日本と同様、物価上昇も給与は上がらず…「フィリピン・マルコス大統領」の一手

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一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今週は、日本と同じく、賃金の上昇が物価上昇に追い付かず、実質賃金が低迷しているフィリピンの対応を中心に解説していきます。

「地域最低賃金」の見直しで「給与水準引き上げ」を狙う

フィリピンのマルコス大統領は、インフレによる生活費の上昇にもかかわらず、給与の水準が停滞しているフィリピンの労働者に対処するため、地域最低賃金の見直しを地域賃金委員会に指示しました。地域賃金委員会は、インフレなどの経済的課題を考慮して、最低賃金の見直しを行う機関です。

マルコス大統領は、労働者、雇用主、政府の三者からなる委員会に対し、給与の定期的かつ適切な見直しを行うよう要請しました。フィリピンでは、最低賃金はそれぞれの地域の賃金委員会によって、日々調整されています。一方で、昨今の高インフレ・生活費の上昇に対して、給与の伸びが追いつかない状況下で、立法を通じた賃金引き上げの動きを促しています。

国会では、民間企業の最低賃金を1日100ペソ引き上げる法案を可決しています。また、別の法案では、企業の最低賃金を1日150から750ペソ引き上げることを提案しています。

フィリピン経済は、インフレの影響を大きく受けており、労働者の実質賃金は減少傾向にあり、賃金委員会の決定は適切なものであるとする見方が多く、ビジネス団体や経済専門家からも賛成の声が上がっています。一方で、最低賃金の引き上げには、フィリピン経済の大きな部分を占める中小企業にとっては懸念材料でもあり、労働者と雇用主の双方に公平な配分を探る動きになっています。

米国利下げの遅れの余波…比・外国ポートフォリオ投資減少

3月、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げの遅れを予想した投資家たちによって、フィリピンからの外国ポートフォリオ投資が減少しました。

*投資受入国に工場や現地法人を設立し、長期的に事業を行うものを「直接投資」と呼ぶのに対し、証券市場から大量に株式を買い付け、短期間で売り抜く投機的投資を「ポートフォリオ投資」と呼ぶ

フィリピン中央銀行(BSP)のデータによると、海外からの投資マネーは、3月に2億3,602万ドルの純流出となりました。これは、前年同月の7026万ドルの流出よりも大幅に大きく、また、前月の6892.7万ドルの純流入からの反転となりました。

外国ポートフォリオ投資は、その出入りが容易であるために「ホットマネー」と呼ばれており、企業の設備投資などの長期投資である外国直接投資(FDI:Foreign Direct Investment)とは、まったく違う動きをします。一方で、ホットマネーは、フィリピンの株式市場や債券市場に流動性を提供する役割を持ち、フィリピンのマーケットの成長および安定に欠かせない重要な存在です。

3月の総流出額はほぼ倍増し、16億ドルから8億5,907万ドルに増加しました。一方、総流入額は前月比9.1%減の14億ドルで、前年同月比12.1%増でした。海外からのホットマネーのフィリピン株式市場への投資は全体の56.7%で、銀行、持株会社(財閥)、不動産、運輸サービス、食品・飲料などの大企業への投資が中心です。残りの43.3%は国債やその他の金融商品への投資に充てられています。

3月の投資は、主に英国、シンガポール、米国、スイス、ルクセンブルクからのもので、総流入の83.6%を占めました。第1四半期通算では、ホットマネーが3億7742万ドルの純流入を記録し、前年同期の3億2820万ドルの純流出から転換しました。一方で、FRBの利下げの遅れを見込んだ投資家によって、多くの短期外国資本が3月には、フィリピンを離れたと指摘。BSPは、外国ポートフォリオ投資が年末までに13億ドルの純流入となると予想しています。

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