嫉妬で白目に…少女漫画界きっての「こじらせ男」 『ガラスの仮面』速水真澄の“もやもやシーン”

花とゆめCOMICS『ガラスの仮面』第47巻(白泉社)

2024年5月に創刊50周年を迎える少女まんが雑誌『花とゆめ』(白泉社)。多くの有名作品を生み出してきた雑誌だが、なかでも代表的な作品といえば、1975年から掲載されている美内すずえ氏の『ガラスの仮面』だろう。

本作の魅力をあげたらきりがないが、人気キャラクターの1人といえば、やはり速水真澄である。彼は大手芸能事務所・大都芸能のイケメン社長であり、主人公・北島マヤに想いを寄せる男性だ。しかし長期連載において真澄の行動はとても歯がゆく、「いい大人なんだから早く気持ちを伝えてしまえばいいのに!」と思ってしまうシーンも多い。

ここではそんな少女漫画界きってのこじらせ男(!?)『ガラスの仮面』の速水真澄における戸惑いシーンを振り返りたい。

■自分の気持ちに素直になれない「おれともあろう者が…11歳も年下の少女だぞ!」

『ガラスの仮面』は、マヤと真澄がくっつきそうでくっつかない展開から目が離せない。物語後半になってやっとお互いの気持ちが分かってはきたものの、序盤はとにかくもどかしい展開が続く。その原因として真澄本人が自分の気持ちに蓋をし、何かとこじらせていることが挙げられるだろう。

真澄はマヤと出会った当初は“おチビちゃん”と呼び、経営者として演技のうまいマヤのことを魅力のある“商品”という認識で見ていた。しかしマヤの演劇にかける情熱を見続けるうちに、いつしか商品から1人の女性として捉え、恋愛対象となっていく。

自身の気持ちに気づいた真澄だが、「どうかしてるぞ速水真澄 相手は10いくつも年下の少女だぞ おれともあろう者が…!」と、しょっちゅううろたえてしまう。

プライドの高い自分が11歳も年下の少女に心奪われるなんて信じられない、といったところか。しかし好きになってしまったものは、仕方がないのだ。

それを認めてしまえばいいのに、真澄はそれでも自分の気持ちを閉じ込め続け、マヤへの想いが湧きあがるたびに「いや11歳も年下の少女だぞ…!」と、自戒する。あげくの果てにその気持ちを指摘された秘書の水城に対して、「11も年下の少女だぞ!」と逆切れし、ビンタを食らわすのであった。

これは「お前、あの子のこと好きなんだろう〜」とちゃかされた子どもが、図星の恥ずかしさから「変なこと言うと怒るぞ!」と、逆切れするのと一緒だろう。

最初からちゃんと自分の気持ちを認めていれば、婚約者が現れる前にマヤとくっついていたかもしれないのになあ……と、もどかしく思ってしまうのは筆者だけではないだろう。

■想いを伝えるのはこの方法だけ!? 好きな気持ちを紫のバラに

真澄の有名な行動といえば、マヤにひっそりと紫のバラを送ることだろう。最初のきっかけは、マヤが高熱のなか『若草物語』のベスを演じきったときのこと。その演技を見た真澄は衝撃を受け、胸を締め付けられた結果「紫のバラを送る」という行動を起こすのであった。

花屋で見つけた紫のバラをありったけ買い、マヤの楽屋にひっそり置く真澄。その際も「なんてことだ このおれが花束だと? いままでどんな女性にも花など送ったことのないこのおれが…!」と、自問自答している。

その後も、マヤの舞台があるたびに匿名で紫のバラを送り、「あなたのファンより」というメッセージを添え、ひっそり消える真澄。

ある時はマヤの楽屋に忍び込み、マヤの台本の上にひっそりと1輪のバラを置いたうえで「あなたをみています あなたのファンより」というメッセージを残している。今の時代なら少々ストーカーぽくも見えてしまうが……、ただ、そのたびにマヤが「紫のバラの人!」と大喜びしているので、まあ良しとしよう。

ちなみに紫のバラは実際いくらなのか調べたところ、現実社会では1輪で800円ほど。花束になると1万円ほどするので、しょっちゅう送る真澄はやっぱり金持ちだ。しかしやっていること自体は、好きな人の靴箱にひっそりチョコを入れる女子学生のようで、やっぱりこじらせているなあと思ってしまう。

■嫉妬のあまり白目に…マヤに近づく男に焦る真澄

自分の気持ちに蓋をし、決して自分から告白などしない真澄だが、その気持ちとは裏腹に嫉妬でおかしくなってしまう場面もある。

マヤはなんだかんだでモテるため、真澄以外の男性とくっつくシーンも多い。まずは大河ドラマでマヤと知り合い、徐々に恋仲になる里美茂だ。真澄の秘書水城が「今あの子は恋をしています」と真澄に知らせると、真澄はショックのあまり白目になっている。

そして嫉妬のせいで最も真澄を顔面蒼白にさせたのが、真澄にとっての永遠の恋のライバル・桜小路優である。

『紅天女』で一真役を演じることになった優は、マヤと共演しその距離を縮めていく。あるとき優は、泣き出すマヤの手を握り引き寄せる。それを見た真澄はまたもや白目になり嫉妬する。

さらにその後自分のジャンパーをマヤに着せてイチャイチャする優を見て、真澄はズキーンと衝撃を受け、白目かつ直立不動になってしまうのだ。

好きな人が自分以外の異性とくっついて目の前でイチャついたら、それはショックだろう。でも真澄は社会的地位の高い30代のいい大人なんだから、マヤと優がくっつく前に、なんとかできた気もする。というよりなにより、その前に「早く自分の気持ちをストレートに伝えればいいのに!」と、何度も思ってしまうのだ。

このように、さんざんマヤとの恋愛をこじらせている真澄だが、ストーリー後半にはやっとお互いの気持ちが通じるような展開になっている(それまで要した時間は約40年……)。

しかし真澄の婚約者の存在や、マヤが目指す紅天女へのハードルなどが立ちふさがり、今後もなかなかスムーズにくっつくことはなさそうだ。

創刊50周年を迎えた少女まんが雑誌『花とゆめ』、これをきっかけにぜひ『ガラスの仮面』の続きに期待したいところである。

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