ロピアはカトパンの夫が社長就任後に急成長 イトーヨーカ堂の7店舗を手に入れる(有森隆)

ロピアの店舗(C)日刊ゲンダイ

【企業深層研究】ロピア(上)

セブン&アイ・ホールディングス(HD)傘下の総合スーパー、イトーヨーカ堂は北海道と東北・信越の17店舗を閉鎖すると明らかにした。ヨーカ堂を2026年2月末までに首都圏など都市部中心の営業網に移行する方針を示した。

閉鎖する17店のうち7店は食品スーパー、ロピアを運営するOICグループ(神奈川県川崎市、高木勇輔代表取締役、非上場)が引き受ける。OICが事業譲渡を受けるのは北海道と青森の各2店、岩手、新潟、長野がそれぞれ1店だ。

総合スーパーの黄金時代を築いたヨーカ堂が、今売り出し中の、新興、ディスカウントスーパー、ロピアに店舗を譲渡する。新旧交代、小売業界の栄枯盛衰を示す象徴的な出来事と流通業界で評判になった。

「ロピアとは何者なのか」。経済記事より芸能ネタが先行したから、関係者は余計、その思いを深くした。

「カトパンは“令和の激安王”年商2000億円2代目社長に嫁いだ」

スポーツ新聞、女性週刊誌などに大見出しが躍った。

「カトパン」の愛称で呼ばれるのは、元フジテレビの人気女子アナの加藤綾子さん(当時36)。

「カトパン」を射止めたのは高木勇輔氏。1982年生まれだから、当時39歳。慶応義塾大学経済学部を卒業後、三菱食品での武者修行を経て、父親が藤沢市で創業した食肉専門店「ユータカラヤ」に2006年に入社した。

ユータカラヤは11年、ロピアに社名を変更した。13年、勇輔氏は2代目社長に就いた。

売上高は常に15%以上のアップ。高い急成長を続けていた。彼が社長就任当時の13年2月期の売上高(501億円)が、「カトパン」と結婚した21年2月期には、4倍の2068億円になった。

過去に「ブラック企業大賞候補」の報道

その後も勢いは止まらず、ホームページによると、24年2月期のグループ売上高は4126億円。結婚後、僅か3年でまたまた倍増したことになる。

「売上高1兆円」という中期目標を持ち出した時も人気女子アナを伴侶にした過去がほじくり返された。

「カトパン夫のスーパー、過去に『ブラック企業大賞候補』に」。「週刊新潮」(21年7月1日号)が報じた。日銭商売をやっていれば、いいことばかりではない。

〈18年、ロピアの食肉部門に勤務する男性が3000円相当の精肉製品をレジで精算することなく持ち帰ったとして、同社は警察に通報、懲戒処分とした。この人は会計せずに持ち帰ったのは単なる過失だと主張。解雇の撤回などを求め、横浜地裁に提訴した〉

19年10月、横浜地裁は男性の訴えを認め、解雇の無効と「窃盗により懲戒解雇と、その事実を公開したことに対する名誉毀損の慰謝料など77万円の支払い」を命じた。

この事件で、ロピアは「ブラック企業大賞」にノミネートされた。

ロピアがこれほどまでに急拡大できたのは、EDLP戦略が成功したからだ。EDLPは「エブリデーロープライス」(毎日安売り)の略。特売をせず、年間を通して同じ価格で特売することを指す。折り込みチラシが不要となり、販促費や広告に関わる人件費も削減できる。

社名のロピアは「ロープライスユートピア」に由来する、という。

物価の上昇が続く中、ロピアは、その後も急成長している。店頭には1キロを超える大容量の肉、具がはみ出した巻きずしなど、個性的な商品の数々が並ぶ。各売り場のチーフが「個人商店主」として大きな権限を持って仕入れたり、販売する商品の戦略を立てることができるユニークな経営を実践する。

だが、セブン&アイHDから譲り受けた7店舗をどうやって再生させるかは胸つき八丁の難しい事業である。=つづく

(有森隆/経済ジャーナリスト)

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