【インタビュー】筋肉少女帯、デビュー35周年記念盤「医者にオカルトを止められた男」に浮かび上がった「35年も続いている理由」

“医者にオカルトを止められた男”がいることを君は知っているか? 筋肉少女帯の大槻ケンヂである。30年近く前、メンタルの調子が良くなかった大槻にとって、オカルトへの興味だけが心の支えになっていた。が、「体調を回復させるため、オカルトをやめましょう」とまさかのドクターストップ。時を経て、体調回復したことでオカルト解禁という、めでたいストーリーへと至ったわけだが、以来、大槻のUFOやオカルト事象への興味や妄想はとどまるところを知らない。雑誌『ムー』でコラム「医者にオカルトを止められた男」を連載しているほどだ。

5月8日、筋肉少女帯メジャーデビュー35周年のフィナーレを飾る新曲「医者にオカルトを止められた男」がリリースされた。大槻の描くコミカルなオカルトストーリーと、あっけらかんとしたファンキーな筋少サウンドが、お祭りムードをさらに盛り立てる仕上がり。カップリングには、30年前にリリースした『レティクル座妄想』から「さらば桃子」と「ノゾミ・カナエ・タマエ」の新録セルフカバーも収録。メジャーデビュー35周年&『レティクル座妄想』リリース30周年記念盤シングルとなっている。

そこで、最新シングル「医者にオカルトを止められた男」とアルバム『レティクル座妄想』リリース当時について、筋肉少女帯のメンバー全員にインタビューを実施した。忘れられた記憶をほじっていくように話す中で明かされたのは、様々な筋少オカルトや変わることのない筋少らしさ。徐々に暴走する大槻の話しっぷりも楽しんでもらいたい。

▲「医者にオカルトを止められた男」
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■連続ドラマ「医者にオカルトを止められた男」の■第一回目タイトルが“サイキックアイドル握手会”

──ニューシングルのタイトルが「医者にオカルトを止められた男」ですよ。そのタイトルを知った直後、30数年前の大槻さんの病状のことが蘇ってきたんです。

大槻:今、『ムー』というオカルト雑誌の本誌とWEBの両方で僕、コラム連載をしていまして。そのコラムのタイトルも「医者にオカルトを止められた男」なんです。これこそ、一人コラボレーションという。

──でも昔、心療内科のお医者さんに「オカルトをやめたほうがいい」と診断されていましたが?

大槻:そうです、はい。それは『レティクル座妄想』(1994年発表)より後のことです。

──『レティクル座妄想』を作っていた時期は、UFOやUMAなどオカルトものに思いっきりハマり込んでたんですか?

大槻:うん。いや…、でも30数年も経つと、あの頃はなにをやっていたのか、もう分かんなくて(笑)。でも、おそらくそうだったかもしれない。なんかプロレスもすごくいっぱい見てた頃だったかな。あの頃は、UWFだったかな、リングスだったかな〜。

内田:ああ、アルティメット系だね。

大槻:いや、UFCはその後でしょ?

内田:1994年?

大槻:まあ、いいや(笑)。

本城:本当に記憶が曖昧だな〜(笑)。

大槻:本当に。1994年といったら、すごく昔のことに感じるよ。それで『レティクル座妄想』をこの前、聴き直したんだけど、すごく完成度が高いね。驚きました(笑)。

橘高:うん、いいアルバムだね。

▲大槻ケンヂ (Vo)
──『レティクル座妄想』の話も出ましたが、今回の新曲「医者にオカルトを止められた男」は、改めて30数年前の思い出話とか、当時のアルバムコンセプトなどもメンバー間で話しながら、ソングライティングしたんですか?

大槻:いや、そういうのは全然なかったですよね。

橘高:今回のリリースに関して言うと、去年、バンドのメジャーデビュー35周年を迎えたわけなんだけど、今年6月20日までに35周年記念曲を発表しましょうと。そして、どうせだったらおめでたいことはいっぱい重なったほうが楽しいから、今年は『レティクル座妄想』リリース30周年になるよ、と。だったら両方合わせて盛大にやろうじゃないかと(笑)。“デビュー35周年のフィナーレ&『レティクル座妄想』30周年記念”というのが、まず最初に決まったことで。だから、“35周年記念曲として新曲を書きましょう“、“『レティクル座妄想』からセルフカバーもしましょう“と。それで蓋を開けてみたら、35周年記念曲が、『レティクル座妄想』の頃とやっぱり同じバンドだな、みたいな(笑)。偶然だけど、『レティクル座妄想』的なものもリンクした新曲になって、いいパッケージになったなって。完成形を見て思った次第です。

──新曲「医者にオカルトを止められた男」の作曲を手掛けたのは本城さんですが、“デビュー35周年のフィナーレを飾るような曲を作ってみよう”というマインドで作曲に入っていったんですか?

本城:そもそも「医者にオカルトを止められた男」ってタイトルが先にあって、それで曲を書いてみようかなってところからスタートしたんですよ。コロナ禍によって、お客さんが声を出せない状態のライブがずっと続いていたんで、そろそろ、お客さんと一緒に声を出し合える曲を作りたいなって思ったんです。去年暮れの恵比寿リキッドルームのライブが終わった直後ぐらいから、いろいろ書き始めて。いくつか作ったんですけど、結果的に今回はこの曲をやろうかなってことになったんですよね。

内田:僕も「医者にオカルトを止められた男」というタイトルを大槻からもらって、曲を作っていたんですよ。だけどオイちゃん(本城)のデモを聴いたら、“あっ、これでいいじゃん”と思っちゃいました。それぐらいオカルトな曲ですね!

本城:あはは、やめてくれー(笑)。でも作曲してたときは、寝ても覚めても、「医者にオカルトを止められた男」って言葉が頭の中をグルグル回ってた状態だったからね。そりゃ、オカルトな曲になる…んなこたぁ〜、ないって(笑)。

──というか、“リフ先行”とか“メロディ先行”とか“リズムから”とかって、曲作りのときによくあるパターンだと思うんです。ところが筋肉少女帯の場合は、タイトルが決まっていて、そこから曲のアイデアを膨らませることも多いんですか?

本城:前回の「50を過ぎたらバンドはアイドル」という曲もそうだったんだけど、僕的には言葉を与えられると、どっちかと言えばラク。その言葉に合わせてずっと鼻歌を歌っている感じで。今回、サビの“♪医者にオカルトを止められた〜”ってのは、鼻歌でできているって感じでした。

内田:素晴らしい!

本城:鼻歌に肉付けしていく感じだから、タイトルとか言葉が最初にあると助かります。

──タイトルの「医者にオカルトを止められた男」は、一人コラボレーションということで、雑誌『ムー』のコラムタイトルをそのまま引っ張ってきた形ですか?

大槻:そうです。もっと言ってしまうと、『ムー』の連載コラムをいつか書籍化したいなと思っていて。じゃあ筋少の楽曲としても同じ曲名で出して、一人タイアップ的なことを考えていたんですよ(笑)。

──それが起点だったんですね。でもタイトルだけメンバーに投げれば、いろんな曲が出てくるだろうと?

大槻:どんな曲が出てくるのかって期待感もありました。オイちゃんのデモを聴いたとき、最初は“どういう曲なんだ”と。大概、聴いたときに僕は分からないんですけどね(笑)。でも1フレーズがずっと続くので、わりと言葉で埋め尽くして、歌詞を聴かせる方向の曲にしたらいいんじゃないかな、と自分なりに考えて。それで歌詞をちょっと物語調にしたわけなんですよ。最初に出てくる“♪サイキックアイドル握手会”という歌詞が耳につくと思うんです。でもこれは、長い長い物語の最初の第一回目だ、と僕は思っていて。「医者にオカルトを止められた男」という連続ドラマ、あるいはシリーズムービーの第一回目、もしくは第一作目。そのサブタイトルが“サイキックアイドル握手会”なんだろうなと思って書きました。

──「医者にオカルトを止められた男 〜サイキックアイドル握手会〜」みたいな感じですか。それに続くシリーズ二作目の構想も、すでに大槻さんの中には広がっているんですか?

大槻:はい。今、『ぴあ』というサイトで、『今のことしか書かないで』という隔週連載もしていて、今後、それとも歌詞世界が絡んでいく予定がちょっとありまして。一人でいろんなところに絡めて世界観を広げるというのを、楽しんでいます。

本城:そこも楽しんでいるんだ(笑)?

大槻:そうそう。だからいつかアイドルさんの歌詞を書く機会があったら、そこにこっそり、この話を入れちゃおうかなと思ったりね。

内田:こっそりやる?

大槻:うん、こっそり。

──今後もいろんなタイトルが先行して曲が作られそうですね。橘高さんも今回は候補曲を書いていたんですか?

橘高:今回は書かなかった。長年やっていると、“今回はオイちゃんの曲がハマりそうだな”って、デモができる前から曲を聴いたような気になっていたから(笑)。「今回は俺は書かないね」と言ったぐらい。

本城:言ってた、言ってた(笑)。

橘高:その分、俺は状況を見て動こうと思っていたんで。新曲とバランスを取りながら、俺がセルフカバーの選曲を提案して。

──曲を聴く前から本城さんの曲がピッタリだと分かっていたと。なんともオカルトな事件が。

橘高:筋少オカルトとして、これは普通のことだけどね(笑)。曲を聴く前から仕上がりも見えていたから。

本城:“これぞ、筋少”という出来事ですよ。

橘高:オイちゃんがメンバーのことを考えながら、だいたいのアレンジをしてきて。それを各自が色濃く自分らしくやっていった感じ。間奏はちょっとイジらせてもらったけどね。あとオープニングも。最初は歌アタマで始まっていたけど、その前にオカルトチックなSEがあったほうがいいんじゃないかなと。で、テレビシリーズ『トワイライトゾーン』のフレーズからちょっと音階の順列を変えて、しかもリバースさせて、6本ぐらい重ねたギターオーケストレーションで一度イントロを付けてみたんだよ。でもギターの割合が高すぎるし、なんかいまいちだなと思って。これを内田くんに投げてみようと。それで内田くんが前半部分を付けて、歌の直前に出てくるフレーズは、俺がもともと作っていたリバースフレーズ。

内田:俺がイメージしたのは日テレでやっていた『木曜スペシャル』。

大槻:うん。あの“パパパ〜”という感じは『木曜スペシャル』だね。

橘高:オカルトチックなSEをイメージして、内田くんと橘高のアイデアが合わさると、ああなる。そこだけ取り上げても筋少らしいのが良かったし、35年やっていてもマジックみたいなものがいっぱい起きるなと思って。今回のレコーディングも楽しかったし、まだまだやれるなっていう。

■「医者にオカルトを止められた男」という曲で■35周年を祝うバンドなんて見たことない(笑)

──それに2007年に活動再開してから、アルバムタイトルにもありましたけど、余生は“おまけのいちにち”みたいな感覚でやってきたわけじゃないですか。でも活動を重ねるたび、本当に闘いの日々という感じで、バイタリティを増していってると思うんです。

橘高:そう言ってもらえるのは嬉しいですけどね。でも筋少は、再始動後もそうだし、30年前の『レティクル座妄想』の頃もそうだったんです。30年前に『レティクル座妄想』を制作するとき、世の中のバンドブームは衰退してきて、周りのバンド数もどんどん減ってきていた。“おお、これは…”と(苦笑)。ブームの衰退が俺たちの身近に迫ってきていたんですよ。そんな中でも我々はセールスもあったし、恵まれていたんだけど、バンドブームの頃と比べると、ちょっとセールスは落ちていた。それで所属マネージメントの経営がうまくいかなくなって、我々は離れることになって。同時にレコード会社からも、1993年の『UFOと恋人』で契約を打ち切られた。

──いろいろぶっちゃけますね(苦笑)。

橘高:MCAビクターに移籍しての第一弾アルバム『レティクル座妄想』で、周りのように我々も衰退していくのか。それとも、ここが踏ん張りどころだって、セールス的にV字回復していくのか。その瀬戸際でもあったのが30年前の1994年。結局、我々は他のバンドでは成し得ないようなカルト的で孤高なアルバムを作り上げて、売り上げも伸びたり。それで自信を得たところもあった。とにかく自分たちらしさを徹底的に追求するというのが、『レティクル座妄想』から身についたというかね。

──なるほど。

橘高:でもメンバー間にあった緊張感も含め、“このアルバムが最後かもしれない”、“ライブもこれが最後かもしれない”って気持ちで続けていた。再始動以降、変な仲違いで活動休止するのはファンに失礼だと思っているけど、やることにしがみつくようにアルバムリリースしようなんて思ったことは一度もないし。未だに毎回、これが最後になってもいいぐらいの気持ちで、アルバムもライブもやっているから。今回の新曲も筋少らしいよね。「医者にオカルトを止められた男」というタイトルの曲で、35周年を祝うバンドなんて、俺は見たことない(笑)。それゆえに35年以上も続いてきたバンドなんだなって、再確認したよ。

▲内田雄一郎 (B)
──メチャクチャ熱く語っていただきましたが、『レティクル座妄想』を作っていた30年前も、個人的には何度も取材させてもらいました。だから言っちゃいますけど、当時の筋肉少女帯にはメンバー間の団結力など全く感じられなかったんですよ(苦笑)。仲は悪くないけど、ちょっとした距離感を常に保っているような感じで。

橘高:そうなんだけど、筋少はたまに団結するときがあって。何年に一回というタイミングが、あの30年前だったよね(笑)。

内田:うん。団結して、みんなで映画を観に行ったよ。

橘高:そう。大槻くんが「映画を観に行ってくれ」と言ったの。『レティクル座妄想』の制作前にね。

──映画! 『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(1969年公開映画)ですよね?

内田:そうそうそう。

本城:よく覚えてるな〜(笑)。

大槻:なんか、ハマってたんでしょうね、その頃。なんだろうね、「映画を観に行ってくれ」っていうのは(笑)。おもしろいな〜。僕は一緒には観に行かなかったけど。

橘高:そこは筋少って感じだね(笑)。

内田:「『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』を観て」っていうのと、もうひとつあったんだよ、『レティクル座妄想』を制作するにあたっての参考資料として提示されたものが。「こういうアルバムにしたいんだ!」っていうオーケン(大槻ケンヂ)からの参考資料。

大槻:うんうん、それはなんだったんだい?

内田:それは…。

大槻:うん!

内田:どこかのおばさんが書いた…。

大槻:うんうん!?

内田:チラシで。

大槻:おおっ!

内田:“うちの近くに高圧電線があって、毒電波が送られている”と。“うちの飼い犬が電波で攻撃されて困っている”という文章でね。町内の掲示板に貼ってあったりして。

大槻:怪文書みたいなやつだよね。昔、よく配られてたよ。でも、それを参考資料に? 本当?

内田:だってディレクター経由でそのチラシを渡されたよ、確か(笑)。

大槻:1980年代からの流れで、ちょっとそういう変な系というのかな、マッドカルチャーと呼ぶのかな、そういうのが興味深く感じるとか思うとか、あったよね?

内田:うん。結局、テーマはキ●ガイってことだったんだけど(笑)。

▲アルバム『レティクル座妄想』(1994年発表)
──この機会に改めてあの映画『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』を観たんですよ。

内田:あっ、あれを再び観た(笑)?

──医大を出た男が精神病棟に入れられているシーンから話が始まるんです。灰色の壁に囲まれている…というつぶやきと共に。

大槻:あれ、それは夢野久作の『ドグラ・マグラ』みたいな…、あっ、監督の石井輝男が混ぜたかもしれないな。

──男が檻に入れられてるんですけど、その冒頭のシーンから内田さんも言ったワードやシーンがズバズバ出てくる(笑)。

大槻:でも、ズバリそういう狂人とかがテーマではなかったと思うな。

──ですね。そこからいろんな物語が恐怖も伴ないながら展開していくんです。

大槻:うん。なんか、他のバンドの名前とかを出しちゃうと良くないと思うけど、やっぱりね、ピンク・フロイド的なことをやりたかったんじゃない?

本城:ああ、ザックリ言うと(笑)?

大槻:うん。『The Dark Side of the Moon』(邦題:狂気)みたいなことをさ。筋少版の『The Dark Side of the Moon』とか『The Wall』とか、ああいうコンセプトアルバムの決定版みたいなものを作りたかったんじゃないかな。

内田:そうだったんだ〜(笑)?

大槻:いや、ビートルズで言うところの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を。

橘高:筋少のね。それをやろうと思ったら、テーマがキ●ガイになったのね(笑)?

大槻:だから、そこは違うのよ。

──映画には前衛的な舞踏とか官能的なところも出て来たり、そればっかりじゃないですからね。

大槻:それで言ったら、あの映画のラストシーンは、バカバカしさの究極にいってるでしょ。でも、なんか泣ける人は泣けると思うのね。狂気の向こうにあるセンチメンタルみたいな感じ? だからやっぱり、ピンク・フロイドじゃないのかな〜。この世代として一度はやりたい『The Dark Side of the Moon』というかね。その前の世代というと、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』なんだろうな。『レティクル座妄想』を聴き直したら、非常にいいものができてましたよ。とてもコンセプチュアルで、狂気の向こうのノスタルジックな感じとか、センチメンタルな感じとかができていて。素晴らしいアルバムだと思ったな。

橘高:筋少は、カルト的なことをちゃんとメジャーでやっているなって感じたな。

大槻:だから今でも、若い人とかネットとかで筋少を観たり聴いたりして、響いてくれるんだよね。一定層いるんだよ、筋少世界みたいなものが好きな若い人って。

■アルバムコンセプトとして狂気を歌っているけど■メンバー間がギスギスな制作現場ではなかった

──カルト的であり、とてもチャレンジしている作風ですよ。今回、セルフカバーでシングルに入れた「さらば桃子 (2024ver.)」なんて、いきなり投身するストーリーから始まりますけど。

大槻:しかも「さらば桃子」は歌詞がふたつあるんだよね。

本城:そうだね。シングルでは「1,000,000人の少女」というタイトルで。

大槻:歌詞が違うんだよ。あと『レティクル座妄想』に入っている「蜘蛛の糸」って、第二章が実はあるんだよね。「蜘蛛の糸〜第二章〜」っていうのが。

本城:あるね。それもシングルに入っている。

橘高:シングルのカップリングには、必ずそういう別バージョンとか入れてたね。

大槻:あの頃って、なんか、すごいやる気だよね(笑)。いろいろ試みていたな。『レティクル座妄想』には「パリ・恋の都」も入っていたよね?

──入ってます。恋人の亡霊と一緒にパリ旅行へ行くという歌です。

大槻:あれもバカバカしくていいなあ。やっぱり、おもしろいわと思った(笑)。でも、あの「パリ・恋の都」は、「ロックン傘地蔵」にするはずだったんだよね。傘地蔵をロックで描くというのをやりたかったんだけど、ちょっと前衛的すぎるって、ダメだなって。

橘高:あれはオイちゃんが珍しく「それだけはやめてくれ」と言ってた(笑)。

本城:言った言った(笑)。

大槻:おもしろいと思ったんだけどな。

──着想からキャッチーで。

大槻:うん。今だったら水曜日のカンパネラの「一休さん」のような名作路線だったよね。考えるのが早すぎたな、「ロックン傘地蔵」って(笑)。

▲橘高文彦 (G)
──話を聞いていると、“おもしろそう”とか“バカバカしてしくていい”とか、すごく楽しみながら作っていた感じだったんですね、当時。『レティクル座妄想』の後にバンドの活動が一度休止になったから、病みそうなギリギリの精神状況に陥っていたのかなと思っていたんですよ。歌詞の内容もすごいことになってますから。

本城:僕が唯一覚えているのは、『レティクル座妄想』を作ったときに、長いこと飼っていた猫が死んだので、ちょっとヘコんでたなって。それ以外はよく覚えてない。レコーディング中、みんなでゲームやっていたことぐらいしか。

橘高:アルバムのコンセプトとして狂気的なことを歌っているけど、メンバー間がギスギスで顔を合わせたくもないという制作現場ではなかったよ。スタジオの応接室で、みんなでゲームしながらギャハギャハやってたから。アーティストとして、その明るさをアルバムには入れないようにしてたけど。『レティクル座妄想』という作品を、作家として最大の力を使って、みんなで生み出したってことだよね。

大槻:あの頃、僕はテレビタレントさんもやらせていただいて、突然、岡本夏生さんからメロンを送ってもらったことあって(笑)。それを今、強烈に思い出したな〜。

橘高:『レティクル座妄想』を作った当時の思い出は、岡本夏生さんからのメロンなんだね(笑)?

大槻:しかもマスクメロンだよ。

本城:それは忘れられないよ。強烈な思い出になるよね。

大槻:なんか、そういうのはよく覚えてるな〜(笑)。あと安部譲二さんとさ、ダチョウ倶楽部とさ、テレビが一緒になってさ。本番前に楽屋裏で安部譲二さんが振り向いて、ダチョウ倶楽部にコソコソってなにか言って出ていったんだよ。上島竜兵ちゃんが「先生は今、俺らにネタ試しをしたんだよ」って言ったのが、芸人さんの言葉っぽくてすごくおかしかったんだよな〜。…ごめん、全然伝わらないね(笑)。でも、あと一個だけ。楽屋袖のタレントさんの前で、小堺一機さんと柳沢慎吾さんが、『警視庁24時』みたいなのをガッツリやってくれるんだよ。見事としか言いようがなくてさ。ああいうのが見れただけでもいい経験したね。

橘高:今度はタレント活動の思い出(笑)?

大槻:うん。

本城:いいよー、オーケン、いい(笑)。そういう話。

大槻:この頃って、まだ30代になっていなかったよね? 27〜28歳。だから、いろいろ芸の幅を広げたかったんじゃないかな。僕個人で言うと。

橘高:バンド的に言うと、実は『レティクル座妄想』を作った後に、しばらくバンド活動は休むっていう話は、もともとしていたんだよね。2年休むって言ってた。その休みの時期になにをするってことでもなくてね。2年契約の最後に筋少のアルバムを出すつもりはあったんだけど、その間はソロ活動をやってもいいよっていう、すごくいい条件でレコード会社が我々を受け入れてくれていたから。そのレーベルでバンドもソロも出していたから、別に不義理な行為でもなかったんだよ。結果、2年間で俺のEUPHORIAと大槻くんのソロを合わせたら5枚ぐらい出ているから。そういう意味では活動休止と言いながら、全然休止していなかった(笑)。ただ、デビューしてからバンドしかやっていなかった筋少のメンバーが、オトナになってちょっと離れた時期ではあったよね。結果、次の『ステーシーの美術』(1996年)では、メンバーそれぞれのキャラがハッキリしたものが、より楽曲に出てきた。

▲アルバム『ステーシーの美術』(1996年発表)
大槻:バンドとしては普通だよね、そういう時期があるというのは。

橘高:『レティクル座妄想』までは、バンドメンバーみんなでスタジオで固まっていろいろやってた。バンド青春期というか、昭和のやり方みたいな。そこから先が、いい意味で分業化できるようになっていったんだよね。セルフのプロデュース力も強くなったし、分業しても1枚のまとまったアルバムを作れる自信が付いていった。その制作スタンスがずっと続いているからね。

大槻:まあ、30年も経つと、いろいろあったけど、今となってはどうでもいいね(笑)。ねっ、ホントそう思うわ。

内田:覚えてるのは、EUPHORIAを橘高が始めるってのをオーケンが聞いて、「ソロやろう」って言ったこと。ああ、二人がそれぞれソロ活動するなら、僕もなにかやろうかなと思っていたら、両方から引っ張られた(笑)。EUPHORIAとオーケンのレコーディングして、ライブもやって。手伝わされましたよ。分かってないね、二人とも(笑)。

大槻:ああ、そうか。つまり内田くんはそんな乗り気じゃなかったんだね(笑)? いや、でも僕はおぞましいぐらい、なにも覚えてないんだよね。

──病んでる気配は微塵もなかったというわけですね。

大槻:だからライブをどういうふうにやってたんかなって。MCをどういうふうに持っていってたんかな。

橘高:いつも通りだったよ(笑)。

大槻:『レティクル座妄想』以外の馴染みある曲とかもライブでやってたわけでしょ?

橘高:もちろんだよ。いつも通りに(笑)。

大槻:この前、TVドラマ『不適切にもほどがある』を観たんだけどさ。あの頃、僕はステージでビールの一気飲みとかしてたよね。いやぁ〜、不適切にもほどがあるよ(笑)。あと「おヌードちょうだい」つって脱いだりとかさ。

橘高:やってた。あと、あなたは鼻かんだティッシュを客席に投げてましたよ(笑)。

大槻:それはもっと昔だと思うよ。投げたか、いや〜、凄いね。

本城:今となっては、“フテホド”ですな(笑)。

──コンプライアンスって言葉で全て禁止されそうな事柄ばかりですから。

橘高:昔からコンプライアンスがあったら、俺たち、今ここにいないよ(笑)。

──こういう時代に、こんな内容のニューシングルを、よくぞ作りましたね。

大槻:結果的にシングルですけど、いわゆるシングルの曲じゃないですよね。

橘高:それこそが35周年だなと思ってる。こういうスタンスでずっとやってきたバンドが、35周年に出す楽曲として、すごく適切だなと思う。普通じゃない楽曲をアニバーサリーシングルで出すというのが筋少らしさだし、筋少が35年も続いている理由がここにある、と俺は思ってる。だって「医者にオカルトを止められた男」だよ(笑)。

──『レティクル座妄想』の時期と比べたら、「医者にオカルトを止められた男」は明るい側面も感じられましたが?

大槻:まあ、そうですね。あんまり破滅的な詞はいかがなものか、と僕は思いますよね。やっぱ希望がないと。希望があったほうがいい、絶対。

橘高:ずいぶんポジティヴなコーティングがされている。でも中身は変わってないなとも思う。新曲は『レティクル座妄想』的な面も持っているし。

■忘れちゃうんだろうな〜。でも忘れるから■次のことをやりたいって思う

──バンドが歴史を重ねていくと、こうして周年事もいろいろあって、未来を見ながら過去も振り返る機会もずっと並走しています。筋肉少女帯というものが、さらに自分の中でクリアに見えていく感じもありますか?

大槻:過去を振り返らない、特にロックだから。というのも必要かと思うんだけど、僕はね、振り返っても過去を思い出せないっていう。

本城:新しいな(笑)。

橘高:新しいロックだ(笑)。

大槻:うん、もはやロックを超えたよね。振り返っても振り返れない…思い出せないんだもん。ヤバいよね〜。

本城:その気持ち、ちょっと分かるよ(笑)。

内田:うん、そうだよ。

大槻:その挙句、岡本夏生さんからメロンをもらったことしか思い出せない。あっ、もうひとつ思い出した。飯島愛さんはいい人だった。

橘高:ライブにも来てくれたね。

大槻:来てくれたよね。あの人は、久しぶりに会うと、前に会ったときの話題から入るんだよね。やっぱ飲み屋さんとかで鍛えたんだと思うんだけど。「久しぶり。あんた、この間のあれだけどさ」つって。いい人だなと思って。ほら、上島竜兵ちゃんも。あと田代まさしさんも良くしてくれてたとかさ。そういうことは思い出すな〜。羽賀研二さんにお礼を言われたりしたな。「アンナちゃんのこと良く書いてくれたね。ありがとう」つってさ。いろいろ曰わく付きの方のことを、やたら思い出すな〜(笑)。

橘高:思い出こそ生きた証である、と俺は思ってるんだけど、残していく記憶が、大槻くんの場合はそこなんだなって思ったね(笑)。それが大槻くんの生きた思い出だから(笑)。

内田:走馬灯(笑)?

橘高:でも、こうやってアニバーサリーとして、定期的に振り返り作業をバンドでやるとおもしろいのは、時間が経たないと見えてこないものもあるからで。さらに、リスナーには当時を知らなかった世代の人もいるから、当時を疑似体験できるのは素晴らしいと思う。逆に当時体験した人がタイムトリップするように、一瞬であの頃に連れ帰ってくれるマジックが音楽にはあるからね。我々メンバー自身も当時を振り返って、こういう思いで作ったよというのを再確認できる。それって、いよいよ36年目を迎えるバンドが前を向く作業として、とてもいいものになったなと思っている。

▲本城聡章 (G)
──セルフカバー「さらば桃子」も、「ノゾミ・カナエ・タマエ」も、原曲を重んじたアレンジにしているのは、そういった理由があるからですか?

橘高:曲にもよるんだけど、今回はそうだね。音楽はノスタルジーに勝てないものだから、当時『レティクル座妄想』を聴いていた人はセルフカバーに違和感を抱くかもしれない。でも、その違和感も楽しんでほしい。それも含めて、アニバーサリーというお祭りだから。この楽曲に再びみんなが注目してくれるのは、セルフカバーのいいところだと思う。昔の写真と今の写真を並べて、アニバーサリーを表現するという手法がよくあるけど。それと一緒で、同じポーズのものを横に並べたほうがお互いがより際立つでしょ。それを楽しんでもらえたらと思ってる。だからアレンジは極力変えず。俺、ギターフレーズは当時のものを完コピしてます(笑)。“こんなのは50過ぎのギタリストが弾けるわけない”って、昔はキャリアあるミュージシャンにケンカ売るつもりで弾いてたから。そうしたら今、自分が自分にケンカ売られる年頃になっちゃって(笑)。弾けて良かったなと思ってます。

──確か、橘高さんは永遠の24歳って言い張ってませんでしたっけ?

橘高:だから弾けるんだけどね(笑)。

──5月にシングル発表と『レティクル座妄想』を記念したライブが2本、6月21日にはデビュー36周年記念ライブも予定しています。それを目前に控えた気持ちを聞かせてください。

大槻:とても楽しみですね、純粋に。ヘッドフォンで聴きながらスタジオで一人で練習するのを、もう始めようかなと思っているところで。

本城:偉い! 久しぶりに演奏する曲もありますからね。楽しみです。

橘高:35周年ファイナルのお祭りと、『レティクル座妄想』30周年のお祭りを重ねたものが5月のライブなんで、ただただ楽しんでもらえたら嬉しい。近年やっていなかった曲も披露できると思うので、それも楽しみにしていてほしいです。デビュー記念日である6月21日の<#筋少の日2024>は、この日を境に36周年に突入するんで、筋肉少女帯が未来に続く初日のライブになる。是非、観に来ていただけたらと思っています。

内田:橘高、しっかりしてるね〜。

本城:思うんだけど、こうやって周年で昔を振り返ったり、新しいことをまだまだやれるっていう幸せな環境があるからこそ、昔のことをよく覚えていないんだろうね。

橘高:「昔は良かったな〜」とか浸っていることにならなくて良かったね。

本城:そうだよね。こんな感じでずっとやっていけたらと思ってます。

内田:僕の周りの10コぐらい年下の友達は、みんな『レティクル座妄想』が好きで、“レティクル、レティクル”とうるせーんですよ。ちゃんとやらなきゃな。ライブ、頑張りまーす。

大槻:昔の『レティクル座妄想』のライブはもう覚えてないから、今度やる30周年記念ライブのことは、なんとか覚えておきたいので(笑)。でも忘れちゃうんだろうな〜。なんも覚えてないもんな。

橘高:いや、覚えてなさすぎじゃね(笑)。でも幸せなんじゃないの、それが(笑)。

大槻:忘れるから、次のことをやりたいって思うんじゃないですか。

本城:そうそう、そういうことだよ。

大槻:あと忘れてるのは、宇宙人のレティクル座星人に記憶を抜かれてるんだよ、きっと。

橘高:出た出た。30年前もそんなことばっかり言ってたよ(笑)。

大槻:ほんと? …あっ、言ってたわ〜。

──レティクル座で、同じく連れ去られたヒル夫妻にも出会ったと(笑)?
大槻:ねっ、そんなことも言ってたな。岡本夏生さんからメロンをもらったのも、レティクル座星人が植え付けた偽の記憶ね。

橘高:本当は、もらってなかったんだ(笑)?

大槻:なかったかもね、コワ〜い(笑)。

橘高:この調子、30年前と変わんない(笑)。こんな筋肉少女帯とライブでお会いしましょう。

取材・文◎長谷川幸信

■メジャーデビュー35周年 &『レティクル座妄想』リリース30周年記念盤『医者にオカルトを止められた男』

2024年5月08日(水)ダウンロード配信開始
2024年5月22 日(水)サブスク配信開始
配信リンク:https://tjc.lnk.to/MJnuVcYZ
【CD+DVD】TKCA-75235 3,500円+税
▼CD収録曲
01. 医者にオカルトを止められた男 ※新曲
02. さらば桃子 (2024ver.) ※新録音セルフカバー
03. ノゾミ・カナエ・タマエ (2024ver.) ※新録音セルフカバー
04. 医者にオカルトを止められた男 ※Instrumental
05. さらば桃子 (2024ver.) ※Instrumental
06. ノゾミ・カナエ・タマエ (2024ver.) ※Instrumental
▼DVD収録内容
<ツアー『一瞬!』~メジャーデビュー35周年記念>2023.11.22@Zepp DiverCity (TOKYO)より
01. サンフランシスコ
02. 混ぜるな危険
03. バトル野郎~100万人の兄貴~
04. 高円寺心中
05. ディオネア・フューチャー
06. サイコキラーズ・ラブ
07. 再殺部隊
08. 50を過ぎたらバンドはアイドル
09. Guru 最終形
10. 釈迦

■ライブ<「ノゾミ・カナエ・タマエ」~デビュー35thファイナル&『レティクル座妄想』発売30周年!>

2024年5月13日(月) 神奈川・川崎 CLUB CITTA'
open18:15 / start19:00
Support Member:三柴理(Pf) / 長谷川浩二(Dr)
▼チケット
前売 8,800円(全席指定 / 消費税込)
一般発売:4月20日(土)10:00
(問)CLUB CITTA' 044-246-8888

■ライブ<「さらば桃子」~デビュー35thファイナル&『レティクル座妄想』発売30周年!>

2024年5月31日(金) 東京・恵比寿 LIQUIDROOM
open18:00 / start19:00
Support Member:三柴理(Pf) / 長谷川浩二(Dr)
▼チケット
前売 8,800円(All Standing / 消費税込)
一般発売:4月20日(土)10:00
(問)ディスクガレージ https://info.diskgarage.com/

■ライブ<「#筋少の日2024」~筋肉少女帯メジャーデビュー36周年!>

2024年6月21日(金) 東京・豊洲 PIT
open18:00 / start19:00
Support Member:三柴理(Pf) / 長谷川浩二(Dr)
▼チケット
前売 8,800円(全席指定 / 消費税込)
一般発売:4月20日(土)10:00
(問)ディスクガレージ https://info.diskgarage.com/

関連リンク

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◆筋肉少女帯 レーベルサイト
◆筋肉少女帯 オフィシャルTwitter
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