【神尾佑 酒に交われば】2度の廃業危機を乗り越えて「酒で福島の良さを伝える」 福島市唯一の造り酒屋「金水晶酒造」

福島県出身の俳優・神尾佑(かみお ゆう)さんが県内の酒蔵を訪ね、その酒蔵にまつわる物語を紐解いていく番組「神尾佑 酒に交われば」。

日本酒王国福島県には、50を超える酒蔵がある。今回訪れたのは、福島市の「金水晶酒造」。2度の存続の危機を乗り越え、新たな一歩を踏み出した福島市唯一の酒蔵の物語だ。

2度の危機を乗り越えた、現在の姿

多くの人の憩いの場である、福島市郊外の「四季の里」。その目と鼻の先にあるのが「金水晶酒造 四季の蔵」だ。
ここで酒造りを始めたのは、ことし1月のこと。福島市の中心部にある福島稲荷神社でいただいた毎年恒例のお札。そのゆく先が…この新しい酒蔵だった。

再起のために新天地へ

「そもそも新しい蔵を建てるとは思ってもみなかった。ご先祖さまもビックリすると思う」と話すのは、四代目蔵元で会長の斎藤 美幸さん。

「金水晶酒造」の始まりの地

そのご先祖さまが明治28年に「金水晶酒造」を興した地は、福島市松川。新しい蔵との距離は約20キロある。いまは更地となってしまったこの場所に、精米、米研ぎ、仕込み、瓶詰めをする3つの蔵があり、ここで去年の暮れまで酒造りをしていた。

Google Earthでは、かつての酒蔵の姿が見られる

いまでは福島市に存在する唯一の酒蔵だが、これまでに2度、廃業の危機に直面した。

1つが、2011年の東日本大震災。当時は、父の正一さんが三代目蔵元で、美幸さんは東京にいた。正しい情報が入らず、「福島はダメなんじゃないか」という思いから父に「辞めよう」と伝えたこともあったという。しかし三代目は「こんな時こそ頑張らなければいけない」と酒蔵を守り続けた。

左側が、父で三代目蔵元の正一さん

一人娘の美幸さんは、東京に家族を残し、蔵を継ぐことに。2019年には、福島が誇る作曲家・古関 裕而さんにちなんだ純米大吟醸「古関メロディー」を発売。福島から”エール”を送った。

福島市出身の作曲家の偉業を伝える

しかし、2022年にもう1つの危機、福島県沖地震が起きた。全壊判定になってしまった酒蔵…立て直すと、最低でも1年は酒造りを休まなければならない。そこで、補修した蔵で酒造りを続けながら、並行して新たな蔵を建てる決断をした。「地震が来たらすぐ逃げて!」と蔵人に伝え、壊すギリギリまで酒を造り続けた。

「東日本大震災より揺れたような気がする」と美幸さん

そして3月、移転した新しい蔵のお披露目式が行われた。「どんな酒になるか不安だったが、思ったよりもすごくいい酒ができた」と、新たな蔵で醸した新酒を振る舞う美幸さんの姿があった。

お祝いを伝えたくて、東京から駆けつけたお客さんも

「福島市唯一の造り酒屋として、酒で福島の良さを伝えるのが使命」と話すように、移転後、酒の造り方をイチから変えた。コメはすベて福島県産に。そして、すべて純米酒に。現在は、2019年に福島県が酒造りに適したコメとして独自に開発した「福乃香」や「ひとめぼれ」を使っている。

移転新蔵の開所式にて

特別に、蔵の中を案内してもらった。こちらは、コメを蒸す「釜場」。小さい方が均一に蒸せるため、釜の大きさは以前の半分ほどだ。また、以前はコメをスコップで掘って冷ましていたが、釜の下に台車を付けることによって、蒸し上がったら釜ごと放冷機に移動させることが可能に。効率が飛躍的に良くなったという。

台車により、蒸し米をすぐ放冷機に運べるように

そして、酒造りに使う水は、すべて荒川の水に変えた。13年連続水質日本一を誇る荒川。新しい蔵をここに建てた大きな理由の一つが、この水だった。

酒造りに欠かせない水へのこだわり

重い扉の先は、密閉された仕込み蔵だ。室温は常に5度前後と、冬の仕込み時期と同じ温度に保たれている。

巨大なタンクも見当たらない。昔は半年間しか醸造期間がなかったため、その間に1年分の酒を造ったり保存したりするのにタンクがたくさん必要だった。しかし新しい蔵では、小さいタンクで次々に造って、常に搾りたてが楽しめるようになった。真夏以外ほとんどの時期で酒を醸す。だから「四季の蔵」だ。

環境により、タンクの大きさも変化

酒蔵に併設したショップには、新しい環境で醸したばかりの新酒が並ぶ。「お酒は飲まないとわからない」ということで、試飲できるコーナーも。メダル1枚100円で、どんな酒なのかテイスティングできる。

まさに出来立ての酒がズラリ

しかし、ひと口では物足りない神尾さん、しっかりグラスでいただくことに。

まずは、「純米吟醸 あらかわ」から。荒川の水で育てた酒米を荒川の水で醸した、まさに福島市の酒だ。辛口で、力強い一杯。以前の蔵よりもミネラルが多い硬水に変わったため、より辛口になったという。「飲めば飲むほど、ハマってくる。だんだんおいしくなってきた」と、神尾さんは話す。

以前より、さらに辛口に

こだわりは、酒以外のところにも。以前は金属のスクリューキャップだったが、一升瓶と同じキャップ(王冠)に。オシャレなうえ、香りが逃げないという。

すべてこのキャップに変更

さらに、この「あらかわ」の酒粕とみそを合わせた、変わり種のアイスも。酒粕の風味とみそのコクが楽しめるデザートに仕上がっている。

市内のジェラート店とコラボ

続いて、満を持して最近搾り始めたばかりの「金水晶 純米大吟醸」。大吟醸ならではの華やかな香り!印象的なラベルのマークは、美幸さんが提案した「金水晶」の漢字のシルエットだ。
福島市・飯坂名物の「ラジウム卵」を合わせてみると…「最高のアテ!」と神尾さんのお墨付きが。

自慢の味とラベル

ピンチをチャンスに変え、新たな一歩を着実に…。神尾さんからも”エール”を送りたくなる酒蔵との出会いとなった。

Chu!PRESS編集部

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