赤い肉(牛肉・豚肉)や加工肉(ソーセージ・ハム)を食べると「がん」になる?タバコ・アルコールとの共通点に思わず「ヒヤリ」【内科専門医が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

魚介類や鶏肉、豆類などは「健康なタンパク質」と言われる一方で、牛肉や豚肉、あるいはソーセージやハムなどは、健康にあまり良くないタンパク質と分類されがちです。しかし、本当にそれは正しいのでしょうか? 本記事では米国老年医学の専門医である山田悠史氏による著書『健康の大疑問』(マガジンハウス)から一部抜粋して、肉と健康の関係について解説します。

肉は体に良いのか?

どんな食品についてもいえることですが、「特定の食品が体に良いか?」を示すのは簡単なことではなく、「肉が体に良いか?」を証明することも、実は比較的難しいことです。

また、一概に「体に良い」といっても、「体のどこに良いのか?」という点も考えなくてはいけません。筋肉には良いけど、肝臓には悪い。脳には良いけど、腎臓には悪い。そんなこともありえてしまうからです。

一般に、健康なタンパク源とは、魚介類、鶏肉(白い肉)、豆類、ナッツ、種などといわれます。一方で、牛肉や豚肉などの「赤い肉」やソーセージやハムといった「加工肉」は、どちらかといえば健康にはあまり良くないタンパク源と分類されることが多いと思います。

その所以はどこからくるのでしょうか。

赤い肉・加工肉はほんとうに健康に悪い?

実は、赤い肉の研究や加工肉の研究というのは、すでに数多く行われています。

例えば、2011年に報告されたメタ分析を用いた研究があります。メタ分析は、これまでに報告された複数の研究のデータを統合して解析するという研究手法になりますが、これを用いることにより、より多くのデータから厚みのある評価を行うことができるようになります。

この研究では、20を超える研究の結果が統合され、データを見てみると、赤い肉でも、加工肉でも、その摂取が大腸がんの発症と関連していたということが分かりました。

[グラフ]大腸がんの発症リスク

このグラフを見てみると、肉の摂取量と大腸がんのリスクが見事に相関していることが見てとれます。また、1日あたり140gというところまでは、食べる量の増加と、がんのリスク増加が正の相関をしていることが分かります。

また、そのリスクの増加幅というのは、100gの増加で約1.2倍といったところでした。これは、赤い肉、加工肉単独でもそれぞれ評価されていますが、同様の相関が見られたことが分かっています。

このようなデータを根拠に、赤い肉、加工肉は、ともにタバコやアルコールと並んで、米国がん学会により「グループ1の発がん物質(確実なもの)」としてリストアップされています。

「〇〇という製品から発がん物質が検出された」などというニュースを時々見かけますが、実は飲み会でアルコールを飲み、牛肉や豚肉の料理を食べていれば、もうダブルで発がん物質を摂取していることになるのです。

ただ、もう一度おさらいですが、あくまでこれらは「相関」なので、間に何か挟まっている可能性なども頭に入れておかなくてはいけません。例を挙げてみれば、赤い肉を多く食べる人は、魚をとらない傾向にあり、実は魚をとらない傾向こそが発がんリスクに影響していたというような関係が成り立つ可能性があるということです。

しかしいずれにせよ、自分の食生活を振り返って赤い肉や加工肉を多く摂る生活を送っているのであれば、大腸がんのリスクが高い生活を送っているといえるかもしれません。

また、赤い肉や加工肉の摂取には、脳卒中や心筋梗塞、死亡リスクの増加との関連性も指摘されています。がんとの関連にとどまらず、実は数多くの疾患との関連が指摘されているのです。これは、特に摂取が急速に増加している日本でこそ見逃せないリスクともいえます。

さらに、赤い肉については、昨今の温暖化との関連も見逃すことができません。

牛は、農業界で気候変動に寄与する温室効果ガスの1番の産生源であることが知られています。牛のげっぷに含まれるメタンの量は、1頭あたり年間100㎏にも上るといわれており、さらにメタンは二酸化炭素の28倍もの力で温暖化に寄与するとも考えられています。

牛の直接的な影響だけではなく、牛を育てるための牧場や餌の確保などで、人間の食物を育てる機会が失われ、先進国の肉の消費のために、発展途上国の食品確保の機会を奪い続けていると考える専門家もいます。

このような背景から、欧米諸国では必ずしも個人の健康のためというわけではなくても、ベジタリアンやビーガンなどの嗜好を持つ人が特に若者を中心に増える傾向にあります。

また、産業界でも、Beyond Meatのように、代替肉(フェイク・ミート)を開発する企業も増えてきました。私が住むニューヨークでも、チェーン店のドーナッツ屋やハンバーガーショップなどでは、必ずといっていいほどフェイク・ミートのオプションがあります。

牛乳にも、Oatlyのようなオートミルクやアーモンドミルクへの置き換えが進んでおり、これらもコーヒーショップなどで見かけることが多くなりました。もはやOatlyを置いていないスーパーを見つける方が難しいというぐらい、ニューヨーク市内ではOatlyも急速に浸透しています。

私自身何度か試してみたことがありますが、フェイク・ミートもオートミルクも味が良く、料理の一部として食べている分には牛肉や牛乳などとほとんど区別がつきません。

これらの食品はこれからさらに浸透し、食品の主流になっていくかもしれません。少なくとも私の住むニューヨークでは、すでにそれぐらい日常生活に溶け込んできています。

赤い肉や加工肉を食べる習慣がある人は、週に1食でも白い肉や代替肉に変えてみる。その一歩が、病気のリスクをわずかかもしれませんが減らし、ひいては地球の健康を守ることにもつながる。そんな風に考えることができそうです。

肉の中でも、いわゆる「赤い肉」や加工肉には、発がん性や心臓・血管の病気のリスクとの関連が知られています。肉は多くの人にとってタンパク質の重要な摂取源の一つですが、「白い肉」や代替肉がより健康な置き換えになるのかもしれません。

山田 悠史

米国老年医学・内科専門医

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