好調な売行きの最新SUV「安心して楽しく運転できる理由のひとつは、ブレーキの感触の良さ」/ホンダWR-V試乗

 モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太が『ホンダWR-V』に試乗する。ホンダのSUVシリーズの入門に位置づけられ、最量販ゾーンに投入されたWR-V。大きな特徴は求めやすい価格帯、程よい“強さ”を放つデザイン、そして使い勝手の良い広い室内空間の3つがあげられる。幅広い年代から支持を集めているWR-Vの魅力を深掘りしよう。

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 ホンダの新型SUV、WR-V(ダブリューアールブイ)の受注が好調だ。2024年4月22日のニュースリリースによると、3月22日の発売後約1カ月で受注は約1万3000台。月販販売計画は月3000台だから、好調な立ち上がりと言っていい。「軽自動車やコンパクトカー、SUV、ミニバンなどからの乗り換えを中心に、幅広い年代のお客様からご支持いただいている」という。

 WR-Vは車両価格の低いほうから『X』(209万8000円)、『Z』(234万9600円)、『Z+』(248万9300円)の3グレードで構成される。

 発売後約1ヵ月時点での一番人気は『Z』(55%)、次いで『Z+』(30%)、『X』(15%)となっている。ボディカラーの人気トップ3はプラチナホワイトパール(35%)、クリスタルブラックパール(28%)、メテオロイドグレーメタリック(18%)の順だ。

新型SUVの『WR-V(ダブリューアールブイ)』は2024年3月22日に発売。発売後1カ月(4月22日時点)で累計約1万3000台を受注。月間販売計画の4倍以上となる好調な立ち上がりを見せている。

 今回試乗したグレードは、人気の組み合わせで、『Z』グレードのプラチナホワイトパールである。『Z』と『X』の違いは、16インチホイール(ホイールキャップ)の『X』に対して、『Z』は17インチアルミやLEDフォグライトを装着。

『Z』は17インチアルミホイールを履く。骨太な幾何学的な切削デザインを採用する。

 インテリアでは、『X』のステアリングとシフトセレクターがウレタンなのに対し、『Z』は本革巻きになる。また、『X』のリヤにはドリンクホルダー付きのセンターアームレストが備わる。

インテリアは水平基調のデザインとし、スイッチ類を中央に配置することで運転しやすい空間を目指した。
タコメーターとマルチインフォメーション・ディスプレイを表示する7インチのフルカラー液晶デジタルグラフィックメーターとアナログスピードメーターを組み合わせたコンビメーターを採用。

 『X+』はシルバー塗装のルーフレールやクロームメッキのドアハンドルなど、『X』をベースにエクステリアに専用アイテムを採用することで差別化を図っている。

 WR-Vの登場により、ホンダのSUVのラインアップは充実することになった。250万円以下はWR-V、250万円〜350万円はヴェゼル(4月25日にマイナーモデルチェンジを果たし、魅力が増している)、350万円〜450万円はZR-Vというすみ分けである。

ホンダ・ヴェゼル『e:HEV Z・PLaY パッケージ(FF)』/プレミアムサンライトホワイト
ホンダ・ヴェゼル『e:HEV X・HuNT パッケージ(FF)』/ディーラーオプション装着車
ホンダZR-V 特別仕様車 BLACK STYLE

 ホンダのSUVラインアップを構成する最後のピースが、エントリーSUVに位置づけ、最量販ゾーンに投入するWR-Vというわけだ。

 WR-Vの特徴は第1に求めやすい価格、第2に力強い外観デザイン、第3に広い室内空間である。ボリュームゾーンであるコンパクトSUV市場に新型車を投入するにあたり、ホンダは市場調査を行った。

 すると、(例えばヴェゼルのような)都市型SUVを好む層が一定数いる一方で、力強くタフなイメージを好む層がいることがわかった。

 例えば、トヨタ・ランドクルーザー70やスズキ・ジムニーのような、本格オフローダーのスタイルである。WR-Vを見れば一目瞭然なように、力強さやたくましさをストレートに表現したスタイルだ。ヴェゼルとは対極にある。

 スクエアでぶ厚いノーズを見ると心配になるのは取り回し性だが、先にその点についてお伝えしておくと、見切りがいいせいか、狭い道での取り回しに苦労することはなかった。

ホンダWR-V『Z』

 着座位置は高めで、角を切り落とした長めのボンネットフードを見下ろす感覚である。筆者は座高が高めな部類(身長184cm)だが、着座位置が高くても頭上には充分に余裕があり、圧迫感は感じない。

運転席は、高いアイポイントによる見晴らしの良い視界と、操作しやすいステアリングやペダル配置によるセダンライクな運転姿勢を両立させている。

 最新モデルらしく、センターコンソールにスマホの置き場が用意されているし、USBのポートもある(Aタイプ2口)。

センターコンソール部に充電用USBジャックと便利なセンターポケットを設置。

 ボディサイズは全長4325mm、全幅1790mm、全高1650mmだ。ヴェゼルのスリーサイズは全長4340mm、全幅1790mm、全高1590mmだから、ほぼ同等ということになる。並べて見るとWR-Vのほうが立派に見えるのは、スクエアなフォルムの効果だろう。

ホンダWR-V『Z』。ボディカラーはプラチナホワイトパール、内装色はブラック。車両本体価格は234万9600円。

 パッケージングの妙で、後席の居住性は高く、荷室は広々としている。荷室を狭くすれば後席はもっと広くなるが、ヒップポイントが後ろになるためリヤホイールハウスの張り出しに対してヒップがもぐり込む格好になるため、乗り降りがしづらくなる。逆に荷室の広さを重視してヒップポイントを前にすると、ひざ前が窮屈になる。

 WR-Vの開発にあたっては、後席を使うシチュエーションが多いと想定。チャイルドシートの載せ降ろしのしやすさにも気を使ったアクセスしやすい設計になっている。

 筆者が運転席でドラポジを取った状態で後席に座っても、ひざ前に充分なスペースが残る。

ホンダWR-V『Z』

 後席のヒップポイントを上げるとアイポイントが高くなって前方の見晴らしが良くなる。よくある手法だが、ヒップポイントを上げすぎると、降りるときに足着き性が悪くなる。

 WR-Vは足着き性を重視し、ヒップポイントは上げていない。では見晴らしはどうしたかというと、前席シートの肩を削いで(なで肩にして)“抜け”を確保し、見晴らしの良さを確保した。後席居住性に関してはエアコンの吹き出し口とUSBポート(タイプA)があるのもポイントだ。

後席は頭上空間の広さを確保。ドアライニングの下部や前席シートバックの形状を工夫することで、乗り降りがしやすく、ゆとりのある足元空間を実現している。
リヤベンチレーションを全グレードに標準装備。

 荷室は、複雑なシートアレンジを駆使しなくても、ラフに荷物を放り込めるような設計となっている。ホイールハウス張り出し部分の処理が顕著だが、荷室の壁面は可能な限りスクエアに処理し、視覚的にも使いやすそうに見える工夫を施している。

通常時の荷室の容量は458リッターを確保。荷室の壁面はフラットに近い形状で積載性の高さに貢献している。床下収納も用意する。

 実際に広く、荷室容量はヴェゼルを100リッター以上も上回る。電動開閉の機能はついておらず(マイナーチェンジ後のヴェゼルでは電動開閉に加え、スマホで開閉操作が可能)、手動だ。

 パワートレインは1種類。1.5リッター直列4気筒自然吸気エンジンとCVTの組み合わせである。

 最高出力は87kW(118ps)/6600rpm、最大トルクは142Nm/4300rpmを発生。一般道と高速道路を走った経験を踏まえて感想を述べれば、力加減に関しては必要充分と感じた。

パワートレインは静粛性と高出力を両立した1.5リッター DOHC i-VTC直列4気筒自然吸気エンジンを搭載する。

 音の印象は状況によって変わる。巡航時は静かだが、強い加速を求めた際(あまりそういう機会はないかもしれないが)は騒々しいエンジン音が耳につく。

 本人にその気はないのに、「ドライバー、キレてる?」と同乗者に勘違いされてしまいそうだ。たぶん、大抵の場合、キレてない。エンジンが頑張っているだけである。

 WR-Vを購入候補に挙げる際、チェックしておきたいのはパーキングブレーキだ。WR-Vに電動パーキングブレーキ(EPB)の設定はなく、レバーを引くタイプの一択である。

ホンダWR-V『Z』

 EPBではないので当然のことながらオートブレーキホールドの機能もついておらず、信号待ちなどではずっとブレーキペダルを踏んでいる必要がある。

 ハンドル、アクセル、ブレーキにクセはなく自然で、運転しやすい。そんなの当たり前じゃないかと思われそうだが、WR-Vの美点はドライバーの思いどおりに走り(ときに騒々しいが)、曲がり、止まることである。

 とくにブレーキの感触がいい。アクセルペダルを踏んで加速すれば、その後で必ずブレーキペダルを踏み、減速する。アクセルを踏んだときの力の出方や力強さばかり注目しがちだが、ブレーキペダルを踏んだときの減速の仕方や止まる寸前の挙動(スムースに、狙いどおりに止まれるか)も重要で、思いどおりに減速しない・止まれないと、運転のリズムが乱れて楽しくないし、疲労やストレスにつながる。

 WR-Vにはその心配がない。安心して楽しく運転できる理由のひとつは、ブレーキの仕立てがいいからではないかとにらんでいる。

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