役者としての転機は「世界の蜷川」、吉田鋼太郎が「10時間舞台」出演で得た“喜び”

吉田鋼太郎 撮影/イシワタフミアキ

18歳から舞台に立ち、その後『花子とアン』『おっさんずラブ』などのドラマや映像作品でも存在感を示す俳優・吉田鋼太郎。近年では演出家としても活躍する彼の、人生における「THE CHANGE」とはーー。【第1回/全2回】

高2のときに、英語の先生から芝居のチケットをもらったんです。それがシェイクスピアの『十二夜』。

当時、芝居には全然興味がなかったけれど、「先生に薦められたから、ちょっと観てみようか」ぐらいの気持ちで行きました。

行く前には、福田恆存さんが訳された原作を買って読みましたが、セリフは装飾過多で、全然頭に入ってこなかったんです。「これを観に行くのか……」って、暗澹たる気持ちで、東京・千石にあった三百人劇場に観に行ったんです。

そうしたら、ビックリするくらい面白くて。それで「役者になろう!」……と決心こそしなかったものの(笑)、頭の中のどこかに「なってもいいかな」って思いはあって、それが人生の転機のひとつでしたね。

役者としての転機は、やっぱり演出家の蜷川幸雄さんとの出会いでしょうか。41歳のときに蜷川さんが演出を務められた『グリークス』という、上演時間が10時間に及ぶ芝居に出させてもらったんです。この舞台に立てたということは、「天下の蜷川」さんから、舞台俳優としてのお墨付きをもらえたのではないかと思うと嬉しく、その後は、テレビからも少しずつお声が掛かるようになりました。

NHKの朝ドラ『花子とアン』(2014年)に出させてもらったときは、一気に知名度が上がりましたね。

また、おっさん同士の恋愛を描いた『おっさんずラブ』(テレビ朝日系・2016年~)に出てからは、道を歩いていても「鋼太郎さん!」とか「カッコいい」とか声をかけてもらうことが多くなりました。

コミカルで抜けたところも大事になってくる

「モテるようになったんじゃないか?」って? 確かに自分でも「たくさんの人に知ってもらえるようになって、声もかけてもらえるようになったんだなぁ」と嬉しく思うときもあります。

今、放映中のドラマ『おいハンサム!!2』(フジテレビ系)で僕が演じる伊藤源太郎って男は、一家の大黒柱でいかにも“昭和のオヤジ”ってキャラです。

彼は僕にとってはヒーローみたいな人で、権力とか巨悪とか間違ったことに対しては敢然と立ち向かう。だけども、周りにいるちょっと立場の弱い人とか悩んでいる人、苦しんでいる人にはとても優しく寄り添っていける人なんです。

でも、ヒーロー的な要素だけだと、ただのカッコいい人になっちゃうんで、腹巻をズリ上げたり乳首まで出したり……という、コミカルで抜けたところも大事になってくるんです。そういったところも含めて源太郎は、普段の僕に近いのかなって思うんですよ(笑)。

お陰さまでドラマは好評のようで、今はシーズン2が放送されていますし、6月からは映画版も公開されます。

俳優としては主役をやる、いわゆる座長を務めるときは、その役をちゃんと理解する。きっちりと自分が思ったことができたときは周りの空気が変わってくるんですよ。

すると、「次、鋼太郎さん、何するんだろう」って、周りが僕のことを注目するようになって、それが積み重なっていくと「この人だったら面白そうだな」って思うようになってくるんだと思うんですよ。それが、みんながついてきてくれているなって思う瞬間でもあり、それは絶対的なことでもあるんです。

吉田鋼太郎(よしだ・こうたろう)
1959年1月14日、東京都出身。B型。身長174センチ。シェイクスピア・シアター、東京壱組を経て、1997年に演出家・栗田芳宏とともに劇団AUNを結成。その一方で、『半沢直樹』『花子とアン』などのドラマで映像作品にも関わるようになる。1999年に「第6回読売演劇大賞優秀男優賞」、2001年には「第36回紀伊國屋演芸賞個人賞」、2014年には「第64回芸術選奨 演劇部門文科科学大臣賞」をそれぞれ受賞。吉田が演出、上演台本、出演と一人三役をこなす「彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd vol. 1 『ハムレット』」は5月7日(火)~26日(日)まで「彩の国さいたま芸術劇場」にて上演。

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