大ヒット作『涙の女王』13話。主人公ヒョヌ(キム・スヒョン)の実家の庭で、オンマ(ファン・ヨンヒ)がだらしない長男(キム・ドヒョン)に、
「ニンニクを食べて(まともな)人間になれ!」
と怒鳴りつける場面があったのをご記憶だろうか。
日本の視聴者はこのセリフに「?」となりながらスルーしてしまった人が多いかもしれないが、これは韓国人なら小学生でも知っている話だ。
■韓国の建国神話、ニンニクを食べて人になった熊
「ニンニクを食べて人間になる」とは、我が国の建国神話「檀君神話」から来ている。高麗時代の古い歴史書のひとつ『三国遺事』に、ヨモギとニンニクを食べて人間に生まれ変った熊の話が出てくるのだ。
韓国人のニンニク信仰はこの神話に由来していると言ってもいいだろう。
私たち韓国人は日本の人と比べると確かにニンニクをよく食べる。焼肉などの肉料理には生ニンニクのスライスが添えられるし、クッパなどの汁物にもたいていニンニクのすりおろしが入っている。日本の知人は、韓国人は日本人が醤油を使うような感覚でニンニクをふんだんに使うと言っていた。
しかし、じつはニンニク信仰が強いのは韓国人より日本の人のほうではないかと思うことがある。
私は日本からの旅行者の飲み歩きに同行する「ソウル酒場ツアー」を行っているので、日本の人とじっくり話す機会が多い。
「日本では匂いを気にする人が多いので、翌日人に会う予定がないときしか食べられませんが、韓国に来ると思いっきりニンニクを食べられるのでうれしいです」
そう言う人が多い反面、「ニンニクをたくさん食べると眠れなくなっちゃうんです」とか、「ニンニクを食べると元気が出過ぎて困るんです」などと言って忌避する人もけっこういる。
これらはニンニクに対する期待や幻想が過剰だからこそ発せられる言葉だと思う。
私たち韓国人にとってニンニクはいつもそこにあるものなので、食べると興奮するとか精がつくという意識は逆に少ない。日本の人のニンニク幻想はおそらく彼らにとっては非日常的ともいえる強い匂いからきているのではないだろうか。
ニンニクにさまざまな効能があることは確かなようだが、やたらと量を食べても効果がないどころか胃を荒らすことにもなりかねない。1~2粒を毎日食べ続けるくらいがよいそうだ。その意味で、私たち韓国人はニンニクを摂り過ぎているとも言える。
私が注目するニンニクの効能は肝機能の回復だ。日本の連休中に5度も酒場ツアーを行ったので、今朝もニンニクのすりおろしをたっぷり加えたキムチチゲをすすっている。