癌で余命宣告された父は「孫が欲しい」 ゴルフか出産か、葛藤した35歳の選択から10年後の今

佐藤靖子【写真:Getty Images】

45歳のママさんゴルファー・佐藤靖子が今なお戦い続ける理由

15歳の韓国アマチュア女王リ・ヒョソンの国内ツアー史上最年少Vで幕を閉じたメジャー大会・ワールドレディスサロンパス杯。若手が台頭する女子ゴルフ界を象徴した大会で、45歳の佐藤靖子(おもちゃ王国)は通算17オーバーの63位で4日間戦い抜き、爽やかな表情を見せた。1児の母で競技と子育てを両立するママさんゴルファー。唯一無二のゴルフ人生には優勝とは違う価値があった。

72ホールを戦い抜いた先に、愛娘が待っていた。最終日の最終9番ホール。佐藤はグリーンに上がると、見守る10歳の長女と笑顔で目配せした。パットを沈め、4日間を戦い終えると抱擁。「疲れて途中は足が棒になっていた。頑張れるのは子どもの応援のおかげ」。そう話すママの表情は清々しかった。

長女を出産した2013年も含め、1999年にプロになってから毎シーズン試合に出続けている。今季は最終予選会(QT)で44位に入り、レギュラーツアーと45歳以上が対象となるレジェンズツアーに参戦。「家族、主人の理解があってのこと」と感謝とともに充実感を漂わせるが、過去には女性アスリートとしての葛藤もあった。

今でこそJLPGA会員等の子どもを預かる託児所が会場に設置され、ママさんゴルファーが出場しやすい環境が整いつつある現在。しかし、かつては出産を経て現役を続けることは簡単ではなかった。佐藤が出産したのは35歳の時。4年ぶりにQTが通った年に妊娠が分かった。選手として、もうひと花咲かせたかった。

「応援してもらえるし、試合に出たい思いがあった。でも、癌で余命宣告を受けていた父は『孫が欲しい』と……。色々なことがあった年で、その時は迷った」

当時を思い出し、言葉を詰まらせた。それでも、今は断言できる。「本当に生んで良かった」と。試合を終えて自宅に帰れば、家事は全て自分でこなす。多忙の中でも現役にこだわるのは、娘に見せたい姿があるからだ。

「私は父親の頑張る姿を見せられて育った。子どもには可哀想な思いをさせてしまっているけど、頑張る背中を見てほしい」

佐藤の姿に感銘を受けた女性ファン「本当にかっこよくて…」

その思いは日々を懸命に生きる世の中の母たちにも届いている。

佐藤が21年3月の下部ツアーで初優勝を果たした際にファンになった女性はこの日、2人の子どもを連れて応援に駆け付けた。話を聞くと「自分も出産をしてママさんゴルファーさんの凄さをより感じていて。体の変化や家庭のこともありながら強いというのは本当にかっこよくて……」と目を潤ませていた。

子育てとゴルフの両立。もちろん苦労はあるが、佐藤は「今まではゴルフ1本になりすぎていたけど、子育てをすることでメリハリができた。それがゴルフにも生きているのかな」とメリットも実感する。

「若い子たちは30歳くらいで燃え尽きてしまうかもしれないけど、その先にゴルフの違う楽しみ方があることを伝えたい。色々な選択肢があればいいなと思う」

今季の目標の一つだったレギュラーツアーでの予選通過を達成し、進化を続ける45歳。「やれる限りはやりたいな」。まだまだ続いていく佐藤靖子のゴルフ人生。その姿は多くの人々の希望となる。

THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂 / Kaho Yamanobe

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