろうなと思っています」と感謝を述べた。

余命宣告を受けたがん患者という難しい役どころを演じた渡辺も、「医療ドラマはいろんなところでやっていますが、ここまでストレートに、ある意味エグいほどに死にゆく姿をどう看取るかみたいな話ってなかなか描けないと思うんです。そんなヤバい題材なんじゃないかと思っていたんですが、これはもうテレ東しかできないですよね」と、攻めの姿勢に大いに感銘を受けた様子。

成瀬の初恋の人・中野百合を演じた原田は「テレ東さんは本当に楽しく自由な発想でものづくりをされる現場という印象です。今回はこんな大きな周年で素晴らしいキャストの中に呼んでいただけるだけで本当にありがたいと思いましたし、こういう作品に自分を残していけることはすごく幸せな気持ちになりました」と話した。

陸が勤める病院の研修医・吉岡薫役の杉野は「オファーをいただいた時に、妻夫木さんと渡辺さんのお名前を拝見して『やった!』と思いました。こういうところに呼んでいただけて、自分もその一員として作品に残っていけることはすごくありがたいですし、仕事をやっていく上で経験できるものや見えるものをできるだけ吸収したいなと思いました」と、得るところの多い現場になったことをうかがわせた。

陸のよき理解者である看護師・菅田陽子役を務めた大政は「以前、バラエティーで動物番組をやらせていただいたりしたんですけれど、すごく自由で温かいというのが、テレビ東京さんのイメージですね。今回のドラマはその時とは違った雰囲気で挑まさせていただいたといいますか、この素晴らしい作品に携わらせていただけたことを、とてもうれしく思っております」と笑顔で述べた。

そして、壇上には、脚本を担当した北川氏も登場。妻夫木と北川の付き合いは、ドラマ「オレンジデイズ」(TBS系)から始まり、20年にもなる。今回のドラマを見た北川氏は「人の本質って変わらないし、その人のよさも変わらないと思っていて。妻夫木くんのよさも変わらないんだけど、ちょっと年を重ねて大人になったことが、そのよさを浮き彫りにしていると感じました。『オレンジデイズ』の時はイケメンというものに隠れてしまっていたのが、年を重ねることでよさが見えてくることもあるんだなって、あらためて思いました」と20年前の妻夫木との印象の違いを伝えると、妻夫木も「そう思っていただいて本当に光栄です」と照れたような表情を見せた。

また、渡辺は北川からオファーを受け、直接メールでやりとりをしたことを明かした。「ちょうど去年の5月くらいに、僕は丁寧に自分の今の思いと、医療ドラマに関する気持ちみたいなものを長文で書いたつもりだったんです」と一度はそのオファーを断ったそうだが、「でも、その3倍ぐらいのメールが返ってきて。さらにその後にPS(追伸)って書かれて、またダーッと長文が(笑)」と熱意あふれるメールが届き、「でも、やっぱり今の僕の精神的にはそれは…ということをもう1回返信したんです。そうしたらまたリングのコーナーに追い詰められるような内容のメールが返ってきまして…(笑)」と北川についに“ノックダウン”を奪われたと告白。それに北川氏が「最初から謙さんを想定してストーリーを書いちゃったので…」と返すと、すかさず渡辺は「それって脅迫ですよね(笑)」と苦笑いでツッコみ、会場は盛り上がった。

ドラマの中での印象的なシーンを聞かれると、杉野が「妻夫木さんと渡辺さんが、2人でバイクに乗ってるのが気持ちよさそうでいいな、って思って見ていました」と、番組のポスターにもなっている象徴的なシーンを挙げた。すると妻夫木は「いや、全然気持ちよくはないよ、ホントは(笑)。渡辺謙さんを後ろに乗せて、すっごく久しぶりに運転してんだよ?」とかなり緊張感のある撮影だったことを説明すると、渡辺も「ちっちゃいバイクでさ、20分くらいずっと乗ってると足がつりそうになってね(笑)」とまたまた苦笑。「でも楽しかったよ、後ろは」とうれしそうに撮影でのエピソードを振り返った。

そして、最後に妻夫木は「このドラマに参加させてもらって、自分と向き合い、作品と向き合い、命と向き合って、本当にいろんなものを得ることができたと思っています。“死”というのは何かを失うイメージが僕自身にあったんですけど、もしかして残される側にとっては、生かされていく力になる部分もあるんじゃないかなと、そういう勇気を与えてくれるドラマになってると思います。僕たちがなんとなく過ごす中で気付けなくなっている小さな幸せが、本当はいっぱい転がっているはずなんです。見てくださる方にそういう幸せのかけらみたいなものが届くといいなと、僕は願っています」とメッセージを送った。

渡辺も「“生と死”を扱っている深い話ではあるんですけど、ある種“風”のようなドラマだと思うんですよ。ちょっと強風が吹いたりとか、雷雨になったりとか、いろいろな“風”はあるんですけど、おそらく最後は本当に心地いいそよ風だろうと、そういうふうに感じてもらえるドラマになったんじゃないかなと思います。北川悦吏子の“風”を感じてもらえれば」と真っすぐな言葉で締めくくった。

「生きとし生けるもの」は、TVerで5月13日午後9:53分まで無料配信中。Netflixでは、放送でカットされたシーンも見ることができるディレクターズカット版の配信がスタートしている。

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