DeNA主力→戦力外に「もう辞めよう」 31歳で岐路も…新球団での再挑戦「まだできる」

くふうハヤテ・倉本寿彦【写真:間淳】

倉本寿彦は2022年オフに戦力外通告、日本新薬を経て今季からくふうハヤテでプレー

まだできる――。戦力外通告を受けて現役引退に傾いた気持ちを再び奮い立たせたのは、家族や身近な人からの言葉だった。2年前までDeNAでプレーし、今季からくふうハヤテベンチャーズ静岡に所属する倉本寿彦内野手は新天地で好スタートを切った。周囲から「まだできる」と言われた当時は自分の力に半信半疑だったが、今は確かな手応えをつかんでいる。

今季からウエスタン・リーグに参加したくふうハヤテは苦戦が続いている。その中で、最も存在感を見せている野手は倉本で異論はないだろう。チームの主軸に座り、打率.338(5月7日現在)をマークしている。

2022年オフ、倉本はDeNAに来季の構想から外れていると伝えられた。レギュラーに定着していた頃と比べれば出場機会は少なくなったものの、まだ31歳。予想外の出来事だった。

「覚悟はしていませんでした。野球を辞めるのか、続けるのかすごく悩みました。正直、もう辞めようかなという気持ちが強かったです」

心の準備ができていなかったこともあり、すぐに気持ちを切り替えて次の所属先を探す行動に移すのは難しかった。ユニホームを脱いで、第2の人生に何をするのかも考えた。だが、家族や今までお世話になった身近な人たちから「まだできる」と強く背中を押されたという。

「決断までに時間はかかりました。1人だったら野球を辞めていたと思います。『まだできる』と言われたことには半信半疑でしたが、その言葉を信じて一歩前に進んでみようと決めました」

倉本は再びNPB12球団の舞台を目指し、野球を続ける道を選んだ。昨季は古巣の日本新薬、今季からくふうハヤテに所属する。ウエスタン・リーグでプレーしながら、1軍のある12球団から声がかかるのを待つ日々を送っている。

スタッフ不足も長時間のバス移動も「不自由なし」…精神面の成長実感

新規球団のくふうハヤテの環境は、かつて在籍したDeNAと比べれば恵まれているとは言えない。球団が所有するトレーニング施設はない。裏方スタッフが少ないため、選手も練習の準備やグラウンド整備をする。春季キャンプでは野手がローテーションで打撃投手をした。プロとして実績のある倉本も例外はない。試合の移動はチームバス。体の負担は小さくない。それでも、倉本は全てを受け入れ、前向きに捉えている。

「環境にこだわりはありません。DeNAの時とは移動の負担に違いはありますが、それを理解した上で入団しています。野球をやると決めた以上、グラウンドで練習して、試合ができていれば不自由を感じません。上を目指す若い選手が多くて刺激がありますし、一喜一憂しない精神的な成長を自分自身に感じています」

選手であれば結果がほしい。ただ、いつも上手くいくわけではない。他球団へのアピールが必要な立場としては、試合で安打が出るかどうかで気持ちは左右されがちだが、倉本に焦りはない。

「毎試合、安打を打ちたい、良いプレーをしたいと思っています。ただ、結果が出なかった試合でもプラスの面を見たり、相手投手の球が良かったと考えたりできています。一歩ずつ前に進めていると感じています」

メンタルの安定はパフォーマンスの安定につながっている。今シーズンは、ここまで打率.338。結果を残す上で最大のハードルとなるのがバス移動。疲労を蓄積させない工夫も取り入れている。

長時間同じ姿勢が続くバス移動で筋肉が硬くならないようにストレッチの時間を増やし、移動中は電気が流れる器具を腰に付けている。疲れがたまっていると感じた時は、湯船に塩を入れてゆっくりと浸かる。電気の器具は藤岡好明投手、塩風呂は田中健二朗投手と、ともにDeNA時代でも一緒にプレーしたチームメートから勧められた。

「塩風呂は自分でもやっていましたが、健二朗さんからは1回の入浴で1キロの袋を全部入れるくらい塩を使っていると聞きました。『だまされたと思って試してみろ』と言われてやってみたら、翌日は本当に体が軽くなりました」

一度は引退を考え、自分の力を信じられないまま現役を続けた。だが、今は再びスポットライトを浴びる舞台を視界に捉えている。「日本新薬で昨年プレーして『まだできる』と実感し、今季は自信が深まりました。最後にチャンスがあるところで勝負しようと考えて、この球団を選びました。回り道をしているかもしませんが、戦力外を受けた後に一歩踏み出せて良かったと思っています」。現役続行へ背中を押してもらった家族や身近な人たち、そしてNPB12球団復帰を待つファンのために、33歳はくふうハヤテで結果を残して朗報を待つ。(間淳 / Jun Aida)

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